精霊の森に魅入られて

丸井竹

文字の大きさ
上 下
40 / 71

40.貴族の姫君からの手紙

しおりを挟む
東モーレリアのデラーチェ領の領主、イライザ姫の父親であるヒューイット・デラーチェは、険しい表情で不安そうに立つ娘を睨みつけていた。

ニルドとはまだ婚約の段階であったため、出戻りとは言えないが、しかしもう傷者ではあった。
それでも何もない山での生活より、実家にいた方がまだましだとイライザは考えた。

貴族の家には王都から高級品が溢れている。
裕福な商人が出入りし、流行の品や便利な道具、さらにドレスまで運ばれてくる。

さらには質は良いとは言えないが、教会が生産している契約紙もあり、一日中暖炉は燃えているし、温かなお風呂にも毎日入れる。

飢える心配もないし、命令できる召使もたっぷりいるのだ。
家族に放置されていたとはいえ、十分贅沢な環境を与えてもらっていたのだと、イライザはようやく理解することが出来た。

ふかふかの分厚い絨毯を敷いた床を歩き、書庫で大量の本に囲まれ、好きなだけ現実逃避し、日当たりの良い庭で、お茶やお菓子を楽しみ、豪華な品々を当然の権利として身の回りに置く。
それだけで心は満たされ、永久にここに居たくなる。

生意気な召使も、一人もいない。

誰に構ってもらえなくても、何の不満もなかった。
なぜニルドについてあんな辺鄙な山に行ってしまったのか、イライザは安易に外に出たことを心から後悔した。

ところが、そんな幸せは長く続かなかった。

父親に呼び出され、イライザは不安に押しつぶされそうな心を抱え、落ち着かない様子で立っていた。

「イライザ、有難いことに、お前のような娘にも求婚者が現れた」

「え?!」

真っ青になる娘を見やり、父親は冷徹な目を光らせる。

「まさか、このまま我が領内に居て、何も生み出すことのない生活を送り続ける気ではなかったであろうな?」

「そ、それはどういう……」

「お前の二人の姉は既に嫁ぎ、我が領内に莫大な利益をもたらした。お前は、何をもたらした?」

困惑し、イライザは目をきょろきょろさせる。

「第三階級の騎士の位だが、領地を持っている。妻に先立れ、世継ぎを必要としている。他の男と勝手に家を出たことも、結婚もせず戻ってきたことも知っている。
あまり利益にはならないが、このまま家に居座られるよりはましだ。嫁にもいけない娘をいつまでも傍に置いておいては体裁が悪い」

「あ、あの、どういうお方か、お顔とかその」

「選べる立場だと思っているのか?」

父親の冷たい言葉に、震えあがってイライザは首を横に振る。

「明日迎えの者が来る。支度をしておくように」

話はそれで終わりだった。
翌日、イライザは見慣れない馬車に乗せられ、東モーレリアの片田舎にある小さな領土に運ばれた。

城とは呼べないような古ぼけた館は、一応石造りで外壁もついていた。
とにかく辺鄙なところで、荒れた草原となだらかな山しかない。

湿った風が吹き、水はけの悪い土地が続いている。
出迎えに現れた男を、イライザは最初執事だと思った。

なぜならば、それは初老のひょろりとした男で、とてもそれが騎士の身分であるとは思いもしなかったのだ。
ところが、その男こそがイライザの夫だった。

領内の小さな教会に連れていかれ、あっという間に結婚の儀式が終わった。
それからイライザの地獄のような日々が始まった。

領地持ちの屋敷の奥方には仕事がある。
召使の数は限られ、奥方であっても、掃除や繕いもの、洗濯まで自らしなければならなかった。

さらに、召使がいたとしても、その仕事の責任はイライザにあった。
家畜の管理、菜園や小さな牧場の手入れ、仕事の全てにおいて、何も知らないイライザが確認し指示を出さないといけない。
何か問題が起きれば、イライザの落ち度となり、知らなかったではすまされない。

