天の求婚

紅林

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本編

朝廷からの勅命

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「朝廷からの命により参上致しました。貴族院子爵議員、新田大貴にございます。天帝陛下、横田川よこたがわ総理、この度は謁見賜り恐悦至極にございます。栄えある太平天帝国の主にして偉大なる天の代弁者であらせられる天帝陛下にお会いでき、天のお導きに感謝を申し上げたく思います」

大貴は天帝に対する最上級の礼として胸に手を当てて深く腰を曲げた。
部屋の中央にある飾り気のない玉座に座る見目麗しいこの男が大貴が支持する第二天子との帝位継承問題に終止符を打ち実質的に天帝位に就いた第147代天帝、蒼士そうし
そしてその一歩後ろに控えている女性は現内閣総理大臣、横田川真帆まほ公爵。第一天子派を率いる筆頭華族だ

「頭を上げろ」
「……」

大貴は天帝からの命令で姿勢をゆっくりと元に戻した

「そう怯えるな。なにも撃ち殺そうという訳ではない」
「……本日私か呼ばれた理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「やっぱり気になるか。まぁそれもそうだな」

蒼士は横に控える真帆に視線を向けて何かを小声で伝えた。大貴のところまで二人の会話の声は届かず、彼は余計に不安になってしまう。
(なにを話しているんだ)

「本当によろしいのですね?」
「くどいぞ。私はこの日のためにここまでやってきたんだ」
「陛下、反対派筆頭である枢密院の沢中さわなか枢相すうしょうを説得をしたのは弥勒院侯爵でも園城おんじょう公爵でもありません。この私であることをどうかお忘れなきよう」
「はぁ、公爵は抜かりないな。分かっている。沢中公爵を初めとした中立派や穏健派をこちらに引き入れた功績は全て公爵の物だ」
「ありがとうございます」

真帆は深々と頭を下げてから満面の笑みを浮かべてジャケットの内ポケットからだした封筒を蒼士に差し出した

「これを受け取れ」
「……失礼します」

蒼士から差し出された封筒を大貴は恐る恐る受け取る。
開けていいものかと思案していると蒼士が「早く開けろ」と催促してきたため、大貴は思い切って封を切った

「っ!ここ、これは本気ですか!?」
「本気だ」
「なぜ!?」

大貴は紙を広げて内容を確認した瞬間、あまりの驚きに声を上げた。

「私と陛下が婚約を結ぶなど……!なりません陛下!私には務まりません!」

その内容は蒼士と大貴の婚姻を命じる勅命書だった

「朝廷の命令に逆らうのか?」
「滅相もございません!しかし、これはあまりにも突然で……!」
「何が突然なのだ?これは結婚ではなく婚約だ。そこまで心配する必要はない」
「で、ですが!」
「これは決定事項だ。枢密院、内閣、そして貴族院も既に承認している」
「そんな馬鹿な!私は何も聞いておりません!」

大貴は貴族院の子爵議員だ。自分の身に関する重大な議題を聞き逃すはずがない

「緊急の議題だったからな。議長と各派閥の代表議員だけで決議をとらせてもらった」
「貴族院に議席を持つ私に一言くらいの相談をして頂いても良かったのでは!?」
「そうしたらこうして騒ぎ立てるだろう?」
「それは……」

当たり前だ、と言いたかったがさすがに天帝の前でそんなことを言う訳にはいかず大貴は口を噤む

「子爵、これは君のためでもあるんだ。第二天子派の下級華族がどうなったかは知っているだろう?」

大貴は福井男爵が爵位を剥奪された件を思い出す

「……子爵位剥奪だけはご容赦ください。私には養わなければならない家族がいます」
「新田こころ子爵未亡人のことか?」
「そうです。母は帝位継承問題に関与しておりません」
「子爵は連座をしらないのか?」
「っ!それは……!」

連座を今回の件に適用されれば、心だけではなく新田家の本家筋にあたる自立派の堀江ほりえ家も影響を受けることになる。枝分かれした分家に過ぎない新田家の罪で堀江侯爵まで巻き込む訳には行かない

「新田子爵、これは悪い提案では無いはずよ。我々第一天子派はもちろん最初は反対していた。けれどこれは陛下直々のご意志でもあるし、新田家は堀江家から枝分かれした由緒正しき純血華族、血筋の問題はなにもない。 それに子爵が天妃となれば新田家の名誉は回復され、子爵未亡人の暮らしも保証されるわ」

二人のの一進一退のやり取りを見兼ねた真帆は興奮気味の大貴を落ち着かせるようにそういった

(たしかにこの婚約は僕にとっていい事尽くし。だけど陛下と婚姻を結べば新田家の存続も危うい)

「新田家の跡取りのことなら心配いらないわ。後にお生まれになられる天子殿下の中から子爵が跡継ぎを任命すればいいわ」
「それは証文を用意して頂けるのでしょうか?」
「希望をするならそうしましょう。陛下、よろしいですか?」
「子爵が望むなら用意させよう」

蒼士は真帆の問いかけに深く頷いた

「それで子爵の返答は?」
「……」
(僕には婚約者もいないし陛下との婚姻は全く問題ない。むしろ新田家にとっても利益になるし、名誉挽回の機会にもなるはず!)

大貴は頭の中で必死に思考を巡らせた

「天帝陛下よりの勅命、新田家の名にかけて謹んでお受け致します」
「よし」
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