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34.少女のような少年
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廃屋のような我が家に戻ったアルノは、泥だらけだったはずの道に、青いタイルが敷き詰められていることに驚き、裏口に回り込んだ。
雪がとけ、水たまりだらけになっていた裏庭には、なんと緑の芝生が敷かれている。
厩舎の扉が開いているのに気づき、近づいてみると、その奥に人影が見えた。
「誰かいるの?」
がたがたと慌てたような物音が聞こえ、干し草まみれの少女が顔を出した。
「あ、あの、お世話になります」
短い赤毛の少女が出てきてぺこりと頭を下げる。
少し大きめの作業服に身を包み、分厚い手袋と頑丈そうなブーツを着けている。
服から覗く手足はまだ細く、子供のようだった。
「どういうこと?何も聞いていないけど、誰に連れてきてもらったの?」
子供の相手などしたことのないアルノは、どう話しかけていいかもわからず、助けを求めるように辺りを見る。
「あの、クシール様に……」
「クシールね……。クシールは家?」
アルノは身を翻し、厩舎を出ると、裏口から家に入った。
居間のテーブルの定位置に、クシールの姿があった。
「クシール!」
中央教会の腐敗を一掃し、その頂点に立ったクシールだったが、ここにいるクシールは少しも偉そうには見えない。
いつもと変わらない感情の読めない澄ました表情で、アルノに視線を向ける。
「契約紙を見ていました。質が上がりましたね」
その手元には、アルノが完成させた契約紙があった。
「本当に?何もしていないのに、品質が上がるなんて信じられない」
淫らな想像を膨らませながら、作った宣誓液で仕上げた契約紙が、なぜそんなに評価されることになるのか、本当にさっぱりわからない。
アルノは今回森で作成してきた宣誓液の瓶をかごから取り出し、テーブルに並べた。
ひと瓶取り上げ、クシールはそれを窓越しの光にかざす。
「結婚で浮かれているわけでもないようですね。こちらも問題ありません。ですが、もう少し良いものが作れるのでは?」
アルノは向かいに座り、頬肘をついてクシールを睨む。
「どうすれば良いものが作れるの?」
「私は契約師ではありませんから、わかりません。心がけでは?」
なんていい加減な話なのだろうとアルノは考えた。
貧しい暮らしをさせ、給料も全部クシールが管理し、窮屈な生活を送っているのに、わからないとはどういうことなのか。わからないなら、もっと贅沢をしても良いじゃないかと不満が膨れ上がる。
「欲深くて、清らかじゃない心の契約師がこれを作っていたとしたらどう?欲深い方が、良い物が出来るとは考えないわけ?」
「贅沢な暮らしを始めた契約師の作る契約紙の質が向上した話は存在しません」
「これまでの話でしょう?これからもそうとは限らないじゃない……」
「あ、あの……」
背後から聞こえた声に、アルノは先ほど厩舎で見つけた子供のことを思い出した。
振り返ると、そこに赤毛の少女がもじもじと立っている。
「そうだった……。クシール、この子は誰?タイルを敷いたり、家の周りをきれいにしてくれたのはこの子なの?でもまだ子供よ……。どうしてここにいるの?」
「彼は教会の孤児院に自らやってきた変わり者ですよ。仕事が欲しいというので、世話人の見習いとして修業してもらうことにしました」
「彼?女の子じゃないの?」
少女と間違われた赤毛の少年は、顔を赤くして下を向いてしまう。
その姿は、華奢で弱々しい少女のようで、専属世話人候補として相応しい容姿に思えた。
しかしアルノからしてみたら、やはり子供だ。
「一度、森に連れて行ってみてもらえますか?もしマカの実を見つけることが出来たら、世話人よりも契約師として教育します。本人は世話人を希望していますが、契約師になれるのであればそちらが優先です。その時は、弟子にしてください」
