ガレオン船と茶色い奴隷

芝原岳彦

文字の大きさ
上 下
37 / 106
第二章 拡がりゆく世界

第34話 ペテロの帰還

しおりを挟む
ペテロだ。

 ヨハネの心に衝撃が走った。ヨハネは馬車の側から離れるわけにはいかなかったが、夢中で手を振り返した。



 そのうちハシケは桟橋にたどり着き、その若者は、縦長の背嚢はいのうを背負いなおすとヨハネに向かって大股で走ってきた。そしてヨハネに肩で思い切り体当たりをした。ヨハネは吹き飛ばされて仰向けに倒れた。その上からその男はヨハネを満面の笑みで覗き込んだ。



「よお! 久しぶりだな! 半年ぶりか!」

 金髪に茶色の目、そして平らな顔。すっかり日焼けして別人のようになっていたが、間違いなくペテロだった。

 ヨハネは仰向けのまま下から思いっきりペテロの股間を右足で蹴り上げた。ペテロはとっさに股間をかばおうと足をすぼめたが足の先が急所に当たった。呻うめき声を上げてペテロがしゃがみ込むと、ヨハネは背中をさすりながら起きあがり、叫んだ。

「ほら、立て!」

 ペテロは股間を押さえながら立ち上がると、しばらくヨハネを睨んでいたが、破顔一笑はがんいっしょうすると、大声でヨハネに笑いかけた。

「元気だったが!」

 二人は肩を抱き合って再会を喜んだ。

「どうしたんだ、これ。この古い箱馬車!」

 ペテロは馬車を見て大声で言った。彼は船の上にいたせいか声の大きさの加減ができなくなっていた。

「カピタンから借りてきた馬車だよ。お前を迎えに来るために借りたんだ。荷物もあるだろ」

「よく借りられたな!」

「頼み込んだんだ。そしたら一番古いのなら使ってもいいってさ」

「ほんとかよ! これはすごいな。早速行こうぜ。みやげ話は山ほどあるんだ」

「その背嚢はいのうを中に入れてしまえよ」

 ヨハネが箱馬車の扉を開けると、大きな音がして扉は外れてしまった。蝶番ちょうつがいが腐っていたのだ。

「ははっ、ほんとボロだな。これ昔、カピタンが使ってたのだろ? まだあったのか」

「そうだよ。その背嚢はいのう、渡せよ。中に入れてしまおう」



 ヨハネがペテロの背嚢はいのうをひったくるとその背嚢はいのうは異常な臭いを放っていた。

「これ何が入っているんだ?」

 ヨハネが背嚢はいのうの口を開けた。中から黒カビと汗の臭いが噴き出して彼は咳き込んだ。



「なんだこれ! 何入れたんだよ」

「ははっ、洗濯もんだ。船じゃ洗濯なんかできないからな!」

「これ腐ってるだろ。もう着られないぞ」

「大丈夫さ。灰をぶっ掛けて桶の水に一日漬けとときゃ、なんとでもなる。さあ、早く商館に帰ってカピタンに報告だ。俺は斥候せっこうに行ってきたんだからな。報告をしなくちゃならない」

「分かった。急ごう」



 ヨハネは御者台に上がり、ペテロは背嚢はいのうと取れてしまった扉を持って箱馬車の中に入った。

 ヨハネが馬に一鞭を与えると、老馬はまた苦しそうに走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

処理中です...