恐ろしく厳しい侍女頭がイライザの教育係になった。
執事と連携し、イライザがさぼらないよう四六時中見張っていた。

侍女頭はイライザが何も知らない甘やかされた奥方だと堂々と吹聴し、奥方であるにも関わらず、イライザは召使たちから冷やかな目で見られ、肩身が狭い思いをすることになった。

そうなると、思い出されるのは優しいニルドのことばかりだった。
何もできなくても、優しく愛してくれた男が恋しくてたまらなかった。
ニルドはただ城で待っているだけで、イライザをお姫様のように大切にしてくれたのだ。

それなのに、ここでは何もしていないとごく潰しと呼ばれ、少ない召使たちにまで嘲笑われる。
逃げようにも味方もなく、イライザは苛立ちを募らせた。

ニルドのところにいたときのように、我儘を言って暴れようとしてみたが、文句を言ってみれば、恐ろしい目つきで睨まれ、食事を抜かれてしまうのだ。
戻れる実家もなく、イライザは夕暮れになると、ただただ懐かしそうに草原からノーラ山のある方を眺めた。

そんなイライザにとって、もっとも耐え難い仕事は、世継ぎを作ることだった。

夫という名の見知らぬ老人に身を任せ、イライザは目を閉じてニルドの優しい手を思い浮かべた。
優しい愛撫も言葉もなく、淡々と終わるその行為は、まさに妻のお勤めだった。

そのやり方しか知らない様子で、夫は無言で行為を終え、イライザを部屋から追い出した。

恵まれていた過去の自分を思い出し、心が押しつぶされそうな苦しみを味わった。
ある日、ついに手紙を書こうと、ペンをとった。

心には自分に唯一甘かったニルドの姿しかなかった。

助けてほしいと、連れ出してほしいと書いて送れば、きっと迎えにきてくれると思ったが、どうしてもそれは、書けなかった。

あれだけ散々我儘なことを言い、泣いてすがるニルドに暴言を吐いて、逃げるように離縁してきたのだ。
今更、自分が間違っていたなど、とても言えない。

それぐらいなら、意地でも幸せなふりをしていた方がましだった。

拳を握りしめ、イライザは書きかけの手紙を丸めて捨てた。

翌日から、覚悟を決めたようにイライザは働き始めた。

今まで当たり前のように食べてきた食事も、作ってくれる人がいなければ手に入らないものだったのだと初めて理解した。
アルノに諭された時は、そんなこと考えようとも思わなかった。ただひたすら腹が立っただけだった。

きれいな家も、豪華な部屋も、黙っていては手に入らない。
世継ぎを作る行為も、自分を思いやってくる人があって、初めて気持ち良いものになるのだ。

自分に仕えたいと思ってくれる人が、どれだけ貴重な存在だったかということも思い知った。
こんなに何も出来ない自分を、そのまま愛してくれた人が、どれだけ奇跡的な存在であったのかということも。

それを認めることが一番、イライザにとっては辛いことだった。
誰も教えてくれなかったのだから仕方がない。
そう自分の心を慰めようとしたが、苛立ちと怒りが募った。
家族に放置されていた自分を教え、導こうとしてくれた人が一人もいなかったとはいえない。

面倒に思ってそうした人たちの手を、振り払って生きてきたことまで思い出してしまう。

後悔しても苦しく、前に進もうとしても辛く、何もかも放り出して死んだように生きるばかりになっていった。

そんなある日、北のノーラ山から大量の荷物が届いた。
ニルドが自分のために何かしてくれたのではないかと、イライザは喜んだが、送り主はニルドではなかった。

それは全てアルノからで、荷物についてきた手紙には、契約師は贅沢が禁じられているため、こんなものを城に残されては困ると書かれていた。

それはノーラ山の城で、ニルドに渡された大金で贅沢三昧に買い物した品々で、豪華なベッドや絨毯、タペストリーに鏡台、ご丁寧に、イライザが割ったランプまで木箱にそのまま入っていた。

