精霊の森に魅入られて

丸井竹

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番外編 明かされた秘密(後編)

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「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」

 ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
 それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。


 実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
 お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。

「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」

 我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
 一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。


「お母さんと話をしに行こう」

 学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
 世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
 アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
 エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。


 アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
 草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。

「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」

 エカがツッコミを入れる通り。
 岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。

「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」

 元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
 咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。

「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」

 ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。

「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」

 花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。

「ルル、ただいま」

 アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
 世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。

『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』

 念話が優しい波長で心に流れてくる。
 精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。

『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」

 アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。

『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』

 その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。

「……」

 言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
 何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
 次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。

『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生ルイ】……です……」

 問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。

『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』

 ルルがまた微笑む。

『……おかえり、ルイ……』

 その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
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みんなの感想(12件)

アルリ
2024.04.24 アルリ

完結おめでとうございます。今作もハラハラドキドキしながら読ませていただきました。面白かったです。

ゼインとクシールの関係が続いているとアルノは思ったままなのではないかと、この点が気になります。読んでいて個人的に一番辛かった所なので、ちゃんと話し合ってほしいのですが、この点がなあなあになったままなのは、何か意図があるのでしょうか?

丸井竹
2024.04.24 丸井竹

感想ありがとうございます^^
アルノはゼインの幸せを考えられるほどに成長したので、自分が不在の時でも、彼が幸せであることを願い、全てを受け入れたのだと思います。
なので、クシールとの関係があった方が、ゼインが幸せだというなら、それで良いと思っているはずです。
ですが、精霊の森にいることが一番好きになってしまったアルノを引き止める為、ゼインもかなり必死になっているので、クシールと遊んでいる暇もないでしょう。
クシールも、ゼインを甘やかす気はないと言っていたので、アルノを傷つける関係はもうやめたと思います。むしろ、子供時代の負い目からゼインに付き合っていただけなので、今度こそ荷が下りたと思っていることでしょう。
アーダン国にアルノが行って以来、クシールと関係していないゼインは、誤解を解きたいと思っているかもしれませんが、アルノはどちらでも良いのにと言って笑う気がします。
という感じを醸し出したかったのですが、私の拙い文章力では表現しきれず、もやもやさせてしまいすみません。
いつも、どこまで書こうか、匂わせて終わらせるべきか迷いながら、きれいにまとめることを優先させてしまいます。
長い物語をはらはらしながらも、一緒に追いかけて下さり、ありがとうございました。

解除
スウ
2024.04.14 スウ

こんにちは
精霊の森に魅入られて、大変楽しくリアルタイムで読ませていただきました。完結おめでとうございます、そして毎日の投稿をありがとうございました。

これまでの作品もひっそりリアタイで読ませていただいてきました。どの作品も、作者様のハッピーエンドのタグを信じて追ってきましたが、本作はほんとうに、、苦しかったです… 第50話くらいから、毎日「もう完結まで更新見ない、、」と泣きながら、結局読んでしまっていました。

設定に精霊の加護が重要な位置を占めているとはいえ、アルノの悩みや苦しみは現代の私たちの中にも大小の差はあれ存在するもので、ゼインとのすれ違い、伝わらなさ加減は毎日のコミュニケーションなどに通じるものが多く、心に刺さる・響く場面がたくさんありました。 視点がほぼアルノ固定だったので、何が本当かわからずそれもまたアルノの気持ちに引っ張られる結果になりましたね、、

週末に改めて物語りを読み直しました。リアタイでは気づかなかったキャラクターの繊細な思いに気づくことができ、深い描写に感動を新たにしました。 ゼインは、要所要所で最高に不器用ながらちゃんと気持ちを言葉にしていて、ただ、アルノの迷いという固い殻がすべてを跳ね返していましたね。クシール、思いは理解できますが、やはりすこーしネグレクトっぽく私には感じられました。 そして、私はさまざまな物語りの9割進んだところで出てくる「後出し万能スパダリ」が超うさんくさくて苦手なので、王太子路線はなし!ってやっぱり思います…

未熟な二人が長い時間をかけてたどり着いた「ふたりの愛のかたち」と、それを囲む多彩な登場人物の日々に並走することができ、楽しい毎日でした。まだ少しロス状態ですが、休養された後の次の作品も楽しみにしています。

丸井竹
2024.04.14 丸井竹

感想ありがとうございます^^
毎日、生まれたての物語を追ってくださり、ありがとうございます。
苦しい道のりでしたが、先の見えない話を追ってくださる皆さまのおかげで、完結まで更新し続けることが出来ました。
理解されない痛みを感じ取って下さり、本当にうれしいです。
私には最難関だった、ゼインの不器用さもわかってくださり、安堵しています。
人の気持ちは全て説明できるものではない以上、多く語ることも出来ず行動で表現するしかない場面もあり、伝わるだろうかと書いている間は不安でいっぱいでした。
登場人物たちに想いを巡らせ、長い物語を一緒に旅して下さり、本当にありがとうございました。

解除
slvss am
2024.04.13 slvss am

 毎回素敵な作品をありがとうございます。
竹丸先生の大ファンです
 複雑な登場人物達にハラハラさせられながら、曖昧な線引を超えた先に混ざり合う幸せで壮大な物語は本当に面白かった。
特に好きなシーンは、アルノが男性達の絡み合う場に突撃し、ベットから転げ落ちるようバタバタと慌てる2人の場面が(しかも2回)策略も容姿も完璧なのに人間味が出て好きでした。
子供達に幸せな道標を示し、村人までも幸せにして…
あーこれで完結。寂しいっ
幸せな時間をありがとうございました。

丸井竹
2024.04.13 丸井竹

感想ありがとうございます^^
いつも私の作品を読んで下さり、ありがとうございます。
物語の筋は出来ていましたが、途中経過は変更も多く、人物像を明確にすることで、登場人物たちならどうするかと考えてお話を作っていたように思います。
私も書きながら、ハラハラしていました。
完璧だけど憎めないクシールの姿が伝わって、とてもうれしいです。
長い物語を、一緒に楽しんで下さり、本当にありがとうございました。

解除

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