放課後の秘密の共犯者が俺にだけ執着する理由

茶々

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十二月

終幕

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「奏。ゆっくりだぞ。ゆっくり下ろせよ?」
「わかってるって。はい。じゃあ、せーの」

 奏の掛け声に合わせて、瑠璃は静かに両手で支えていたソファを床におろした
 いよいよ北旧校舎の解体が二週間後に迫っていた。学校が冬休みに入っている間に綺麗さっぱりなくしてしまうらしい。
 もしも教師たちに部屋に入られた際に違和感を持たれないよう、第二閉架図書室を元の空き部屋にするために放課後、二人は再び訪れた。
 いつも寝そべっていた革のソファは、元々は隣の図書室にあったものらしい。

「このソファって奏が一人で持ってきたの?」
「そう。押してこっちに持って来た。図書室の床ってすべすべしてるじゃん。だから案外、一人でも持ってこれたんだよ。最初の掃除も自分でしたしね」
 第二閉架図書室に戻って、奏は懐かしそうに見回した。

「もともと俺がいなくても、一人でここで過ごすつもりだったってこと?」
 奏は頷く。
「とにかく家に帰るのが嫌で。それ以外の場所が欲しくてさ。けど、前に瑠璃が言ってたみたいに、学校と家以外に逃げられる場所が思いつかなくて、苦肉の策で出したのがここだったんだよ」
「……そのまま俺がいなかったら、お前多分夏にぶっ倒れてたよ」
 呆れたように言う瑠璃に、奏は苦笑した。

「それもそうだし、それにお前に出会ってなかったら、もう少し塞ぎこんで、性格がもっとねじ曲がってたと思う」
「ああ……ほんと、良かったよ」

 日が落ちかけて、影の色が濃くなってきた部屋を、瑠璃もぐるりと見渡した。
 この狭苦しい空間に奏を一人で残さなくて良かった。ここで一人きりにさせなくてよかった、と安堵する。
 たった一人でこの穴倉の中に逃げ込む姿を想像して、瑠璃は目を伏せた。
 奏は床に放っていた鞄を拾って瑠璃に渡す。

「僕さ。高校卒業したら、進学するにしても別の道を選ぶにしてもとにかく、家を出ることにした。あそこから距離を取る」
「……もう話したのか?」
「ううん。これから。けど、できた人たちではあるから、説得するのはそんなに難しいことじゃない」

 コートのボタンをしめて、奏は窓の外を見た。
 木枯らしの吹く、頬を痛める寒々しい空は、ともすれば何よりも広く、見上げればどこまでも続いていることを感じさせてくれる。

「世界は学校と家だけじゃないんだから。もっと外で。瑠璃と生きる。この二つだけの世界で、苦しんで生きようとしなくていいんだから」
 そうして、清々しく笑う奏の顔は美しかった。

 ああ、好きだ、と瑠璃の凪いだ心が波を打つ。
 瑠璃はささやかなその感情をそっと抱きしめるように、眩しそうに目を細めて、柔らかな笑みを浮かべた。

「んじゃ、帰るぞ。帰りにコンビニ寄って肉まん買って帰ろうぜ」
「あ、僕、餡まん」
「そっち?」

 不意に奏が手を差し出した。
 瑠璃は何の疑問を浮かべることなく、自然に手を重ねて、きゅうと優しく握る。
 その仄かな温かさはこの先も、ずっと変わらない。
 いつかの、何度目かの熱を想像して、瑠璃は幸せそうにマフラーに顔をうずめた。

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