久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto

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赤い極東

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 国防長官グルーンフィールドもまた、日本の防衛に頭を悩ましていた。
 圧倒的な海軍力により日本海の制海権を連合国が失うことはない。ただし、そのためには優れた修繕設備が必要だ。アジアにおける最大の修繕設備とはすなわち日本海軍の工廠設備に他ならない。そして、それらは米ソを始め戦勝国が賠償として輸出、あるいは廃棄すべきとする設備でもある。
 横須賀の工廠は連合国に割譲されたものの、それ以外の工廠では既に重機や資材など何割かが賠償として輸出されていた。その輸出先の過半数は中国だ。
 
 海軍力のほか、陸軍力や空軍力の維持も同じだった。
 銃や弾薬の製造は平和産業ではなく、日本では完全に禁止されていた。航空機燃料も然りだ。
 そのため、必要な物資や燃料、弾薬の全ては米本国からの輸出に頼らなければならなかった。
 太平洋を挟んだ超長距離の補給線など、悪夢以外の何物でもないのだ。

 マッケンジーやグリーンフィールドといった反共派の苛立ちとは逆に、アメリカの共産主義者は我が世の春を謳歌していた。国務長官のレッドは、その際たる例だろう。
 ――自由主義陣営同士を殴り合わせ、弱った後に共産化を広める。
 ソ連が長年の準備期間を費やし導いた戦略だ。そして、それは見事に果たされた。
 日本での党員数は爆発的に増加し、反共の三好政権を倒した後は間違いなく日本に共産党政権が生まれるはずだ。仮にGHQが手を出しても、我々国務省の権力を無視はできない。軍政を敷くマッカーサーは所詮軍人に過ぎないのだ。

 ――グリーンフィールド。アジアはソ連が支配する。世界が求めているのは共産主義なのだよ……。
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