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エピローグ 束の間の平和
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大祖国戦争の終戦後、ジュラブリョフ艦長はパラムシル沖海戦を思いだす。気が付けば海上に漂っており、黒々しい油が体をまとっていた時の感覚は人生を終えるまで忘れることはないだろう。
付近にも数名の海軍兵が波にさらされていた。たまたま近くに木材が流れていたため泳ぎつかみ、そしてそれが艦載していた救命ボートの破片だとわかり、状況をやっと理解できた。
――撃沈されたのか……。
駆逐艦響から放たれた魚雷は一切迷いなく駆逐艦レチーヴイの艦尾に直撃し、その衝撃で左舷側へ艦が流れ、別の魚雷が命中したのだ。レチーヴイは一気に二発の酸素魚雷を喰らい、数分持たずして海の底へ沈んでいったと記録されている。
「こっちだ、摑まれ!」
艦長として、部下をみすみす見殺しにはできない。早速、近くに倒れている水兵を木材に寄せる。
中にはすでに息が途絶えていたものもいた。死体を回収できるほどの余裕は残されていない。それが自艦の乗員だった時などは、最大限の礼をつくし、祈りをささげた。
数分か、数時間か。どれほど海上で漂っていたのかはわからないが、サーチライトが放つ強烈な光線を急に浴びることとなった。
「救助だ!味方が助けに来てくれたぞ!」
誰かが叫び、それに呼応して海上から笑顔があふれる。ジュラブリョフもこれで祖国へ帰れると安堵した。
しかし、よく見るとおかしな部分もあった。そもそも、海軍は今占守島への上陸戦を継続しているはずだった。こちらへ救援を送るだけの余裕などないはずだ。そして、艦影を視認し確信した。
「違う!あれは日本の艦だ!」
ジュラブリョフが発した言葉が多くの水兵を震撼させた。戦闘後の水兵など、機銃掃射の的でしかないからだ。いくら国際条約があるとしても、もみ消すことなんて勝利側からすれば簡単なことだ。
そして、運命を悟った。逃げ場のない海上でどうして生き長らえるだろうか。ならばと、せめて神へ祈りをささげ、その時を待つほかなかった。せめてその光景を見ることが無いよう、視界を閉じただただ待つのみだった。
しかし、一向に銃弾が飛んでこないではないか。どうしてだ、そう思い視界を開くこととした。
彼の視界に映ったのは、数艇のカッターに救助される味方兵士の姿だった。
「どうして、日本軍が救助しているのだ」
その光景を即座に理解することはできなかった。何かの罠かと疑ったほどだ。
結局自らも救助され、駆逐艦に搭乗することとなった。救助されるまで知る由もなかったが、この艦は駆逐艦ではなかった。正しくは、海上挺身隊の1隻、海防艦“福江”だ。
宇久奈はパラムシルでの海戦後、福江を救助に当て、響と択捉の2隻で占守島へ向かっていたのだ。そのため、福江には笠戸の乗員とソ連軍水兵が乗り込んでいた。
福江は得撫島へ単艦で帰港し、終戦を迎えた。
ジュラブリョフをはじめ、救助された多くのソ連軍水兵は後に占領の為上陸したソ連軍と共に引き上げられることとなった。この時、上陸したソ連陸軍の日本軍に対する高圧的な行いに対し、彼ら海軍が日本人を守ったのは、戦後も語り継がれる美談だった。
千島列島の日本軍は、その多くが捕虜としてシベリア抑留を経験することとなったが、彼ら海上挺身隊の面々は早い時期に帰国が許されることとなった。これは、ジュラブリョフとその部下たちの活躍が大きい。
付近にも数名の海軍兵が波にさらされていた。たまたま近くに木材が流れていたため泳ぎつかみ、そしてそれが艦載していた救命ボートの破片だとわかり、状況をやっと理解できた。
――撃沈されたのか……。
駆逐艦響から放たれた魚雷は一切迷いなく駆逐艦レチーヴイの艦尾に直撃し、その衝撃で左舷側へ艦が流れ、別の魚雷が命中したのだ。レチーヴイは一気に二発の酸素魚雷を喰らい、数分持たずして海の底へ沈んでいったと記録されている。
「こっちだ、摑まれ!」
艦長として、部下をみすみす見殺しにはできない。早速、近くに倒れている水兵を木材に寄せる。
中にはすでに息が途絶えていたものもいた。死体を回収できるほどの余裕は残されていない。それが自艦の乗員だった時などは、最大限の礼をつくし、祈りをささげた。
数分か、数時間か。どれほど海上で漂っていたのかはわからないが、サーチライトが放つ強烈な光線を急に浴びることとなった。
「救助だ!味方が助けに来てくれたぞ!」
誰かが叫び、それに呼応して海上から笑顔があふれる。ジュラブリョフもこれで祖国へ帰れると安堵した。
しかし、よく見るとおかしな部分もあった。そもそも、海軍は今占守島への上陸戦を継続しているはずだった。こちらへ救援を送るだけの余裕などないはずだ。そして、艦影を視認し確信した。
「違う!あれは日本の艦だ!」
ジュラブリョフが発した言葉が多くの水兵を震撼させた。戦闘後の水兵など、機銃掃射の的でしかないからだ。いくら国際条約があるとしても、もみ消すことなんて勝利側からすれば簡単なことだ。
そして、運命を悟った。逃げ場のない海上でどうして生き長らえるだろうか。ならばと、せめて神へ祈りをささげ、その時を待つほかなかった。せめてその光景を見ることが無いよう、視界を閉じただただ待つのみだった。
しかし、一向に銃弾が飛んでこないではないか。どうしてだ、そう思い視界を開くこととした。
彼の視界に映ったのは、数艇のカッターに救助される味方兵士の姿だった。
「どうして、日本軍が救助しているのだ」
その光景を即座に理解することはできなかった。何かの罠かと疑ったほどだ。
結局自らも救助され、駆逐艦に搭乗することとなった。救助されるまで知る由もなかったが、この艦は駆逐艦ではなかった。正しくは、海上挺身隊の1隻、海防艦“福江”だ。
宇久奈はパラムシルでの海戦後、福江を救助に当て、響と択捉の2隻で占守島へ向かっていたのだ。そのため、福江には笠戸の乗員とソ連軍水兵が乗り込んでいた。
福江は得撫島へ単艦で帰港し、終戦を迎えた。
ジュラブリョフをはじめ、救助された多くのソ連軍水兵は後に占領の為上陸したソ連軍と共に引き上げられることとなった。この時、上陸したソ連陸軍の日本軍に対する高圧的な行いに対し、彼ら海軍が日本人を守ったのは、戦後も語り継がれる美談だった。
千島列島の日本軍は、その多くが捕虜としてシベリア抑留を経験することとなったが、彼ら海上挺身隊の面々は早い時期に帰国が許されることとなった。これは、ジュラブリョフとその部下たちの活躍が大きい。
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