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第一章 奴隷たちの島々
第17話 裂ける皮膚
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だが、カラタチの針のような棘は彼を躊躇させるのに十分なほど長くて鋭かった。
棘と一緒にカラタチの木を覆っている白い花がヨハネをあざ笑うかのように咲き誇っていた。
ヨハネは覚悟を決め、四つん這いになり頭を下げると、生垣に向かって進み始めた。
カラタチの棘がヨハネの頭頂部に刺さった。彼は歯を喰いしばり声を出さないように耐えながら進んだ。
柊モクセイの葉が彼の肩を切り裂き、カラタチの棘が頭や背中に突き刺さった。皮膚は破れ血が流れた。あまりの痛みにヨハネは歯を喰いしばり、口をきつく閉じながらうめき声を上げた。手には柊モクセイの落ち葉が食い込んでヨハネの手のひらは血で汚れた。
彼は柊モクセイの茂の中であまりの痛さにいったん立ち止まり、涙を流しながら引き返そうとした。
しかし、ここで引き返せば今までの痛みが無駄になるとヨハネは考え、奥へと進んだ。切り裂かれ腕から血が流れた。地面を掴む手のひらは裂け、膝の皮膚は破れた。
ガツン、と衝撃がヨハネの頭頂部を走った。
首の骨が縮むような衝撃を覚えて顔を上げると、彼は鉄格子までたどり着いていた。
鉄格子の穴1つの大きさは、人の頭ほどの正方形だった。
ヨハネは血まみれの手で鉄格子の両側を強く握り締めると、顔をそこへ押し込んだ。格子の向こう側にはあまり木は茂っておらず、若木の柊モクセイが隙間を置いて生えているだけだった。
そして3人の女奴隷の姿が満月の青い月明かりの中に立っていた。みな膝までの丈がある奴隷用の貫頭衣を着て、井戸端で何か話していた。ヨハネは耳を澄ましてその話の内容を掴もうとしたが、遠すぎて何も聞こえなかった。体中から血を流しながら、ヨハネはじっと待った。
そのうち3人のうち2人は奴隷小屋へ戻った。
残った1人は井戸の近くを離れ、裏庭の真ん中にまっすぐ立つと、月をしばらく眺め、そして目を閉じた。ヨハネの位置からはその娘の右側が見えた。その右腕に巻き付けられているのはヨハネの手ぬぐいだった。
あの娘だ。
ヨハネは興奮して声を上げそうになった。春の暖かい空気の中で、その娘は満月の青い光を全身に浴びて立ち尽くしていた。青い月光に照らされた彼女の横顔は青磁器のように光り、昼間汚れてしまった髪はきれいに洗われ丁寧に梳かれていた。
ヨハネはその姿を本当に美しいと思った。
その黒髪は優しく揺れ、横顔の小さな鼻は月の光で陰影を作っていた。貫頭衣に覆われた体は胸に緩やかな隆起を作り、裾から伸びた太ももは白昼の太陽よりも眩しく白光りしていた。
ヨハネは声を掛けようと口を開けたが、慌てて声を飲み込んだ。
他の奴隷に見つかるかもしれないし、定期的に当番の見張りが来るはずだからだ。
困ったヨハネはしばらく顔を土の上に伏せて考えていたが、ふと思いついて血だらけの手で土をかき回すと手に当たった小石を幾つか拾った。そして手首の力だけで娘のほうにそれを投げた。
石は力なく飛び、娘の足元のずっと手前に落ちた。娘は気が付かなかった。ヨハネはもう一度今度は力を入れてゆっくり石を投げた。今度は足のすぐ側に石は落ちた。
娘は怯えた様子でヨハネのほうを見た。もう一度、今度は力を抜いて娘の視線の先に落ちるように石を投げた。娘は体をこちらに向けて、か細い声で言った。
「誰かいるの」
棘と一緒にカラタチの木を覆っている白い花がヨハネをあざ笑うかのように咲き誇っていた。
ヨハネは覚悟を決め、四つん這いになり頭を下げると、生垣に向かって進み始めた。
カラタチの棘がヨハネの頭頂部に刺さった。彼は歯を喰いしばり声を出さないように耐えながら進んだ。
柊モクセイの葉が彼の肩を切り裂き、カラタチの棘が頭や背中に突き刺さった。皮膚は破れ血が流れた。あまりの痛みにヨハネは歯を喰いしばり、口をきつく閉じながらうめき声を上げた。手には柊モクセイの落ち葉が食い込んでヨハネの手のひらは血で汚れた。
彼は柊モクセイの茂の中であまりの痛さにいったん立ち止まり、涙を流しながら引き返そうとした。
しかし、ここで引き返せば今までの痛みが無駄になるとヨハネは考え、奥へと進んだ。切り裂かれ腕から血が流れた。地面を掴む手のひらは裂け、膝の皮膚は破れた。
ガツン、と衝撃がヨハネの頭頂部を走った。
首の骨が縮むような衝撃を覚えて顔を上げると、彼は鉄格子までたどり着いていた。
鉄格子の穴1つの大きさは、人の頭ほどの正方形だった。
ヨハネは血まみれの手で鉄格子の両側を強く握り締めると、顔をそこへ押し込んだ。格子の向こう側にはあまり木は茂っておらず、若木の柊モクセイが隙間を置いて生えているだけだった。
そして3人の女奴隷の姿が満月の青い月明かりの中に立っていた。みな膝までの丈がある奴隷用の貫頭衣を着て、井戸端で何か話していた。ヨハネは耳を澄ましてその話の内容を掴もうとしたが、遠すぎて何も聞こえなかった。体中から血を流しながら、ヨハネはじっと待った。
そのうち3人のうち2人は奴隷小屋へ戻った。
残った1人は井戸の近くを離れ、裏庭の真ん中にまっすぐ立つと、月をしばらく眺め、そして目を閉じた。ヨハネの位置からはその娘の右側が見えた。その右腕に巻き付けられているのはヨハネの手ぬぐいだった。
あの娘だ。
ヨハネは興奮して声を上げそうになった。春の暖かい空気の中で、その娘は満月の青い光を全身に浴びて立ち尽くしていた。青い月光に照らされた彼女の横顔は青磁器のように光り、昼間汚れてしまった髪はきれいに洗われ丁寧に梳かれていた。
ヨハネはその姿を本当に美しいと思った。
その黒髪は優しく揺れ、横顔の小さな鼻は月の光で陰影を作っていた。貫頭衣に覆われた体は胸に緩やかな隆起を作り、裾から伸びた太ももは白昼の太陽よりも眩しく白光りしていた。
ヨハネは声を掛けようと口を開けたが、慌てて声を飲み込んだ。
他の奴隷に見つかるかもしれないし、定期的に当番の見張りが来るはずだからだ。
困ったヨハネはしばらく顔を土の上に伏せて考えていたが、ふと思いついて血だらけの手で土をかき回すと手に当たった小石を幾つか拾った。そして手首の力だけで娘のほうにそれを投げた。
石は力なく飛び、娘の足元のずっと手前に落ちた。娘は気が付かなかった。ヨハネはもう一度今度は力を入れてゆっくり石を投げた。今度は足のすぐ側に石は落ちた。
娘は怯えた様子でヨハネのほうを見た。もう一度、今度は力を抜いて娘の視線の先に落ちるように石を投げた。娘は体をこちらに向けて、か細い声で言った。
「誰かいるの」
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