久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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赤く染まる北の大地

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「9月2日に、でしょうか?たしか降伏文書の調印式がその日だったと記憶しておりますが……」
 真岡への強襲上陸を指揮したペトロヴィッチ大佐は、占領した大泊にいた。
 北海道上陸の為に設置された司令部内でその話を聞き驚き、そして大いに疑問を抱くこととなったのだ。

 ――連合国としてソ連は9月2日に日本の降伏調印式に参加する予定なのに、なぜ上陸戦を再び指揮しなければならないのか。そして、どうして9月2日に上陸しなければならないのか。降伏後の占領であれば、サハリン戦で損害を受けた我々ではなく、祖国からの増援を待つべきだ。

 北をソ連が、南を日本が国土として登録されている樺太島は、8月25日に完全にソ連が支配することとなった。
 ソ連軍は樺太での開戦を前に、日本本土と南樺太との航路を潜水艦で封鎖していた。孤立を完了させた後で、国境線から戦車部隊を含む大規模な陸戦力で南下を開始したのだ。
 一方、日本はソ連軍の満州侵攻を受け、根こそぎ動員を行い国境線防衛にあたった。しかし、アメリカからのレンドリースで物資が豊富なソ連軍と比べて、日本軍のそれはお世辞にも満足とは言えなかった。

 戦端が開かれると同時に、ソ連軍は陸軍戦力のみならず海上からの砲撃、航空機からの機銃掃射・爆撃を行い、日本軍を圧倒していた。ただし、制海権を失い北海道から支援部隊を派兵できない日本は背水の陣で戦わなければならない一方、ソ連側は数多くの支援物資と兵士、戦車がこの島へ輸送されていた。
 開戦から数日後には強襲上陸戦も行われ、完全支配でもって樺太の戦いは終わった。今は投降した日本兵や住民を占領した港に集め、シベリアへ輸送しているところだった。

「その通りだ。調印式には祖国からも代表が参加する予定だが、我々の終戦を意味するわけではない。党は北海道からクリル諸島までを確保し、聖域を作ることを望んでいるのだ。」
 司令官からの言葉で、ペトロヴィッチは完全に理解する。
 ――祖国は降伏調印式後も戦いを続ける気か!何ということだ……。
「既に日本本土では降伏準備が完了し、上陸時の反撃は予想されていない。別部隊が稚内を占領する。君たちの部隊は留萌に上陸し港湾設備を確保することだ。幸運を祈る」
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