久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

文字の大きさ
上 下
25 / 36
赤く染まる北の大地

4-2

しおりを挟む
 アメリカ合衆国大統領ルーズベルトにとって、この日を迎えられたことはまさに神の恵みにほかならなかった。
 東京湾で行われた日本の降伏文書調印。ラジオを通じて全世界に流された時には歓喜のあまり涙を流さずにはいられなかった。欲を言えば故郷の名を冠した戦艦“ニューヨーク”でと思うが、最新鋭の戦艦とはすべてに劣ってしまう。

 ――真珠湾で散っていった兵士よ。これで許してくれるかね……。
 
 いくら戦争に勝利したからといって、自らの罪を棚上げすることはできない。日本の襲撃を確実に予期しながらそれをあえて無視したことで、多くの兵士が死亡した。
 しかし、その犠牲により国家国民が一体となり、この戦いを勝利で終わらせられた。さらにはソ連との良好な関係も構築でき、戦後は米英ソが世界を統治できることは間違いない。彼らの犠牲分以上の成果を得られたことは確信できるだろう。
「今日は本当に気分の良い日だ。……っ!!」
 ルーズベルトは突如胸を押さえ、苦しむ。座っていた椅子から倒れるように床へ落ち、その音ですぐに誰かが部屋に入ってきたことを最後に、彼の人生は幕を閉じることとなった。

 降伏調印式の翌日は本来、国民へ勝利宣言が行われる予定だった。しかし、彼の死去により突然予定が変更となり、結局国民に告げられたのはトルーマン副大統領の大統領就任のみだった。

 そのトルーマンの初仕事は、留萌に上陸したソ連軍を撤退させるための外交だった。
8月末にマッカーサーから北海道への連合軍部隊の派兵が提案されていたにもかかわらず、まるで裏交渉があったかのようにルーズベルトは一切許可することはなかった。 
 そして、ミズーリ上で降伏文書が調印された9月2日、ソ連軍が北海道留萌に上陸したのである。
調印式にはソ連からも代表者が参加したにもかかわらず、何ら連絡なしに上陸したのである。そして、アメリカ側からソ連側へ抗議はなされなかった。
 既に降伏の準備を行っていた北海道の日本軍は一切反撃することなく、ソ連軍を無血上陸させた。時期が時期だけに、多くの国民は占領軍が来たのだと考えたが、ソ連による全くの独自行為だと知ったのは後の事で、後の祭りだった。

 虐殺と強姦と拉致と、非道の限りが行われた留萌事件。本章はここから始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto
歴史・時代
 第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。 朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。 GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。 俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。 本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。 前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

仏の顔

akira
歴史・時代
江戸時代 宿場町の廓で売れっ子芸者だったある女のお話 唄よし三味よし踊りよし、オマケに器量もよしと人気は当然だったが、ある旦那に身受けされ店を出る 幸せに暮らしていたが数年ももたず親ほど年の離れた亭主は他界、忽然と姿を消していたその女はある日ふらっと帰ってくる……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

海将・九鬼嘉隆の戦略

谷鋭二
歴史・時代
織田水軍にその人ありといわれた九鬼嘉隆の生涯です。あまり語られることのない、海の戦国史を語っていきたいと思います。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...