久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto

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赤い極東

3-7

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「亡命政府の受け入れだと!?」
 まだ釜山橋頭堡の戦いが繰り広げられていた朝鮮戦争末期、日本国総理大臣の三好はあまりの急展開に声を荒げた。この戦いは、韓国最後の市街地である釜山とその周辺を守る朝鮮戦争最後の戦いの事だ。
既に半島の大部分は北に支配され、韓国の支配領域は実質的に釜山とその周辺にまで減少していた。もはや、半島の最南端にまで北朝鮮軍に支配されていたのだ。
 この最期の戦いは、連合軍が制海権を支配していたため全方位から攻撃はされなかったがそれでも、釜山の西部・北部から半島国連軍は攻撃を受けていたのだ。

 もはや半島の命運が時間の問題となった段階で、GHQは日本に韓国の亡命政府樹立を日本政府に事前連絡なしに決定した。
 ”朝鮮戦争開戦時に日本を戦争に巻き込まないと宣言したGHQが日本を裏切った。”
 三好のほか全ての閣僚が同じ思いだった。
「山口県に10万人程度だそうです。連合軍基地を県内に設置し、基地内に韓国亡命政府を立てる予定だと……」
「何も連絡を受けてないぞ!山口に基地だと!GHQもいい加減にしろ!!」
 
 三好の怒りは当然だった。
 既に大量の密入国者が朝鮮半島から雪崩こむ中、朝鮮人による犯罪や半島人同士の乱闘など、山口県の治安は大幅に悪化していた。それは進駐軍でさえ、頭を悩ますほどだ。
 事実、進駐軍の内、本州や九州に配置された師団は多かれ少なかれ彼らから被害を受けていた。
「既に実現不可能な要求だと外務省が突っぱねておりますが、最上位命令だとしてこちらの話を一切受け入れられておりません。恐らく、総理がマッカーサーに直接会談しても変わらないかと……」
「そんなバカな話があるか!では我々日本政府は何のための存在なのか!」
 後にも先にも、これほどまで取り乱した三好の姿を見たものはいない。それは、閣僚の誰もがGHQに殴り込みに行くかと見間違うほどだ。
 一方、閣僚の誰もが三好と同じ気持ちだった。
 日本は日本人による日本政府が統治を行っていたが、その実はGHQ軍政下におかれていた。つまり、GHQが日本政府に行うのは命令のみであり、相談や連絡などは行われない。
 しかし、軍政を敷くとなれば日本の統治組織に共産圏諸国を含まなければならない。だからこそ、あくまでも日本政府により統治されている事となっていたのだ。

 だがしかし、本件は事実上の本土割譲に他ならない。そして、彼らの犯罪傾向は異常なまでに高い。
 この高さは、人種的な問題から生じたものではない。
 戦前から本土に住居を構えていた者や、厳しい軍隊で戦争を生き延びた幹部たちはそうではない。ただ、そういった人物は真っ先に半島に渡り、国連軍の前線で散っていった。
 いま日本に住む朝鮮半島出身者はその多くが北から逃れ、日本が海上警察組織が存在しないうちに密入国した者達だ。そのため、特に半島に近い山口県や福岡県では被害が甚大だった。そして、彼らは戦前からの在日朝鮮人を敵視していた。
 ここで、韓国系と朝鮮系という半島同士の争いに、更に在日系の三つ巴の争いが日本国内で勃発したのだ。
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