4 / 24
民主主義の崩壊
2-1
しおりを挟む
本当の飢えを知る者と若干の飢えしか知らない者、両者の違いは大きい。彼らは後者なのだろう。
帝国陸軍の曹長としてニューギニア戦線を生き残った平野 豊は、戦後幾度となく続けられるデモ行進を前に、そう感じていた。
彼自身、貧しい家庭に生まれたことから飢えというものを知らないわけではなかった。それでも、この30年という人生で経験した事を思うと、子供の頃の飢えは限界まで達してはいなかった。
彼が本当の意味の飢えを知るのは、太平洋戦争中のことだ。
ニューギニア戦線を戦った軍人で、飢えを知らない者はいない。海戦は幾度なく敗れ、制海権は失われていった。物資や兵士を満載し出航した輸送船か着くことはないのだ。
現地からの補給が無いのに、どうして生きていけると言うのか。平野自身も例外ではなく、むしろ今生き残っているのは奇跡とさえ思っている。
では、本土から見捨てられたから敵国に降伏できるのかといえば、そうでもなかった。断腸の思いで降伏すると言うのは、降伏先の軍隊が同じ地にいるからこそ可能なのだ。
平野がかつての自分たちが大本営のみならず、連合国からも無視されていたことを知ったのは戦後の事だった。制海権を失い輸送船を送れないのなら当然船は出ず、かつて世界第3位だった日本海軍にはもはや奪還作戦が出来るほどの軍備は存在しなかった。
結果、部隊の大多数は引き金を引くことなく壊滅し、残ったのは餓死した兵士の死体と飢えた兵士のみだ。一部の兵士は死者をも食していたが、死体が腐敗することなく残ることはなく、当然新鮮な死体も減少していく。そもそも食料が不足していたのだから、食べられる部位もほとんど無かったのだ。
20代の半ばで曹長の階級になったのも、こういった事情だった。結局、誰が死ぬのか解らない戦場で、上官が戦死したら次の階級者が上に立つ。足りなかったら、現場の判断で昇進させる。平野はそれで曹長に任命されただけだった。
帝国陸軍の曹長としてニューギニア戦線を生き残った平野 豊は、戦後幾度となく続けられるデモ行進を前に、そう感じていた。
彼自身、貧しい家庭に生まれたことから飢えというものを知らないわけではなかった。それでも、この30年という人生で経験した事を思うと、子供の頃の飢えは限界まで達してはいなかった。
彼が本当の意味の飢えを知るのは、太平洋戦争中のことだ。
ニューギニア戦線を戦った軍人で、飢えを知らない者はいない。海戦は幾度なく敗れ、制海権は失われていった。物資や兵士を満載し出航した輸送船か着くことはないのだ。
現地からの補給が無いのに、どうして生きていけると言うのか。平野自身も例外ではなく、むしろ今生き残っているのは奇跡とさえ思っている。
では、本土から見捨てられたから敵国に降伏できるのかといえば、そうでもなかった。断腸の思いで降伏すると言うのは、降伏先の軍隊が同じ地にいるからこそ可能なのだ。
平野がかつての自分たちが大本営のみならず、連合国からも無視されていたことを知ったのは戦後の事だった。制海権を失い輸送船を送れないのなら当然船は出ず、かつて世界第3位だった日本海軍にはもはや奪還作戦が出来るほどの軍備は存在しなかった。
結果、部隊の大多数は引き金を引くことなく壊滅し、残ったのは餓死した兵士の死体と飢えた兵士のみだ。一部の兵士は死者をも食していたが、死体が腐敗することなく残ることはなく、当然新鮮な死体も減少していく。そもそも食料が不足していたのだから、食べられる部位もほとんど無かったのだ。
20代の半ばで曹長の階級になったのも、こういった事情だった。結局、誰が死ぬのか解らない戦場で、上官が戦死したら次の階級者が上に立つ。足りなかったら、現場の判断で昇進させる。平野はそれで曹長に任命されただけだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
久遠の海へ ー最期の戦線ー
koto
歴史・時代
ソ連によるポツダム宣言受託拒否。血の滲む思いで降伏を決断した日本は、なおもソ連と戦争を続ける。
1945年8月11日。大日本帝国はポツダム宣言を受託し、無条件降伏を受け入れることとなる。ここに至り、長きに渡る戦争は日本の敗戦という形で終わる形となった。いや、終わるはずだった。
ソ連は日本国のポツダム宣言受託を拒否するという凶行を選び、満州や朝鮮半島、南樺太、千島列島に対し猛攻を続けている。
なおも戦争は続いている一方で、本土では着々と無条件降伏の準備が始められていた。九州から関東、東北に広がる陸軍部隊は戦争継続を訴える一部を除き武装解除が進められている。しかし海軍についてはなおも対ソ戦のため日本海、東シナ海、黄海にて戦争を継続していた。
すなわち、ソ連陣営を除く連合国はポツダム宣言受託を起因とする日本との停戦に合意し、しかしソ連との戦争に支援などは一切行わないという事だ。
この絶望的な状況下において、彼らは本土の降伏後、戦場で散っていった。
本作品に足を運んでいただき?ありがとうございます。
著者のkotoと申します。
応援や感想、更にはアドバイスなど頂けると幸いです。
特に、私は海軍系はまだ知っているのですが、陸軍はさっぱりです。
多々間違える部分があると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
鉄と草の血脈――天神編
藍染 迅
歴史・時代
日本史上最大の怨霊と恐れられた菅原道真。
何故それほどに恐れられ、天神として祀られたのか?
その活躍の陰には、「鉄と草」をアイデンティティとする一族の暗躍があった。
二人の酔っぱらいが安酒を呷りながら、歴史と伝説に隠された謎に迫る。
吞むほどに謎は深まる——。

女の首を所望いたす
陸 理明
歴史・時代
織田信長亡きあと、天下を狙う秀吉と家康の激突がついに始まろうとしていた。
その先兵となった鬼武蔵こと森長可は三河への中入りを目論み、大軍を率いて丹羽家の居城である岩崎城の傍を通り抜けようとしていた。
「敵の軍を素通りさせて武士といえるのか!」
若き城代・丹羽氏重は死を覚悟する!
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
吼えよ! 権六
林 本丸
歴史・時代
時の関白豊臣秀吉を嫌う茶々姫はあるとき秀吉のいやがらせのため自身の養父・故柴田勝家の過去を探ることを思い立つ。主人公の木下半介は、茶々の命を受け、嫌々ながら柴田勝家の過去を探るのだが、その時々で秀吉からの妨害に見舞われる。はたして半介は茶々の命を完遂できるのか? やがて柴田勝家の過去を探る旅の過程でこれに関わる人々の気持ちも変化して……。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる