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第二章 拡がりゆく世界
第39話 肉と魚
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2人は入り口前で物売りたちの客引きを振り切りながら、急ごしらえの市場の門をくぐった。
市場は小さな街のように造られていた。門の内側は半円の広場になっていた。そこから伸びる中央通りには馬車がすれ違える程の大通りがあり、その左右に急ごしらえの店舗が作られていた。門から見て右手が家畜の肉を扱う店の列であり、左手が海産物を扱う店の列だった。
広場では2つの見世物が行われていた。
右手では、何十人もの人間が大きな梯子の側に人垣を作っていた。
その梯子は、店の右列一番手前の店に立て掛けられ、そこには内臓を抜かれ、皮を剥がれたばかりの巨大な豚が逆さ吊りにされていた。
取り出された内臓は大きな台の上に置かれ、2人の女が水を入れた桶でそれを洗っていた。彼女たちは腸の外側を洗い終えると、今度はすべて裏返しにして新しい水でもう1度丁寧に洗い直した。内臓を抜かれた胴体は、血抜きのための逆さ吊りが終わると、大きな台の上に転がされた。2人の筋肉質な肉屋の男が、大きな包丁を持って腹の切れ目を肛門と喉まで広げると、さらに切れ目を深くして胴体を2つに割った。2人は顎から汗を滴らせながら、客の前の商品台に大きな肉塊を2人がかりで投げるように置いた。
「さあ、早い者勝ちだ。最高の豚肉だ。こんな上物二度と出ないぞ。1切れ良銭5枚だ!」
肉屋がと叫ぶと、見物していた客たちは先を争って、肉を買い求めた。2人の肉屋は小分け用のナイフで猪の肉を小さく切り刻むと、藁紙に包んで客の次々と手渡し、代わりに良銭を受け取った。その銭は2人の足元にある大きな木箱に投げ込まれたが、すぐに一杯になり、別の木箱が持ってこられた。
ある女が肉を買おうと銭を差し出した。
「おっと、ビタ銭はお断りだよ」
肉屋の男は断った。
「これしか持ってないんだよ」
「じゃあ、ビタ銭8枚だ」
女はしぶしぶ8枚払って肉を受け取った。
「さあさ、皆さんできるだけ良銭でお願いするよ」
男は叫んだ。
肉はその後も飛ぶように売れ、最後には豚の頭だけが残った。
左手でも多くの人が垣根を作っていた。
左列一番手前の魚屋の前には、横長の大きな台が置かれ、その上には、はらわたを抜かれた大きな鮪が置かれていた。そこの側に魚屋が3人立って、その解体作業に取り掛かろうとしていた。
2人の男が鮪まぐろをしっかりと抑えると、短めの包丁を持った初老の男がそのえらを開いて鋭い刃物を突っ込んだ。骨の軋む音が聞こえると、鮪まぐろの頭の角度が少し変わった。2人の男がそれをひっくり返すと、初老の男が今度は反対側のえらから刃物を入れて刃先を少し動かした。すると鮪の頭は力が抜けたように台の上にしなだれた。2人の男がその胴体を押さえつけるともう1人の男が鮪の首を思いっきり両手で引っ張った。木の枝が折れるような音がして首が抜けると、見物人たちはどよめきの声を上げた。
さらに魚屋たちは、鮪まぐろの腹を両手を使って開いた。男たちが力を入れて腹を開く度に、骨の折れる音が響いた。そして剣のような細長い包丁を取り出すと、鮪の胴体を縦にまっ二つに切り始めた。包丁が音も無く動くと、大きな魚肉の塊が台の上にごろごろと転がった。
見物人たちは興奮して、口笛を鳴らしたり、囃し立てたりしたが、初老の男がガラガラ声で叫んだ。
「はい、はい、どんどん買ってくれ。1切れ良銭4枚だ。ビタ銭なら6枚だよ。ビタ銭なら割り増しなんてケチな事は言わねえよ。買ってくれ、買ってくれ」
観客たちは我先にと手を伸ばした。
「銭はそこの大かごに投げ込んでくれ。俺はエル・デルタ生まれのエル・デルタ育ち。この街のお客を信じてるから、いちいち銭の確認なんかしないよ。向かいの肉屋と違ってねえ」
