放課後の秘密の共犯者が俺にだけ執着する理由

茶々

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七月

ひび割れ.1

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 七月に入っても、相変わらず放課後の小さな電車旅は続いていた。
 目的を決めずに、適当な駅で降りることもあれば、各々が気になる店や興味のあるもののために向かうこともあった。
 世間離れしていた奏は、徐々に瑠璃を手本に、普通のどこにでもいる学生として様になってきた。もうハンバーガー屋での注文も、ファミレスでのタッチパネルを使った注文もできる。カラオケだってなんのその。
 それでもまだまだ知らないことばかりで、瑠璃と出かけるたびに触れる初めての瞬間が新鮮だった。それまで家と学校だけだった自分のつまらない世界が瑠璃に塗り替えられて、一気に色鮮やかになっていくのが、嬉しくてたまらなかった。

 そうして七月の半ばには、再び「テスト週間」が奏たちに降りかかった。夏休み前の期末テストである。

 五月の時と同じように、瑠璃はテストが終わるまで遊べないと奏に告げた。当然、放課後の電車旅もない。
 自分ひとりだけであれば、できなくはない。けれど、奏の秘密には瑠璃が必要なのだと気づいてから、一人ぼっちのそれに、魅力も意味も感じなくなってしまった。
 奏もおとなしく、家と学校の行き来だけをしていた。

「月蔵」
「あ……な、なかわ」
 教室で肩を叩かれて奏が振り向けば、そこには瑠璃が立っていた。驚いて椅子から立ち上がりそうになったのをこらえる。
「さっき学年主任から伝言あって、後で職員室来いだってさ」

 秘密である以上、二人の仲が良いことを周囲に悟られてはならない。
 教室では苗字で呼ぶのを徹底していて、極力、接点を作らないように気を付けていた。
 とはいっても、瑠璃も奏もいつも行動と共にする友人は違うから、そう難しくもなかった。
 今までは。

「……それだけ?」
「おう。それだけ」

 まるで他人のような冷めた瑠璃の声色に、奏の表情がわずかに崩れた。
 誰にも気づかれない程度。硝子がひび割れたように、くしゃりと歪んだ。
 それを捉えた瑠璃の瞳孔が、動揺に揺れた。
 しかし、それも一瞬のことで、奏の表情はすぐにいつもの余裕のある笑みを携える。

「ありがと。後でって、次のテスト終わったら?」
「そ。昼休憩の前に来いだって。んじゃ、確かに伝えたから。先生によろしく」

 それだけを言って、瑠璃は背を向けた。
 まるでそれまでの二人の時間なんて、どこにも存在しなかったみたいだった。奏は崖から突き落とされたような衝撃に襲われた。
 二人で踊っているはずのワルツを、目を開けてみれば奏がただ一人、舞台の上で酔いどれているだけだったかのような。
 惨めな孤独に沈み、自分の中に確かにあるはずの記憶を信じられなくなる。

 あれ?
 ねぇ、僕らの時間って。
 あれは夢だった? それとも現実?
 消えたりしないよな?

 縋るように、奏の唇が動いた。

「……ねぇ。七川」
「ん?」
「……いや、なんでもない」

 どうした、と不思議そうに首を傾げた瑠璃に、奏は仕方なさそうに首を振った。
 何も言うことはできない。ここは第二閉架図書室ではない。クラスメイトたちの目があって、耳がある。
 奏は瑠璃との秘密を特別に思い始めていた。やっと手に入れた自分の居場所。ようやく自分が自分でいられる空間。手放すことはできないと。
 しかし、それを大切に思えば思うほど、ここで瑠璃に冷めた目をされることが、まるで他人のような顔をされることが、ひどく奏の胸を締め付ける。

 瑠璃が怪訝そうにしながら、離れて自分の席へ戻っていってしまうのを、奏は見ていることしかできなかった。

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