久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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最期の連合艦隊

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 パラムシル沖海戦といっても、その始まりは艦隊戦ではなかった。
 占守島上陸が予定通り進まず、ソ連軍は焦っていた。それは、時間をかけると米英などが圧力をかける可能性が高いためにほかならない。そのような中で求められたのは、占守島を完全に孤立させ1秒でも早く占領を終えることだった。

 占守島における重要地点は唯一の上陸可能地点であるカムチャツカ半島側の竹田浜と、パラムシル島側にあるこれまた唯一の港湾施設である片岡湾の2つだ。このため日本軍は竹田浜に強固な要塞を構築し、上陸阻止を最大の目標としていた。そして、それは、上陸を防ぐ間にパラムシル島を始め、後方からの援軍が片岡湾に続々と到着することが前提であった。

 パラムシル島と占守島をむすぶパラムシル海峡は、最短距離でわずか3キロしかない。ここを艦隊が突入するのは常識的にあり得ないことだった。そのため、もし片岡湾を攻撃するならオホーツク海からの攻撃しか考えられない。そして、それは海上挺身隊と会敵することが必然であった。

 響を始め、海上挺身隊の4隻は濃霧に包まれていた。8月の夏であっても、その平均気温は10度台と低く、霧が晴れることは少ない。視界は最悪だった。頼りになるのは航海図と操艦技術のみだ。
 一方で、この濃霧の中では航空機による攻撃は不可能と言える。連合艦隊を死へ導いた航空攻撃が降り注がないことは、神に与えられた慈悲とさえ考えてしまう。もっとも、陸軍主体のソ連軍に空母戦力は存在しない。もし攻撃機は飛来するとしたら、それは本土から発ったのだろう。

 すでに挺身隊はオンネコタン島を抜け、北緯50度に差し掛かっていた。霧が晴れていると目前にパラムシル島の最南端がはっきりと見える距離だ。いつソ連軍艦艇が出没してもおかしくない。
 総員が気を引き締め、既に戦闘配置を完了している。いつでも戦闘を行える状態である。
 そのような中で、パラムシル島から”ソ連海軍、片岡湾へ侵攻する模様。砲台にて防衛戦闘中”の緊急入電を受信したのが今さっきの事であった。

「片岡湾の喪失は、占守島の孤立を意味する!我々は全力を挙げ片岡湾を防衛し、その後即座に竹田浜に進軍、展開する敵輸送部隊を殲滅する!!」
 パラムシル島の陸軍司令部からの入電が、挺身隊の行動を決定づけた。宇久奈の号令は、いよいよもって戦闘に突入することを全乗員に覚悟させた。
 
 パラムシル島と占守島にある日本軍の砲台が、片岡湾へ突入せんとするソ連軍艦艇へ火を噴く。パラムシル沖海戦の始まりは、陸上砲台による艦艇への砲撃であり、海上挺身隊による攻撃はその次であった。
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