久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto

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第1次極東危機

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「今こそ!!今こそ、この日本に革新をもたらさなければならないのです!!我々共産党は皆様の明日を守ります!!飢えから救います!投票はぜひ我々共産党に」
 旧帝国陸軍の曹長であった平野は、この雑音でしかない選挙活動に嫌気がさしていた。
 駅前や集会場前など、人が集まるところには必ず共産党や社民党の立候補者が夢物語を語っている。
 そして、彼らが居る所には常に支持者が終結している。まるで寄生虫だ。

「あなたも現政権に不満があるでしょう!?」
 一刻も早くその場を立ち去りたいにも拘らず突然声を掛けられる。
 無視して離れようとしても、前に立ちふさがるのだ。
「今の政府は日本人をアメリカの奴隷にしようとしているのです!平和を愛する私たちを再び戦場へ送ろうとしているのです!共産党は断固反対し、皆様の貧困を解決します!」

 ――この女は何を言っているのだ。
 平野にとって、戦後の日本社会はそれまでとは大きく変わったものとなっていた。
 まず、共産党員が堂々と政府批判を行っていることだ。経済が一向に回復しないのはすべて三好総理率いる現政権の無策だと言う。公の場で政権批判を行えるのは、確かに民主化の結果であろう。
 そして、女性の表出化もまた大きく変化した事象だった。先のこともそうだ。女性にもかかわらず平然と異性に声をかける。
 やっとの思いで振り切れたが、女性はその後も他の通行者に声をかけ勧誘していた。
 悪いことに参政権を持つ貧困者は今もなお増え続けており、立候補者の演説に涙している者の数は非常に多い。
 その中には戦傷者の姿もある。噂では中国やソ連に戦後拘束され洗脳受けた日本軍人が数多く存在するそうだが、真相はわからない。
「今回の選挙、さすがにまずいぞ……」

 平野の懸念は正しかった。
 戦後の親米派政権である三好政権は圧倒的多数の民衆により大敗北し、政党それ自体が壊滅することとなった。与野党の双方に君臨したのは社会党や共産党を始めとした社会派政党だ。
 彼らは平和維持と主権の回復を訴え、日本本土に展開する全軍の撤兵を公言した。
 だが、最も国民を驚かしたのは、朝鮮戦争敗戦後の山口県に逃れた韓国亡命政府を承認し、多くの亡命者が日本国内を自由闊歩したことだった。
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