魚の切れは藁紙に包まれて次々と手渡され、銭が大かごに投げ入れられる音はまるで銭の雨が降っているようだった。
魚肉が消えるまで長い時間はかからなかった。入り口の広場には猪の首と鮪の首が残った。
市場は小さな街のように造られていた。門の内側は半円の広場になっていた。そこから伸びる中央通りには馬車がすれ違える程の大通りがあり、その左右に急ごしらえの店舗が作られていた。門から見て右手が家畜の肉を扱う店の列であり、左手が海産物を扱う店の列だった。
広場では2つの見世物が行われていた。
右手では、何十人もの人間が大きな梯子の側に人垣を作っていた。
その梯子は、店の右列一番手前の店に立て掛けられ、そこには内臓を抜かれ、皮を剥がれたばかりの巨大な豚が逆さ吊りにされていた。
取り出された内臓は大きな台の上に置かれ、2人の女が水を入れた桶でそれを洗っていた。彼女たちは腸の外側を洗い終えると、今度はすべて裏返しにして新しい水でもう1度丁寧に洗い直した。内臓を抜かれた胴体は、血抜きのための逆さ吊りが終わると、大きな台の上に転がされた。2人の筋肉質な肉屋の男が、大きな包丁を持って腹の切れ目を肛門と喉まで広げると、さらに切れ目を深くして胴体を2つに割った。2人は顎から汗を滴らせながら、客の前の商品台に大きな肉塊を2人がかりで投げるように置いた。
「さあ、早い者勝ちだ。最高の豚肉だ。こんな上物二度と出ないぞ。1切れ良銭5枚だ!」
肉屋がと叫ぶと、見物していた客たちは先を争って、肉を買い求めた。2人の肉屋は小分け用のナイフで猪の肉を小さく切り刻むと、藁紙に包んで客の次々と手渡し、代わりに良銭を受け取った。その銭は2人の足元にある大きな木箱に投げ込まれたが、すぐに一杯になり、別の木箱が持ってこられた。
ある女が肉を買おうと銭を差し出した。
「おっと、ビタ銭はお断りだよ」
肉屋の男は断った。
「これしか持ってないんだよ」
「じゃあ、ビタ銭8枚だ」
女はしぶしぶ8枚払って肉を受け取った。
「さあさ、皆さんできるだけ良銭でお願いするよ」
男は叫んだ。
肉はその後も飛ぶように売れ、最後には豚の頭だけが残った。
左手でも多くの人が垣根を作っていた。
左列一番手前の魚屋の前には、横長の大きな台が置かれ、その上には、はらわたを抜かれた大きな鮪が置かれていた。そこの側に魚屋が3人立って、その解体作業に取り掛かろうとしていた。
2人の男が鮪まぐろをしっかりと抑えると、短めの包丁を持った初老の男がそのえらを開いて鋭い刃物を突っ込んだ。骨の軋む音が聞こえると、鮪まぐろの頭の角度が少し変わった。2人の男がそれをひっくり返すと、初老の男が今度は反対側のえらから刃物を入れて刃先を少し動かした。すると鮪の頭は力が抜けたように台の上にしなだれた。2人の男がその胴体を押さえつけるともう1人の男が鮪の首を思いっきり両手で引っ張った。木の枝が折れるような音がして首が抜けると、見物人たちはどよめきの声を上げた。
さらに魚屋たちは、鮪まぐろの腹を両手を使って開いた。男たちが力を入れて腹を開く度に、骨の折れる音が響いた。そして剣のような細長い包丁を取り出すと、鮪の胴体を縦にまっ二つに切り始めた。包丁が音も無く動くと、大きな魚肉の塊が台の上にごろごろと転がった。
見物人たちは興奮して、口笛を鳴らしたり、囃し立てたりしたが、初老の男がガラガラ声で叫んだ。
「はい、はい、どんどん買ってくれ。1切れ良銭4枚だ。ビタ銭なら6枚だよ。ビタ銭なら割り増しなんてケチな事は言わねえよ。買ってくれ、買ってくれ」
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魚の切れは藁紙に包まれて次々と手渡され、銭が大かごに投げ入れられる音はまるで銭の雨が降っているようだった。
魚肉が消えるまで長い時間はかからなかった。入り口の広場には猪の首と鮪の首が残った。
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