「嫌味な女ねっ」

割れたランプを箱の底に見つけたイライザは、悪態をつきながら泣いていた。
アルノに言われた言葉がふと頭に蘇る。

――困ったら、助けてほしいと言えた方がいいかもよ……

拳を握りしめ、イライザは転がり落ちていきそうな心をなんとか引き止めた。

「絶対に言ってやるものですか。私を誰だと思っているのよ」

イライザは豪華な家具を全て自分の部屋に運び込み、ちゃんとそれを手伝った者達に報酬を与えた。
僅かなお金でも、彼らは純粋に喜んだ。
ノーラ山の城から届けられた王座のような椅子に座り、イライザは便箋を前にペンをとった。

何度も書き直し、イライザはなんとか手紙を完成させると、初老の夫に手紙を出したいとお願いに行った。
夫はそれを手にして、一番近い要塞まで行き、伝達所の騎士に手紙を託した。


数日後、その手紙をノーラ山の城の厨房で鍋を磨いていたハンナが、馬ではるばるやってきた国の伝達所の役人から受け取った。
ハンナは、濡れた手をエプロンで拭うと、手紙を大事に胸に抱き、城内にいるアルノのところに急いだ。

ちょうど城の点検に来ていたアルノは、イライザ姫が使っていた廊下や部屋を見回っていた。
廊下や壁にあった絨毯やタペストリーは取り払われ、無駄に豪華な花瓶も消えている。

「アルノ!手紙よ!」

走ってきたハンナから手紙を渡され、アルノは光の差し込む窓辺に寄って、封筒を開けた。

「驚いた。これ、ここにいたお姫様からよ」

「え?!嘘でしょう?何の用?」

ハンナも後ろから覗き込む。

「荷物が届いたみたい。もっと早く送ってくれたら良かったのにといやみくさい言い方で書いてある。それから、あんたの城より、ずっと快適なところにいるから、心配しないようにですって。心配なんて、するわけがないじゃない」

ぷっとハンナが噴き出した。

「きっと、また書いてくるわよ」

「は?何の用で?」

イライザ姫の荷物を送り返す先を、ゼインに調べてもらい、やっとあの姫様の痕跡を城からきれいさっぱり消したばかりだ。
ニルドは見るのも辛いからと引き取りを拒んだ。
むしろ、金に換えて少しでもアルノに返そうとしたのだ。

だけど、市場で売られてしまえば、誰かの手を伝い、また自分の城にやってくる可能性だってある。
あんな面倒ごとはまるごと遠くにやってしまった方が良い。

そんな風に考え、そっくりそのまま、イライザのところに送ったのだ。
ハンナは手紙の文章をアルノに読んでもらい、勝ち誇ったように笑った。

「この手紙にはね、素直になれない子供の声が隠れているのよ。
つまり、荷物を受け取りました。本当にとても困っていたから、助かりました。あなたのところのように、今は快適ではないけど、快適な場所になるように頑張ります」

「はあ?」

アルノは絶対にあり得ないといった顔をしたが、ハンナは手紙を取り上げ、丁寧に畳んだ。

「私にはわかるのよ。あんたをいじめていた私にはね」

「いじめっ子同士ということね。手紙の処理はお願いしても良い?」

それはさすがに面倒だと顔をしかめたハンナを見て、アルノはしてやったりといった顔をした。

「こんな仕返しが出来るとは思わなかった。ぜひ、お願いね」

不満な顔をしたハンナだったが、イライザに返事を書いた。
簡単な文字しか書けなかったため、それは子供のようなお手紙になった。

内容はいたって普通のもので、荷物が届いてよかったことと、それからもっとうまくお世話ができればよかったこと、それから元気そうで良かったと付け加えた。

貴族の姫君であるイライザが、召使のハンナからの手紙をどう思うかわからなかったが、そんな手紙を出したことを忘れた頃にイライザからハンナ宛に手紙が来た。

貴族の姫君からの手紙を受け取ったハンナは、仕方なくアルノに読んでもらいに行くことになった。

そのやりとりは、不思議なことに途絶えそうになりながらも、細々と続いたのだ。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...