31 / 43
十月
ここではないどこか別の居場所.3
しおりを挟む修学旅行はルートが予め決まっていたのもあって、あっという間に時間は過ぎていく。
清水寺は着くまでに長い坂が幾本かあって、土産物屋や飲食店が立ち並んでいて賑やかだった。いちいち寄るのも楽しくて、時間がかかってしまった。
京都は晴天。燦々と煌めく太陽の光が傾斜を照らしていて、下から見上げると眩しい。
坂を上りきる頃には、息も絶え絶えだった。けれど清水寺の舞台に出た瑠璃は、思わず息苦しさを忘れて、感嘆のため息を漏らした。
「ぅおお。久しぶりに来たけど、やっぱ眺めいいなぁ」
クラスメイトたちが柵に寄りかかる。
「てか意外と高いな。あれ、京都タワーじゃね? 写真撮っとくか」
舞台の上は、外国人の観光客から瑠璃らと同じ修学旅行でいっぱいで、皆スマホや一眼レフカメラで遠くに見える京都の町を写真に収めている。
「瑠璃は京都に来るの、初めてだったっけ?」
「いや。小学生の時の修学旅行で来たことある。もうあんまり覚えてないけど、京都って来てみると、やっぱり京都って感じするな。独特な空気がある」
深呼吸をすれば、白檀の混じったような古都の清廉な香りが鼻をつく。
ぼんやりと水平線に浮かぶ山まで遮るものがなく雲一つない青空が続いている。解放感がどんと構えていて、清々しい。
心の中に渦巻く全部が空に吸い込まれてしまいそうだった。
できるものなら、ぜひともそうしてほしいものだと瑠璃は上を軽く睨んだ。
京都の街並みは、たとえば神社や寺院が民家と民家の間に当たり前に存在していて、しかも街並みによく馴染んでいた。
細い路地裏は影が差して、日中でさえ怪しげな雰囲気を放ち、観光客で賑わう中心地へ行けば、あちこちで異なる言語が聞こえてくる。
少し歩くだけで、同じ日本だというのにまるで異世界に来てしまったみたいな気分になれる。
「……随分と、遠くまで来たもんだ」
もう、奏とだらだら過ごしていた日常が懐かしい。
自分の知らない香りがここにはある。
自分の知らない景色がここにはある。
むしろ、瑠璃が知っているものの方が少ないのだと思い知らされる。
奏は自分が身を置く世界から遠く離れたこの地の景色を目にして何を思うのだろうか。
あの夜、何処からか逃げてきたような、頼りなげな表情をしていた奏の顔を思い出して、瑠璃はそんなことが気になった。
もしも、いま隣に奏がいたのならば、どんな顔をしてくれるのだろうか。
それだけが、瑠璃は少し、見たくなったのだ。
21
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる