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十一月

文化祭.4

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「楽しかったね! プラネタリウム。想像以上に綺麗だった! これなら、私たちの組も展示最優秀賞取れちゃうかもって思ったな」
 美咲がほくほくとした笑顔で身体を揺らして前を歩く。

「園田」
「んー? ていうか、美咲って呼んでって――」
 振り返った美咲は、瑠璃の意を決したような顔を見て、口をつぐんだ。
「……どうしたの?」
 静かに尋ねた美咲に、瑠璃はしばらく唇を引き結んでからまっすぐに彼女の顔を見た。

「この前の返事をしたい」

 美咲は少しだけ目を伏せてから、わかった、と頷いた。
 時刻は夕方に差し掛かっていて、展示はどこも最終の集客の盛り上がりを見せていた。廊下もどこも人通りが多く、瑠璃は方々をさまよった末に、使われていない空き教室に滑り込んだ。
 扉を閉めて、一度深呼吸をする。
 文化祭の喧騒が遠くの方でぼやぼやと木霊みたいに聞こえた。

「俺のこと、好きだって前に言ってくれただろ」
「そうだね」
「それは今も、そうなの?」
 美咲は少し寂しそうに笑って、腕を組んだ。
「愚問だよ。まさかそうじゃない、なんて思ってないよね?」
 瑠璃は焦って何度か目を瞑る。
「いや、ごめん。そういう言い方はよくなかった。……思ってないよ。わかってる」

 ここ一年近くで、誰かを心から想うことについて、瑠璃はその一端を知った。
 きっと奏が瑠璃に抱いているものと、瑠璃が奏に抱いたものと、美咲が瑠璃に抱いているものは、形や中身のグラデーションこそ違えど、核にある心臓が薄く擦り切れていくような切なさは同じだと今ならばわかる。
 だからこそ、それを受け取ってもらえなかった時に、一気に粉々に砕けていく苦痛も理解できてしまう。自分がこの人を今から傷つけることも自覚している。

 それでも尚、今の瑠璃は自分が抱いたものを捨てることができなかった。

 美咲は祈るような眼差しで瑠璃を見つめていた。
「……ごめん。俺は園田と付き合うことはできない」
 淡々と瑠璃は言った。

 美咲の表情が一瞬固まって、瞳が揺れた。ため息まじりに美咲は小さく呟いた。
「そっか。……そ、っかぁ」
「あんまり、驚かないんだな」
「今日一日一緒にいたから。なんとなく、そんな気はしていたの。時々、七川くんが心ここにあらずだったから。私と一緒にいるのに、まるで一緒にいないみたいな顔してた。気のせいだったらいいなって思ってたんだけど……好きな人のことだからやっぱり当たっちゃうんだよね。これが」
 瑠璃は視線を落とす。
「……ごめん」
「ううん。いいの。きっと普通の友達だったら気にならなかったもの。ただのクラスメイトなら気にならなかったもの。……好きだったから気づけちゃったの。そういう偶然」

 そうして自嘲気味に笑う美咲に、瑠璃は何も言えなかった。

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