久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

文字の大きさ
上 下
12 / 36
戦意途絶えることなく、その姿鬼神のごとし

2-9

しおりを挟む
 尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。

 確かに迫撃砲の効果は凄まじいものだった。
 それにより数両の敵戦車の足を止めることができた。
 その炸裂音の轟音により数人の敵兵士の歩みを止めることができた。

 しかし、それでも足りなかった。
 
 
 尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
 
 確かに中隊130人による統制された銃撃の効果は凄まじいものだった。
 それにより命を懸けた対戦車地雷による特攻は見事に成功した。
 その破壊力と行動により数人の敵兵士の歩みを止めることができた。

 しかし、それでも足りなかった。


 尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。
 
 ソ連軍は戦車を盾に歩みを続け、戦車砲を前に尾久利たち日本軍の損害は急増していく。
 先ほど敵兵士の銃を共に奪いに行った兵士はもう息絶えている。
 迫撃砲の音はもう聞こえない。射撃音は途切れ途切れに森林に響き、とても統制されているとはいえない。
 
 ――あれは中隊長か……。
 
 ソ連軍兵士による激しい銃撃の中、地雷を抱えソ連軍へ猛進する中隊長の姿が見える。数人の兵士がそれを援護しようと引き金を引くが、ソ連軍の戦車砲が中隊長を文字どおりバラバラにした。
 これが、彼なりの責任の取り方だったのだろうか。あるいは、彼が望んだ結末だったのだろうか。どちらにせよ、中隊長は猛烈な戦死を遂げられた。







 尾久利の目に映る光景は、地獄そのものだ。

 胸から流れる赤い液体は止まることを知らず、徐々に両腕の力が入らなくなっている。
 武器を奪いに進み、戦車を発見した後は隊列まで戻り、中隊長の号令の下引き金を引き、そして多くの戦友と共に銃弾に倒れた。
 塹壕の中で背を預け倒れ込む尾久利に、もう戦う力は残っていない。いや、もはや壊滅より全滅したと表現するほうが正しいこの部隊にどれだけの戦力が残っているのだろうか。だって、目の前に立つソ連兵がこちらに銃口を向けているというのに……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久遠の海へ 再び陽が昇るとき

koto
歴史・時代
 第2次世界大戦を敗戦という形で終えた日本。満州、朝鮮半島、樺太、千島列島、そして北部北海道を失った日本は、GHQによる民主化の下、急速に左派化していく。 朝鮮半島に火花が散る中、民主主義の下、大規模な労働運動が展開される日本。 GHQは日本の治安維持のため、日本政府と共に民主主義者への弾圧を始めたのだ。 俗に言う第1次極東危機。物語は平和主義・民主化を進めたGHQが、みずからそれを崩壊させる激動の時代、それに振り回された日本人の苦悩から始まる。 本書は前作「久遠の海へ 最期の戦線」の続編となっております。 前作をご覧いただけると、より一層理解度が進むと思われますので、ぜひご覧ください。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

仏の顔

akira
歴史・時代
江戸時代 宿場町の廓で売れっ子芸者だったある女のお話 唄よし三味よし踊りよし、オマケに器量もよしと人気は当然だったが、ある旦那に身受けされ店を出る 幸せに暮らしていたが数年ももたず親ほど年の離れた亭主は他界、忽然と姿を消していたその女はある日ふらっと帰ってくる……

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

海将・九鬼嘉隆の戦略

谷鋭二
歴史・時代
織田水軍にその人ありといわれた九鬼嘉隆の生涯です。あまり語られることのない、海の戦国史を語っていきたいと思います。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...