「連れていくのは構わないけど……弟子は……」
「クレンと申します。よろしくお願いします」
赤毛の少年がぺこりと頭を下げる。
アルノは机の上に身を乗り出し、クシールに顔を近づけると、クレンに聞こえないように囁いた。
「女の子の弟子が良かった」
「やめた方が良いでしょうね。ゼインに恋をしてしまうかもしれませんよ」
確かに、弟子が女の子であれば、アルノの夫であるゼインに恋をする危険性は高い。
でも男の子だからといって安全とも限らない。
「私、女友達がいないのよ。仲良くできそうな女の子をお願いできない?」
「できません。借金までして建てた城に行ってはどうです?暇そうな女性が一人いますよ」
それが誰のことをさしているのか一瞬で理解したアルノは、嫌な顔をした。
「どちらにしても、クレンは子供でしょう?学校は行けないの?私は行きたかったのに行かせてもらえなかったのよ。出来るなら学校に行かせてあげてよ。その方が道を選べるでしょう?」
「教会の勉強はありますよ。彼の学習用の棚を一つ増やしました。それから、アルノさんはいつまでここに住むつもりですか?城の方の部屋はほとんど使った形跡がなかったので、こちらを手入れするようクレンに命じましたが、必要な家具があれば用意します。豪華なものは無理ですが」
クシールは鞄から契約紙を入れるファイルを取り出し、丁寧に挟み込むと、銀貨を数枚テーブルに置いた。
「残りは借金の返済にあてさせて頂きますね」
「これじゃ、クレンを養えないじゃない」
「質素な生活に慣れさせてください」
久しぶりに会えたというのに、クシールはさっさと立ち上がり、優雅にお辞儀をした。
「アルノさん、さらなる品質の向上を期待しております」
仮面を被ったように本心を面に出さないクシールを、やはり胡散臭げに見上げ、アルノはこれだけ信用ならない男なのに、どうして嫌いになれないのだろうかと不思議に思った。
師匠が死んで一人ぼっちになった時に、唯一傍にいてくれた人であり、優しくもないが、突き放したりもしない。
「ゼインには会ったの?」
家を出て行こうとしていたクシールは振り返り、完璧な作り物の微笑を見せた。
「彼はこれから忙しくなるので、近々ここを離れるはずです」
「そうなの!」
淫らな夜を楽しみに仕事を頑張ったのに、がっかりだとわかりやすく顔に出したアルノに対し、クシールが容赦ない一言を発した。
「欲求不満になっても、クレンを襲わないでくださいね。彼はまだ学んでいませんから」
「なっ!」
いくら淫らなことが好きだからといって、子供を襲う趣味はない。
誤解されていないかと、ばっと後ろを向く。
クレンが耳まで赤くして俯いてる。
「そ、そんなことするわけないじゃない!子供よ!」
冗談だと言ってもらわないと困ると前を向くと、もうそこにクシールの姿はなく、容赦なくその足音まで遠ざかっていた。
こんな気まずい空気にしておいて、もう帰ったのかと呆然とする。
なんていじわるな人なのだろうと内心で毒づき、仕方なくアルノは自分でなんとかしなければと後ろを向く。
アルノに怯えているのか、クレンは女の子のような可愛い顔を赤くしている。
「クシールは冗談で言ったのよ。私は新婚だし、夫ひとすじだから安心してね」
クレンは沈黙している。
人と関わって来なかったアルノは、なんと言って安心させていいかわからず、途方にくれかけたが、とにかく弟子の育成も仕事のうちと考えようと気持ちを切り替えた。
テーブルに並んだ宣誓液を窓辺の引き出しに移動させながら、クレンに声をかける。
「仕事中だったのでしょう?私は瓶を戻したら少し休むから。そのあと、何か食べて森に出ましょう。一日以内にマカの実を見つけられたら、契約師の見習いよ」
「はい!ありがとうございます!」
クレンが張り切って裏口を出て行く。
短い髪でありながら、女の子にしか見えない美形ぶりに、アルノは心底感心した。
「あんなに可愛いのに、聖職者になりたいだなんてもったいない。お金持ちの女の子でも捕まえればいいのに」
しかし美形であるがために、欲深い大人に食い物にされてしまうこともあると考えると、美形に生まれることが幸運なことなのかわからなくなる。
アルノはやっと一人になれたことにほっとして寝室に向かった。
汚れた服を全部脱ぎ捨てると、そのまま毛布に潜り込む。
瞬きする間もなく、アルノは死んだように眠りに落ちた。
やがて訪れた夢は、アルノの想像を凌駕する、あまりにも生々しい淫らな夢だった。
相手は当然夫になったゼインで、アルノに甘い口づけをしながら、その手は淫らな動きを始める。
乳首に触れ、お尻をまさぐり、さらに熟れて腫れあがったような柔らかな秘芯の周りに手を這わす。
ついに膝が割り込み、足を大きく開かされる。
物陰から村人たちの淫らな行為を盗み見て、想像を膨らませてきたが、実際の行為とはやはり比べ物にならない。
こんなに気持ちが良いとは思いもしなかった。
「んっ……んっ……」
夢の中だというのに、ついに声までこぼれ始める。
大きく股を開かされ、正面にゼインの美貌が迫ってくる。
喉に噛みつかれるような口づけを受け、アルノは胸を押し上げる。
「ゼイン……来て……」
強い感触が胸に触れ、首に強く吸われたような痛みが走る。
まるで現実で受けたかのような強い衝撃に、アルノはぱっと目を覚ました。
夢の中でゼインの顔が合った位置に、知らない顔があった。
「え?!な、何をしているの……」
慌てて逃げようとするアルノの肩を、上に乗った人物が強い力で押さえこむ。
その手をほどこうと身をよじると、床に散らばったアルノの服が見えた。
脱がされたのだと思ったが、寝る前に自分で全部脱いだことを思い出した。
疲れすぎて、着替える気にもなれなかったのだ。
「驚かないでください。私があなたを癒します」
澄んだ少年の声が耳に落ちてきた。
断固とした強い響きは、確かに現実のものだった。
「な、何を」
寝起きで、さらにこれまでの人生で想像だにしてこなかった状況に混乱し、アルノは改めて少年を見た。
きれいな白い体だが、全体的にほっそりとしていてまだ子供だ。
それなのに、全身に痛々しいほどの淫靡な空気がまとわりついている。
「や、やめなさい」
少年の名前を思い出そうとしたが、冷静さを失った頭では、一回聞いただけの名前はすぐに出てこない。
そんなほとんど知らない少年は、アルノの抵抗を簡単に押さえ込み、アルノの足の間に腰を入れている。
まさかもう入っているのかと、アルノはぞっとして、なんとか首だけでも起こして自分の股間を覗き見ようとした。
その感覚はなかったが、少年のものが小さすぎてわからないだけということも考えられる。
「ちょ、ちょっと放して!弟子になりにきたのでしょう?!」
さすがに子供相手に噛みついたり、攻撃したりすることは出来ない。
なんとかどいてくれるよう説得を試みる。
ところが少年はさらに強い力でアルノを押さえ込んだ。
「クシール様はそう思われたようですが、違います。私は世話人の見習いです。だから、学ばなければなりません。
あなたの体をお慰めします」
少年は男の顔で、アルノの肩に唇を押し付ける。
「やめなさい!だめよ!放して!」
もがき続けるアルノをついに抱きしめ、クレンはその肌にしゃぶりつく。
「いやああああっ」
ついに悲鳴をあげた時、寝室の扉が乱暴に開いた。
「アルノ!」
飛び込んできた人物の顔を見て、アルノはさらにパニックに陥った。
それは新婚の夫であり、状況を判断しきれないといった困惑の表情で立ち尽くしている。
これは、最悪の状況だった。
新婚の妻がベッドで、他の男と裸で抱き合っているのだから、言い訳をするのは至難の業だ。
