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十一月
文化祭.2
しおりを挟む文化祭実行委員会の本部は、多目的教室に臨時で設立されていた。書類を抱えた瑠璃は足早に向かって、着いてすぐに引戸を開けた。
「すみません。代理のものですけど。書類を届けにきました」
教室内は相も変わらず忙しいようで、実行委員の腕章をつけた生徒たちがバタバタと教室を出たり入ったりを繰り返している。
届けにきたはいいものの、誰に声をかければいいかを何も聞いていなかったことを思い出して、瑠璃は遠い目をする。
上は三年生から、下は一年生まで人がいすぎて何もわからない。
「あ」
きょろきょろと辺りを見回せば、ぴたりと一人にピントがあった。
奏がいた。二人の上級生の実行委員と忙しそうに話し込んでいる。
「……あれは話しかけるのは無理か」
ため息をついて他を探そうと視線を巡らした。
しかし、不意に奏がこちらを向いた。ぴしりと驚いたように目を見開いてその場に固まる。
どうしたらいいかわからないように薄い唇をぱくぱくさせている顔は瑠璃もあまり見たことなくて、ふ、と笑みを零した。
奏は話を切り上げて、瑠璃の元へ駆けよる。
「どうしたの。る、な、る……七川」
百面相をした末に、奏はかろうじて優等生の顔をした。気まずそうに視線だけを逸らしている。
秘密の関係をやめたのだから、別に人前で話しかけてもまったく問題はない。
けれどまだ慣れないようで、奏は戸惑いながら、ぱちぱちと目を瞬かせた。
優等生然としながらも、瞳の奥には瑠璃のよく知るあの奏が垣間見えて、瑠璃はほっと胸を撫でおろした。
「書類。こっちに持ってくるはずだった実行委員が途中で捻挫してさ。俺が代わりに持って来た。多分これで全部だと思う。順番はぐちゃぐちゃになってるだろうから、ごめんだけど」
一枚見せれば、奏は記憶を探るように顎に手を当てた。
「……ああ! これか。わかった。担当の人に渡しておくよ。ありがとう」
「ん」
奏が差し出した手にどさりと書類の束を手渡す。
次に言葉をどう紡げばいいかわからなくなって躊躇っていると声が降ってきた。
「七川」
「なんだよ?」
「……いや、呼んだだけ」
見上げた奏の顔を見て、瑠璃は苦笑する。
名残惜しいのだ。瑠璃も奏も。
少し前まで、毎日のように、時間を埋めるように過ごしていたのに、一度はそれがなくなってしまって、仲直りをした後も結局忙しくてほとんど会うことなく今日になってしまった。
言葉のひとつひとつが特別になっていた。
もう少しだけ。もう一言だけ。
コップの淵から水が溢れてこぼれ墜ちるみたいに、互いを惜しく思っていた。
後方から、奏を慌ただしく呼ぶ声がした。
一瞬、寂しそうな表情を見せたが、すぐに瑠璃に背を向けてそちらへ走っていく。
奏の姿を見届けたあと、瑠璃も保健室へと向かった。
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