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最期の連合艦隊
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臨時であるものの、旗艦となった駆逐艦“ポロヴォールヌイ”は、わずか数分で海の藻屑と化した。この真実を受け入れるのにソ連分艦隊の3隻は大きく戸惑い、そこで初めて日本海軍が進撃していたことを知る事となった。
その艦隊編成でさえ不明な状況下で、さらに片岡湾へ攻撃すべきか否か。それを決める指揮官が蒸発したのだから、残存艦隊はどうすべきか迷っていた。とりあえず敵砲台からの攻撃が収まったので、再集結のため移動していた駆逐艦“プロヴォールヌイ”が日本海軍の艦艇と衝突したのだ。
どうやら小型駆逐艦か護衛艦らしく、しかしあまりにも勢いよく衝突してしまったため艦前部が敵艦の片舷を突き破り、身動きが取れないらしい。
グネフヌイ級駆逐艦4隻の内1隻が沈没し、もう1隻が衝突し中破した現状で指揮を取っているのは、駆逐艦“レチーヴイ”艦長のジュラブリョフ海軍大尉だ。もう1隻の駆逐艦“ポスペーシュヌイ”も艦長が海軍大尉だが、ジュラブリョフの方が先に入隊していたということで指揮を取っている。
「日本海軍が何隻進軍しているのかわからない。各員見張りを厳となせ。“プロヴォールヌイ”はもうすぐだ」
警戒を怠らないように部下に伝えるも、不安は解消されることはない。日本海軍と言えば夜戦を想像するのは各国の常識とさえ言える。この霧の中で接近され酸素魚雷なるものを撃ち込まれたら、この艦は持つのだろうか。
――どうしてEK艦を入れてくれなかった。
ジュラブリョフ艦長はそう胸の中でつぶやく。
ソ連海軍の戦力増加を求めてアメリカが行った対ソ海軍訓練。対空、対潜のほか上陸戦の訓練を受け、更にはタコマ型フリゲート艦まで譲渡されたのだ。そのタコマ型をソ連では護衛艦を意味する“EK”の名をあてている。
グネフヌイ級には装備していない対空、対水上レーダー。EKにはそれを積んでいた。この霧の中だからこそ、こちらにまわしてくれればと思わずにはいられない。もっとも、日本海軍の艦隊がこの海域に存在していることを知っていれば、話は違ったのかもしれない。
衝突した駆逐艦“プロヴォールヌイ”の救援に向かうため航行している中、日本海軍を見つけようと索敵する乗員はまだ慣れない艦上で血眼に双眼鏡をのぞいていた。
ソ連太平洋艦隊はそもそも戦闘の経験が無いに等しい。先ほどから艦橋には乗員から四方八方から敵艦発見の報告があり、そのすべてが間違ったものだった。そして、艦尾の見張りからもたらされた艦影発見の報告もまた、あらたにそのうちに含まることとなった。
敵駆逐艦の後方へ回り込み攻撃しようと、進軍を続けていた海上挺身隊。単縦陣で進む駆逐艦響と海防艦2隻はいよいよ攻撃を始めようとしていた。
「左舷後方、敵艦発見!」
見張り員が大声で叫び、宇久奈も席を立ちその隣へ走る。駆逐艦“レチーヴイ”の艦尾を霧の中に確かに確認したのだ。敵艦の後方に位置を取る事は、宇久奈が期待した最高の展開だった。
「魚雷発射管は!?」
「砲雷撃、どちらも準備完了しております!」
「よし、魚雷撃ち方はじめ!」
3基の61cm3連装魚雷発射管のうち1基3門から魚雷が放たれ、そして戦闘が始まった。
その艦隊編成でさえ不明な状況下で、さらに片岡湾へ攻撃すべきか否か。それを決める指揮官が蒸発したのだから、残存艦隊はどうすべきか迷っていた。とりあえず敵砲台からの攻撃が収まったので、再集結のため移動していた駆逐艦“プロヴォールヌイ”が日本海軍の艦艇と衝突したのだ。
どうやら小型駆逐艦か護衛艦らしく、しかしあまりにも勢いよく衝突してしまったため艦前部が敵艦の片舷を突き破り、身動きが取れないらしい。
グネフヌイ級駆逐艦4隻の内1隻が沈没し、もう1隻が衝突し中破した現状で指揮を取っているのは、駆逐艦“レチーヴイ”艦長のジュラブリョフ海軍大尉だ。もう1隻の駆逐艦“ポスペーシュヌイ”も艦長が海軍大尉だが、ジュラブリョフの方が先に入隊していたということで指揮を取っている。
「日本海軍が何隻進軍しているのかわからない。各員見張りを厳となせ。“プロヴォールヌイ”はもうすぐだ」
警戒を怠らないように部下に伝えるも、不安は解消されることはない。日本海軍と言えば夜戦を想像するのは各国の常識とさえ言える。この霧の中で接近され酸素魚雷なるものを撃ち込まれたら、この艦は持つのだろうか。
――どうしてEK艦を入れてくれなかった。
ジュラブリョフ艦長はそう胸の中でつぶやく。
ソ連海軍の戦力増加を求めてアメリカが行った対ソ海軍訓練。対空、対潜のほか上陸戦の訓練を受け、更にはタコマ型フリゲート艦まで譲渡されたのだ。そのタコマ型をソ連では護衛艦を意味する“EK”の名をあてている。
グネフヌイ級には装備していない対空、対水上レーダー。EKにはそれを積んでいた。この霧の中だからこそ、こちらにまわしてくれればと思わずにはいられない。もっとも、日本海軍の艦隊がこの海域に存在していることを知っていれば、話は違ったのかもしれない。
衝突した駆逐艦“プロヴォールヌイ”の救援に向かうため航行している中、日本海軍を見つけようと索敵する乗員はまだ慣れない艦上で血眼に双眼鏡をのぞいていた。
ソ連太平洋艦隊はそもそも戦闘の経験が無いに等しい。先ほどから艦橋には乗員から四方八方から敵艦発見の報告があり、そのすべてが間違ったものだった。そして、艦尾の見張りからもたらされた艦影発見の報告もまた、あらたにそのうちに含まることとなった。
敵駆逐艦の後方へ回り込み攻撃しようと、進軍を続けていた海上挺身隊。単縦陣で進む駆逐艦響と海防艦2隻はいよいよ攻撃を始めようとしていた。
「左舷後方、敵艦発見!」
見張り員が大声で叫び、宇久奈も席を立ちその隣へ走る。駆逐艦“レチーヴイ”の艦尾を霧の中に確かに確認したのだ。敵艦の後方に位置を取る事は、宇久奈が期待した最高の展開だった。
「魚雷発射管は!?」
「砲雷撃、どちらも準備完了しております!」
「よし、魚雷撃ち方はじめ!」
3基の61cm3連装魚雷発射管のうち1基3門から魚雷が放たれ、そして戦闘が始まった。
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