ついに泣き出し、アルノは絶叫した。
「違うの!これは違うのよ!誤解しないで!」
ようやく、ゼインはつかつかとベッドに近づき、アルノにしがみついている少年を、容赦のない力でそこから引き剥がした。
雪がとけ、水たまりだらけになっていた裏庭には、なんと緑の芝生が敷かれている。
厩舎の扉が開いているのに気づき、近づいてみると、その奥に人影が見えた。
「誰かいるの?」
がたがたと慌てたような物音が聞こえ、干し草まみれの少女が顔を出した。
「あ、あの、お世話になります」
短い赤毛の少女が出てきてぺこりと頭を下げる。
少し大きめの作業服に身を包み、分厚い手袋と頑丈そうなブーツを着けている。
服から覗く手足はまだ細く、子供のようだった。
「どういうこと?何も聞いていないけど、誰に連れてきてもらったの?」
子供の相手などしたことのないアルノは、どう話しかけていいかもわからず、助けを求めるように辺りを見る。
「あの、クシール様に……」
「クシールね……。クシールは家?」
アルノは身を翻し、厩舎を出ると、裏口から家に入った。
居間のテーブルの定位置に、クシールの姿があった。
「クシール!」
中央教会の腐敗を一掃し、その頂点に立ったクシールだったが、ここにいるクシールは少しも偉そうには見えない。
いつもと変わらない感情の読めない澄ました表情で、アルノに視線を向ける。
「契約紙を見ていました。質が上がりましたね」
その手元には、アルノが完成させた契約紙があった。
「本当に?何もしていないのに、品質が上がるなんて信じられない」
淫らな想像を膨らませながら、作った宣誓液で仕上げた契約紙が、なぜそんなに評価されることになるのか、本当にさっぱりわからない。
アルノは今回森で作成してきた宣誓液の瓶をかごから取り出し、テーブルに並べた。
ひと瓶取り上げ、クシールはそれを窓越しの光にかざす。
「結婚で浮かれているわけでもないようですね。こちらも問題ありません。ですが、もう少し良いものが作れるのでは?」
アルノは向かいに座り、頬肘をついてクシールを睨む。
「どうすれば良いものが作れるの?」
「私は契約師ではありませんから、わかりません。心がけでは?」
なんていい加減な話なのだろうとアルノは考えた。
貧しい暮らしをさせ、給料も全部クシールが管理し、窮屈な生活を送っているのに、わからないとはどういうことなのか。わからないなら、もっと贅沢をしても良いじゃないかと不満が膨れ上がる。
「欲深くて、清らかじゃない心の契約師がこれを作っていたとしたらどう?欲深い方が、良い物が出来るとは考えないわけ?」
「贅沢な暮らしを始めた契約師の作る契約紙の質が向上した話は存在しません」
「これまでの話でしょう?これからもそうとは限らないじゃない……」
「あ、あの……」
背後から聞こえた声に、アルノは先ほど厩舎で見つけた子供のことを思い出した。
振り返ると、そこに赤毛の少女がもじもじと立っている。
「そうだった……。クシール、この子は誰?タイルを敷いたり、家の周りをきれいにしてくれたのはこの子なの?でもまだ子供よ……。どうしてここにいるの?」
「彼は教会の孤児院に自らやってきた変わり者ですよ。仕事が欲しいというので、世話人の見習いとして修業してもらうことにしました」
「彼?女の子じゃないの?」
少女と間違われた赤毛の少年は、顔を赤くして下を向いてしまう。
その姿は、華奢で弱々しい少女のようで、専属世話人候補として相応しい容姿に思えた。
しかしアルノからしてみたら、やはり子供だ。
「一度、森に連れて行ってみてもらえますか?もしマカの実を見つけることが出来たら、世話人よりも契約師として教育します。本人は世話人を希望していますが、契約師になれるのであればそちらが優先です。その時は、弟子にしてください」
「連れていくのは構わないけど……弟子は……」
「クレンと申します。よろしくお願いします」
