久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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戦意途絶えることなく、その姿鬼神のごとし

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 先行しいている斥候は、逃亡に失敗した哀れな兵士だ。いや、犯罪者にほかならない。本来なら武器を渡すことでさえも間違っている。すぐにでも極刑にされるべきなのに、なぜ同志アレクセイは斥候などと罪を軽くしたのか。日本軍に投降でもしたらどうするのか。
 
 BT-7快速戦車と共に足を休めているダニイール兵長は軍歴4年目の、20歳にも満たない青年だ。
ドイツ軍による祖国への奇襲。大祖国戦争はドイツの侵攻を止めるだけで精いっぱいで、多くの民間人が徴兵され入隊した。しかし、当時まだ15歳だった彼は若すぎるという事で徴兵の対象とならなかった。
 ではなぜ彼がこの地にいるのか。それは、彼の愛国心に心を打たれたリクルーターが書類をごまかし入隊を許可したからだ。
 当時の戦況はソ連の敗北を予想できるほどであり、さらにもし日本が極東から侵攻してきたら連邦の崩壊でさえ現実味を帯びていた。正直なところ一人でも多くの兵士が欲しいという考えも確かに存在していた。

 入隊が叶ったダニイールは辛い訓練に耐えていたが、ドイツとの開戦以後も戦火を交えることは無く、勲章を挙げられないまま終戦となるのかと悲観していた。さらにドイツの敗戦が決まるとすぐに極東などという最果ての地へ転属となったのだから、その時の絶望はまるで同志スターリンが地に伏せたかのような衝撃だった。もちろん、同志は健在である。
 しかし今、そのような悲観的な考えはない。数々の激戦で使われ祖国の勝利へ導いた小銃“モシン・ナガン”を手にする彼の純粋な目は希望に満ち溢れていた。

「何人生き残れると思う?」
 部隊の誰かが煙草を吸いながら口にする。アレクセイ中隊長が率いる混成中隊は、BT7快速戦車6両と2個歩兵中隊から成る。彼らに与えられた任務は、今もなお武器を降ろさない関東軍への大規模侵攻のための下準備に他ならない。

 ドイツ戦における人的損害は無視できない量であり、ドイツ降伏後は返し刃に満州侵攻の準備を始めている。その後、対日開戦において3方面から関東軍を攻撃したにも関わらず、その損害は日に日に上昇をし続けていた。なぜなら、多くの関東軍兵士が逃亡や降伏をせず死ぬまで戦い続けたからだ。
 確かに一部の兵士は降伏や逃亡を行っている。それでも、玉砕による被害を鑑みると無視される程度でしかなかった。であるからこそ、後続の大規模侵攻部隊の全身を邪魔する事象を取り除かなければならない。その具体例が対戦車地雷や小規模陣地の破壊である。
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