久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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赤く染まる北の大地

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「早く逃げろ!死にたいのか!!」

 北海道といっても、終戦後に戦争が行われているのは留萌から釧路よりも北に位置する地域のみだ。
 そして、戦争といっても、その実は虐殺に他ならない。なぜなら、日本人のほとんどは武器を有していないからだ。
 降伏後に武器を廃棄した日本軍人にとって、今や鍛えられた肉体のみが武器だ。もちろん、戦車や機関銃に敵うはずはない。だからこそ、住民へソ連軍の侵攻を伝え、避難を促しているのだ。

 もはや大本営と連絡がつかないのだから、自分たちで動くしかない。そう判断、道内の各組織に住民の避難を命令したのが、個白中将だった。
 各港に旧軍関係者を“自主的”に配置させ、それ以外の全力で動けるすべての自動車で札幌まで輸送していた。それでも全く足りなく、徒歩で避難する住民の指揮や誘導もまた彼らの仕事だった。
 一方、留萌の惨状を知った後、旭川ではゲリラ戦も行われていた。この行為は完全に降伏文書に違反する行為で、極刑を免れない。

「火炎瓶投下!」
 住居の2階で待ち伏せていた兵士が、走行しているソ連軍の戦車を攻撃する。サイダー瓶でできた火炎瓶で頑丈な戦車を破壊することはできない。それは、彼らも強く知っている事だ。それでも、少しでも足を止めようとして攻撃を加えているのだ。
 実際、躍起になってソ連軍が銃撃を加えてくる。この少しの時間を稼げただけで彼らにとって成功なのだ。そして、そのわずかの後に3名が戦死を遂げた。
 

「貴国は降伏を受け入れたにもかかわらず未だ軍事行動を続けている。どういうつもりか?」
 第7師団司令部が置かれている旭川練兵場は既にソ連軍により占拠されていた。個白中将も今やソ連軍に捕虜として扱われている。
 しかし、捕虜となってもその誇りは失ってない。孤立無援の中、ソ連軍が寄越した軍使相手に胸を張り問いただしていた。
「国は降伏を受け入れたが、国民を捨てたわけではない。犯罪者から国民を守るのもまた軍人の務めだ。貴国の犯罪者たちをどう裁くのか、そちらの考えをお聞かせ願いたい」
「あなた方は勘違いをなされている。我々は住民に対して一切手を出してはいない。終戦を受け入れられない反乱分子を処刑しているに過ぎない。留萌では住民の多くが農具で攻撃を加えてきたのだ。こちらもそれ相応の対応を行わなければならないのだ。」

――なにをくだらんことを。よくペラペラと嘘を言いたてられるものだ。
 個白は、机の向かい側に座るソ連軍軍師に軽蔑の念を込め、にらみ返した。一方の軍師はニヤニヤとその表情を変えることはない。改めて敗戦国の命運を悲観するのみだった。
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