赤毛の少年がぺこりと頭を下げる。
アルノは机の上に身を乗り出し、クシールに顔を近づけると、クレンに聞こえないように囁いた。
「女の子の弟子が良かった」
「やめた方が良いでしょうね。ゼインに恋をしてしまうかもしれませんよ」
確かに、弟子が女の子であれば、アルノの夫であるゼインに恋をする危険性は高い。
でも男の子だからといって安全とも限らない。
「私、女友達がいないのよ。仲良くできそうな女の子をお願いできない?」
「できません。借金までして建てた城に行ってはどうです?暇そうな女性が一人いますよ」
それが誰のことをさしているのか一瞬で理解したアルノは、嫌な顔をした。
「どちらにしても、クレンは子供でしょう?学校は行けないの?私は行きたかったのに行かせてもらえなかったのよ。出来るなら学校に行かせてあげてよ。その方が道を選べるでしょう?」
「教会の勉強はありますよ。彼の学習用の棚を一つ増やしました。それから、アルノさんはいつまでここに住むつもりですか?城の方の部屋はほとんど使った形跡がなかったので、こちらを手入れするようクレンに命じましたが、必要な家具があれば用意します。豪華なものは無理ですが」
クシールは鞄から契約紙を入れるファイルを取り出し、丁寧に挟み込むと、銀貨を数枚テーブルに置いた。
「残りは借金の返済にあてさせて頂きますね」
「これじゃ、クレンを養えないじゃない」
「質素な生活に慣れさせてください」
久しぶりに会えたというのに、クシールはさっさと立ち上がり、優雅にお辞儀をした。
「アルノさん、さらなる品質の向上を期待しております」
仮面を被ったように本心を面に出さないクシールを、やはり胡散臭げに見上げ、アルノはこれだけ信用ならない男なのに、どうして嫌いになれないのだろうかと不思議に思った。
師匠が死んで一人ぼっちになった時に、唯一傍にいてくれた人であり、優しくもないが、突き放したりもしない。
「ゼインには会ったの?」
家を出て行こうとしていたクシールは振り返り、完璧な作り物の微笑を見せた。
「彼はこれから忙しくなるので、近々ここを離れるはずです」
「そうなの!」
淫らな夜を楽しみに仕事を頑張ったのに、がっかりだとわかりやすく顔に出したアルノに対し、クシールが容赦ない一言を発した。
「欲求不満になっても、クレンを襲わないでくださいね。彼はまだ学んでいませんから」
「なっ!」
いくら淫らなことが好きだからといって、子供を襲う趣味はない。
誤解されていないかと、ばっと後ろを向く。
クレンが耳まで赤くして俯いてる。
「そ、そんなことするわけないじゃない!子供よ!」
冗談だと言ってもらわないと困ると前を向くと、もうそこにクシールの姿はなく、容赦なくその足音まで遠ざかっていた。
こんな気まずい空気にしておいて、もう帰ったのかと呆然とする。
なんていじわるな人なのだろうと内心で毒づき、仕方なくアルノは自分でなんとかしなければと後ろを向く。
アルノに怯えているのか、クレンは女の子のような可愛い顔を赤くしている。
「クシールは冗談で言ったのよ。私は新婚だし、夫ひとすじだから安心してね」
クレンは沈黙している。
人と関わって来なかったアルノは、なんと言って安心させていいかわからず、途方にくれかけたが、とにかく弟子の育成も仕事のうちと考えようと気持ちを切り替えた。
テーブルに並んだ宣誓液を窓辺の引き出しに移動させながら、クレンに声をかける。
「仕事中だったのでしょう?私は瓶を戻したら少し休むから。そのあと、何か食べて森に出ましょう。一日以内にマカの実を見つけられたら、契約師の見習いよ」
「はい!ありがとうございます!」
クレンが張り切って裏口を出て行く。
短い髪でありながら、女の子にしか見えない美形ぶりに、アルノは心底感心した。
「あんなに可愛いのに、聖職者になりたいだなんてもったいない。お金持ちの女の子でも捕まえればいいのに」
