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赤い極東
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「ただのゼネストで収まるのか?いや、三好政権そのものが崩壊した段階で、我々はアジアを失うのか……」
アメリカ国務省において知日派筆頭であるマッケンジーは、日本の現状を憂いていた。
現在のホワイトハウスは、ルーズベルト政権時の反日許共とは大きく異なる方針の下にいた。中国大陸から中華民国が台湾に追い出され、その他のアジア各国にも共産主義が広まりを見せていたからだ。そのため、ソ連をはじめ共産主義を脅威として考え始めていたのだ。
しかし、一方で日本を弱体化すべきという考えはなおも根強く残っていた。二度とアメリカを侵攻できないよう全ての軍備を解体し、民主化のため戦前戦時に禁止されていた組合活動を許可し、その主役と期待される共産主義者を刑務所から解放した。
その結果、朝鮮戦争に参加すべき日本進駐軍は日本に足止めされ、後方基地としての機能を有していた港湾設備はデモ隊に破壊された。朝鮮半島が共産陣営のもとで統一されたのは当たり前の趨勢だ。
日本に関しても、第二次大戦戦勝国による日本農業国化の方針の下、GHQが主体となって重工業を禁止し、その設備を賠償として各国に輸出していた。そして、日々増え続ける進駐軍維持費を負担しなければならなかった日本は、一向に経済復興が進まない。
「経済は回復せず、明日を生きれるかもわからない国民の不安。食料そのものが不足している中、党員になれば配給を得られるか。なるほど、ホワイトハウスもGHQも日本の共産化を支援しているとも見ることもできるな」
マッケンジーが今恐れているのは、どうあがいても日本の共産化を無血では防げないことだ。
まず、進駐軍によるゼネストの強制解散。これは最悪だ。間違いなく、ソ連軍は日本人の救助を名目に人道的観点の下、北海道から本州へ南下するだろう。
では、このままゼネストを放置すればどうなるか。横浜港が攻撃され、その他の設備もどうなるかわからない。武力革命に繋がる可能性は非常に高い。
そして、現政権である三好政権が解散せざるを得なくなるまで追い込まれるとどうなるだろうか。左翼政権の発足は目に見えている。そうなれば文字通りアジアは共産化されるだろう。
「だが、アメリカが”日本が民主主義の下、平等かつ公平に行われた民衆の選挙”に手を出し、共産政権の確立を阻止したとすれば、果たして日本国民はアメリカを民主主義国と見るだろうか。それこそソ連や日本共産党が望む未来ではなかろうか。連合国による軍政から国民を開放する英雄を、わざわざ我々が作りだす必要はない」
実は、日本共産化の阻止は、たった1つの事で解決できる話でもあった。
多くの国民は食糧難と二度と戦争に関わりたくないと言う考えのもと、入党していた。
十分な食料支援と、重工業を含む迅速な経済復興。たったこれだけで日本はアジア共産化の防波堤として役立つだろう。
もちろん、それが出来ないから日本ではゼネストが生じているのだ。
すなわち、“被害を受けた戦勝国より、敗戦国であり悪の枢軸たる日本の復興を優先することは許されない”、という戦勝国のわがままが、現状を引き起こしているのだ。
アメリカ国務省において知日派筆頭であるマッケンジーは、日本の現状を憂いていた。
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