久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto

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赤い極東

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 7月の中盤に入っても、建国以来最大規模のゼネストは続けられていた。
 一方、朝鮮半島の戦局は日に日に悪化を続けている。
 
 まず、国連軍は戦局においてほとんど意味を成さなかった。
 ソ連による軍事支援を受けた重武装の歩兵師団や機甲師団は、いともたやすく戦線を突破し、国連軍を大いに傷つけた。
 国連軍に参加したのは大部分が欧米の白人の国だった。極東の半島でどうして自国民が死ななければならないのか、なぜ第2次大戦が終結しても平和が訪れないのか。彼らの祖国では朝鮮戦争への参戦がどのような価値を持つのか理解できてはなかった。ただ、国連での立場から参戦したに過ぎないのだ。
 参戦国の中にはイギリスやフランスと言った戦後復興が求められる国も、多数存在していた。限りある人的資源がこの地でさらに失われたのだ。士気の低下は免れない。

 一方の北朝鮮軍は朝鮮半島の統一という理念を掲げ、侵攻を続けていた。ソ連からの支援のほか、非公式ながら中国共産党からも義勇軍が派遣されており、少なくとも人員数では大きく勝っていた。
 そして、何より彼らの士気は異常なまでに高い。この戦争で功績を残せば将来の自分やその家族が飢えに苦しむ必要が無くなるからだ。一生に一度の機会が訪れたのだから、それを活かすほかない。
 そう考え、多くの北朝鮮軍兵士は並々ならぬ速度で侵攻を続けていたのだ。

 問題は韓国軍だった。
 彼らにとっても半島の統一は是が非でも成し遂げたい悲願に他ならない。しかし、開戦前の段階で韓国政府内は派閥争いに明け暮れていた。それは、朝鮮半島の北側がソ連率いる共産圏により独裁体制が整えられたこととは正反対だ。
 半島の南側は、アメリカをはじめとした民主主義的な西側諸国に支配されていた。その為、独裁体制は認められない。
 だからこそ、韓国国内に一様の政府が樹立した後も、その派閥争いは終わることが無い。開戦後も足を引っ張り合い、国家が無くなるか否かの段階にもなって、まだ1つにまとまっていなかった。それは、国家存亡の危機の段階でさえ同じだった。もっとも、その状態は極めて民主主義的なのかもしれないが……。
 
 このような事情から、敗退を続けた連合軍はもはや劣勢を覆せることが不可能なまで追い込まれることとなった。
 そして、第1次極東危機の原因とも言える、韓国の亡命政府樹立が山口県で行われたのだ。

 8月初日から始められた朝鮮戦争の最終局面、いわゆる釜山橋頭堡の戦いは、わずか2週間で終結した。
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