放課後の秘密の共犯者が俺にだけ執着する理由

茶々

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四月

訪れ.4

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「あー、つかれた……」

 食事を終えて、家族団らんに三時間ほど付き合って、ようやく自室に戻った奏は、力尽きたようにベッドに倒れこんだ。
 ばふん、とシモンズの柔らかな弾力が男子高校生の身体を受け止める。

 奏は、兄たちとは随分と離れて生まれた。
 物心つくころには両親たちはすでに子育てという段階を経て、すでに月蔵家としては終わりを迎えていた。
 すでに子どもにかけるべき無尽蔵の愛情は枯渇し、おさがりよりも御粗末な残飯処理のような子育て。詰まるところ、両親たちは燃え尽き症候群、兄たちの時と比べて、奏に対してのやる気がなかった。
 大部分を使用人たちに任せきり。都合のいいときだけ、まるで自分たちが手塩に掛けて育てていますとでも言うかのような、立派そうな顔で奏の前に出てくる。

 奏は一度、実は血のつながりなんて自分たちにはなかったのでは、とさえも思う。いや、むしろそれを望んでいた。
 だが、一縷の望みをかけてこっそりと行ったDNA鑑定の結果は、両親そして兄たちと奏の間には確かに血縁関係が存在することを指し示していた。
 親子でないほうがよかった。

 赤の他人に反抗することなどできないように、奏にとって彼らはあまりにも他人だった。
 物心ついたときから感じている疎外感。
 クラスで、すでに出来上がったグループの昼食に友達でもない人間が飛び入り参加しているような居たたまれなさ。
 何年経っても、両親との間には微妙な間があって、ずっとずっと奏は神経を張り巡らせている。母親とも父親とも上手く会話が噛み合わなくて、奏は、自分の気持ちをすべてしまいこんで、何とか言葉をひねり出している。
 彼ら四人には、奏の知らない思い出が数え切れないほどあって、みんな、それを愛おしんでいる。
 あの集団の中で、奏だけが異物だった。

 奏に渡されたのは、月蔵家として正しい人間性の首輪だけだった。
 優秀で、人格者で誰からも尊敬され信頼されるような月蔵家で育てられた人間性。両親も兄もそれを持っている。
 それは本来、家族に愛情を注がれる中で自然と育まれていくものなのに、奏にはただ無遠慮に用意された首輪と化した。
 わけもわからず、その首輪をはめることを定められた。
 月蔵家から疎外されて、その一員にはなれないのに、外側だけ取り繕われてできた滑稽な人間性。

「……早く、明日になんないかな」

 奏はもう一度、自身の唇を指先でなぞる。
 もうすでに瑠璃とキスをしたときのような温もりは残っちゃいない。
 それでも、奏の疲労は少しずつ緩和していく。

 瞼を閉じて、膝に顔を埋める。膿みを吐き出すように深呼吸をすれば、瞼の裏には奏に静かな笑みを浮かべる瑠璃の顔と、夕焼けが蘇る。

 第二閉架図書室が恋しい。

 あの場所と瑠璃は、偶然に偶然が重なって手に入れた避難場所だった。
 誰に対しても平等で、等間隔を保つことが性格に染みついている瑠璃は、誰もが無意識に期待している月蔵家の人間性を、奏に期待しない。
 奏の話を聞いてくれる。奏の気持ちに耳を傾けてくれた。自分が話したことに、素直に望んだ返事が返ってくるのがこんなにもストレスに感じないことに、感動さえ覚えていた。
 瑠璃の前でだけ、奏は首輪を外して自然体でいられた。
 埃っぽく空虚なあの部屋でだけ、奏は取り繕わずにいられたのだ。

 奏は寝転がったまま、自身を抱きしめた。
 瞼の裏には、まだあのオレンジ色と、瑠璃の呆れたような仕方なさそうな苦笑が映っていた。

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