天の求婚

紅林

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本編

植民地の在り方

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蒼士が大貴をチュロックにおける植民地整理の総責任者に任命した理由は新田家の名誉回復と多くの国民からその功績を称えてもらい、天妃として相応しい人物であるとアピールをして国内外に正式に婚約を発表するためだ。大貴はもちろんその事を理解しているし、蒼士の期待を裏切るつもりは無い。たが周りは大貴のことを認めようとする者達ばかりではなかった

「交渉担当が変わったとはどういうことですか!」

独立に関することを話し合う会議が始まる前に交渉担当が交代する旨を伝えられたチュロック独立政府の交渉担当者が森田総督に詰め寄った。

「我々は森田総督と話し合いを進めてきたのです!今更担当者を変更するなど!」
「お、落ち着いて下さい。新しい担当者の方をご紹介しますので」

森田総督は今にも詰め寄ってきそうな交渉担当者に大貴を紹介するべく一歩端へ退いた

「こちらが私に代わって新しくチュロック連邦独立に関する総責任者を任せられている貴族院子爵議員、新田大貴閣下です」
「短い間ですがよろしくお願いします」

大貴はあまり好意的とは言えないチュロック政府の面々に会釈した

「閣下は公用語が堪能であるため通訳を介さずに会議を進めることが可能です。それに名門である堀江家の流れを汲む純血一族で天帝陛下からの信頼も厚いお方です。ですので私よりも皆様のご要望を本国に忠実にお伝えすることができるでしょう」

森田総督はそこで一息ついて大貴の後ろに控えていたもう一人の女性を紹介した

「そしてこちらは植民地管理院の二階堂にかいどう浪子なみこ管理官です。二階堂管理官は……」
「総督閣下、ご紹介中に申し訳ないのですがわたくし自身で自己紹介をしてもよろしいかしら?」
「構いませんが……」
「では失礼を」

浪子は太平天帝国の伝統的な衣装に身を包んでおり、スーツを着ている者が多い会議室で異質のオーラをまとっていた

わたくしは太平天帝国植民地管理院筆頭財政管理官、二階堂浪子と申します。私は帝室より男爵夫人の称号を賜っております。どうぞ私のことは二階堂夫人、もしくはレディ・二階堂とお呼びください」
「……では二階堂夫人、こちらにおかけ下さい」

森田総督は二階堂夫人のテキパキとした自己紹介に苦笑いをうかべつつも彼女に席を勧め、大貴にも着席を促した

「いくら森田総督が彼らを信頼していようともやはり異議申し立てを行いたい。我々はまだ完全な独立を果たしていないとはいえ帝国と平等な扱いを受けて交渉をすることが世界同盟の総会で決定されいる。一方の国がいきなり担当者を変えるなど不誠実ではありませんか?」
「これは最高諮問機関たる枢密院が下した決定にございます。我々はチュロックを軽んじているのではありません」
「貴国の枢密院のことなど我が国には関係ありません。重要なのは世界同名の総会で決定された取り決めに違反していることです」
「これはやむを得ない本国の事情ゆえです。朝廷はあなた方チュロックを軽んじている訳ではありません」
「二階堂管理官殿は少し発言を控えて頂きたい。はっきり申し上げて公的な場で自身の呼び方を指定するような方と話している暇は無い」

チュロックの交渉担当者は怒り心頭のようだ

「……レディ・二階堂です。帝室より与えられた私の称号にございます」
「ここは帝国では無いのですよ」
「今のチュロックはまだ独立国ではありませんわ。我らが偉大なる天帝陛下が治める太平天帝国の保護国です。……いいえ、と言うのが正しいかしら?」
「……っ!」

チュロックの交渉担当者は大きな音を立てて立ち上がった

「世界同盟に認められたからと言って何かを勘違いしているようですわね、セポス・ダーラバ卿」

チュロック交渉担当者であるセポスと呼ばれた男は拳を力強く握りしめる

「帝国は親切心からこのチュロックを植民地という名の呪縛から解放してやろうと言うのです。植民地管理院から割り当てられる資金と天童財閥、久代財閥、酒井財閥を含めた多くの帝国企業の参入なくばこれ程までにチュロックが発展することはなかったでしょう」
「それは一方的な侵略によって勝手に帝国がしたことだ!」
「あら、ではダーラバ卿は朝廷がこれまで行ってきた植民地政策は全くチュロックの役に立たなかったとでも?」
「……それはまた別の話だ。確かにこの国は帝国のとなり様々な分野で先進国の技術水準にまで底上げされた。しかし……」
「しかしなんだと言うのです。帝国からの技術供与を受けて後進国ばかりのミュウロジニア大陸で唯一の産業国になっておきながらまだ足りないとでも?身の程を知りなさい。他の帝国が支配する植民地に比べてここチュロックはどれだけ善政が敷かれているか分かっているのですか?」

二階堂夫人は無表情でたんたんとそう言った

「だいたいあなた方は……」
「もうおやめください」

また話し続けようとした夫人を見兼ねた大貴がひと声掛けた

「レディ・二階堂、ここには我らが偉大なる君主である天帝陛下と世界同盟の総会にて条約締結をご決断された椋天王殿下のご意志を実現するために赴いたのです。討論をするためではないことをお忘れなきように」
「子爵閣下こそお忘れのようですわね。ダーラバ卿がこの私を侮辱したことを」
「……」
(二階堂浪子男爵夫人は確か……)

彼女は大貴に射抜くような視線を向けた
本来であれば男爵夫人が子爵、それも純血一族であり堀江御三家の当主である大貴のこのような視線を向けることは許されない。しかし彼女は男爵夫人という立場でありながら社交界や政界でもある程度の影響力のある人物だ。その理由は彼女の生家にある。爵位こそ堀江家より下だが建国以前より続く地方豪族の家系として朝廷に仕えてきた鷹屋敷たかやしき家の長女だ。鷹屋敷伯爵の妹という肩書きは二階堂夫人の立場をただの男爵夫人という枠に留めることはない

「二階堂家に嫁いだとはいえ私は純血としての誇りを捨てた訳ではありません。公の場でこのような侮辱を見過ごす訳にはまいりませんの」
「貴女もお忘れのようだ。私はこの交渉の場の全権を天帝陛下より任されています。枢密院の沢中枢相を始めとした枢密院顧問官の皆様にも承諾されているのです。私の言葉は絶対です。植民地管理院の筆頭管理官だろうと使節団の一員であるならば私の指示に従って下さい」
「しかし!」

夫人はそれでもなお反論しようとしたがそれ以上言葉を紡がなかった。いや、喉元に突き付けられたステッキがそうさせなかったと言った方が正しいだろう。

「夫人、席にお着きください。会議をはじめます」
「……分かりました」

大貴は夫人の喉元に突き付けたステッキを下ろした

「では会議を始めましょうか」

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