しかし美形であるがために、欲深い大人に食い物にされてしまうこともあると考えると、美形に生まれることが幸運なことなのかわからなくなる。
アルノはやっと一人になれたことにほっとして寝室に向かった。
汚れた服を全部脱ぎ捨てると、そのまま毛布に潜り込む。
瞬きする間もなく、アルノは死んだように眠りに落ちた。
やがて訪れた夢は、アルノの想像を凌駕する、あまりにも生々しい淫らな夢だった。
相手は当然夫になったゼインで、アルノに甘い口づけをしながら、その手は淫らな動きを始める。
乳首に触れ、お尻をまさぐり、さらに熟れて腫れあがったような柔らかな秘芯の周りに手を這わす。
ついに膝が割り込み、足を大きく開かされる。
物陰から村人たちの淫らな行為を盗み見て、想像を膨らませてきたが、実際の行為とはやはり比べ物にならない。
こんなに気持ちが良いとは思いもしなかった。
「んっ……んっ……」
夢の中だというのに、ついに声までこぼれ始める。
大きく股を開かされ、正面にゼインの美貌が迫ってくる。
喉に噛みつかれるような口づけを受け、アルノは胸を押し上げる。
「ゼイン……来て……」
強い感触が胸に触れ、首に強く吸われたような痛みが走る。
まるで現実で受けたかのような強い衝撃に、アルノはぱっと目を覚ました。
夢の中でゼインの顔が合った位置に、知らない顔があった。
「え?!な、何をしているの……」
慌てて逃げようとするアルノの肩を、上に乗った人物が強い力で押さえこむ。
その手をほどこうと身をよじると、床に散らばったアルノの服が見えた。
脱がされたのだと思ったが、寝る前に自分で全部脱いだことを思い出した。
疲れすぎて、着替える気にもなれなかったのだ。
「驚かないでください。私があなたを癒します」
澄んだ少年の声が耳に落ちてきた。
断固とした強い響きは、確かに現実のものだった。
「な、何を」
寝起きで、さらにこれまでの人生で想像だにしてこなかった状況に混乱し、アルノは改めて少年を見た。
きれいな白い体だが、全体的にほっそりとしていてまだ子供だ。
それなのに、全身に痛々しいほどの淫靡な空気がまとわりついている。
「や、やめなさい」
少年の名前を思い出そうとしたが、冷静さを失った頭では、一回聞いただけの名前はすぐに出てこない。
そんなほとんど知らない少年は、アルノの抵抗を簡単に押さえ込み、アルノの足の間に腰を入れている。
まさかもう入っているのかと、アルノはぞっとして、なんとか首だけでも起こして自分の股間を覗き見ようとした。
その感覚はなかったが、少年のものが小さすぎてわからないだけということも考えられる。
「ちょ、ちょっと放して!弟子になりにきたのでしょう?!」
さすがに子供相手に噛みついたり、攻撃したりすることは出来ない。
なんとかどいてくれるよう説得を試みる。
ところが少年はさらに強い力でアルノを押さえ込んだ。
「クシール様はそう思われたようですが、違います。私は世話人の見習いです。だから、学ばなければなりません。
あなたの体をお慰めします」
少年は男の顔で、アルノの肩に唇を押し付ける。
「やめなさい!だめよ!放して!」
もがき続けるアルノをついに抱きしめ、クレンはその肌にしゃぶりつく。
「いやああああっ」
ついに悲鳴をあげた時、寝室の扉が乱暴に開いた。
「アルノ!」
飛び込んできた人物の顔を見て、アルノはさらにパニックに陥った。
それは新婚の夫であり、状況を判断しきれないといった困惑の表情で立ち尽くしている。
これは、最悪の状況だった。
新婚の妻がベッドで、他の男と裸で抱き合っているのだから、言い訳をするのは至難の業だ。
ついに泣き出し、アルノは絶叫した。
「違うの!これは違うのよ!誤解しないで!」
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