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第二章 託された女
35.初体験の男
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翌日、リーンは黒板とチョークを持って町に下りた。
職業斡旋所の列に並び、仕事を探していると黒板に書いた。
話せないリーンを蔑むように見た窓口の男は、リーンが提示した紋章に目をみはった。
「まさか……騎士の奥様ということですか?」
途端に周囲の人々の視線がリーンに集まる。
誰かがそういえばと囁きだした。
「風呂屋に騎士が飛び込んできた騒ぎがあったと聞いたことがある」
「騎士様までたらしこむとはなかなか優秀な性接待奴隷だったのではないか?」
リーンは聞こえないふりをして黒板に書いた字に付け足した。
『接待以外の仕事をお願いします』
窓口の男は困惑したようにリーンに顔を近づけた。
「いくら立派な騎士の夫を持っているとはいえ、あなたのような経歴の方は誰も雇いたがらないと思います」
リーンは肩を落とし、丘の上の小屋に戻った。
教会の厨房で皿洗いや野菜の下ごしらえを手伝っていたが、報酬はわずかな野菜くずだった。
だいたい敷地内に家賃も払わず、寄付もせず住んでいるのだ。
野菜くずでももらえるだけ有難い話だった。
グレアムのお金に頼らないと生きていけない自分にがっかりし、リーンは寝台に寝そべり、ドナンが板に描いた彫刻の絵を眺めた。
こんなにきれいに笑っていただろうかと、リーンは自分の顔ながら見惚れ、その彫り込まれた凹凸を指でなぞった。
(もうこんな風に笑えないよ……。ドナン……)
涙を浮かべながら、リーンはその彫刻の絵を胸に抱きしめた。
翌日、リーンは再び仕事を探しに行ったが、やはり仕事斡旋所から断られ、その帰り道で怪しい男から声をかけられた。
「町の人間が使えるような場所ではなく、もっと身分の高い方が出入りする娼館があります。そちらはどうですか?」
リーンは鼻に皺をよせ、不快な顔をすると走って逃げた。
丘をかけあがり、ドナンのお墓の前に戻ってくると、リーナはしゃがみ込んで唇をかみしめた。
涙があふれだすと、リーンは袖で目元を拭った。
鼻をすすり、顔を上げた時、斜面を登ってくる男の姿が見えた。
数日ぶりの懐かしい顔に驚き、立ちあがると、丘を登ってきた男がリーンに気づき、軽く手を挙げた。
目が合った途端、リーンは逃げるように小屋に走った。
扉を閉めると、寝台の中にもぐりこむ。
しばらくして、扉が鳴り丘を登ってきた男が入ってきた。
「リーン、すまない。遅くなった……」
グレアムの声は沈んでいた。自分と目を合わせた途端、リーンは逃げるように小屋に戻ってしまったのだ。
よくわからないが、とにかくリーンは怒っているのだと思った。
リーンが寝台の上にうずくまっているのを確認し、グレアムは担いできた荷物を床におろし、物入れの前に座り込む。
扉を開けると、躊躇いがちに胸のポケットを探り小さな物を取り出した。
それを拳に握りしめ、奥に隠してある袋を取り出そうと手を伸ばす。
不意に、床を歩く軽い音が近づき、グレアムは手を止めて振り返った。
目の前に黒板が突き出される。
『それなに?』
さっき逃げて行ったリーンが、今は隣に立っていた。
「こ、これは……」
黒板に書かれた質問に答えようとして口ごもったグレアムは、おずおずと拳を開いた。
大きな手に包まれていたのは美しい獣の牙だった。
その表面に赤い花が描かれている。
「その……角狼の牙だ。北の村で作られている工芸品で、描かれている花がきれいだった……。その……」
歯切れ悪く説明し、グレアムは声を小さくすると俯いた。
グレアムに売り飛ばされたリーンは、何一つ自分の物を持てなかった。
服一枚自由に着る事さえ許されなかったのだ。
そんな境遇に追いやった自分が、今更身を飾る物を買ってくるなんて身勝手すぎるとグレアムはわかっていた。
それでも外で小さな土産物を目にするたびに、リーンを思い出し買ってしまうのだ。
首飾りやスカーフ、小さな首飾り、ちょっとした装飾品を買ってきて渡せないまま物入れに隠してあった。
「こんなもので……許されるとは思っていない。ただ、似合いそうだと……いや。俺の自己満足だ……。すまない」
ドナンが彫ったリーンの絵以上の贈り物はこの世界に存在しない。
毛皮を暖炉で焼こうとしたみたいに、リーンは怒ってグレアムからの贈り物を投げ捨ててしまうかもしれない。
お前にだけはこんなことをされたくないと、黒板に書きなぐり、暴れだすかもしれない。
リーンを怒らせたくないと思いながらも、グレアムはその距離を縮めたくてたまらなかった。
何かせずにはいられなかったのだ。
黒板にチョークで字を書く音が聞こえ、うなだれていたグレアムは顔をあげた。
『私の?』
掲げられた黒板の字に、グレアムは小さく頷いた。
大きなグレアムの手は震えている。
リーンはその手の上から角狼の牙の首飾りをつかみ上げた。
グレアムの手の中にはすっぽりおさまっていたのに、リーンが握ると拳の上下から牙の一部がはみ出した。
表面を細かく削り、花の形が描かれている。
その上から赤い絵の具で色が塗られていた。
牙の上部には穴が空けられ、首からさげられるように紐がついている。
リーンはそれを首にかけた。
赤い花が胸元で咲いたようにぶら下がった。
グレアムは目を潤ませそれを見上げ、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
あとはいつも通りだった。粗末な食事を共に食べると、リーンが先に毛布に潜り込んだ。
「リーン、お休み」
最後に灯りを消したのはグレアムだった。
テーブルのランプを消すと、暖炉の炎が残された。
薪を奥に追いやり、自然に火が消えるように調整すると、グレアムは自分の寝床に戻ろうとした。
その腕をほっそりとした手が掴んだ。
薄暗い炎の灯りにリーンの顔が浮かび上がる。
「眠れないのか?」
何か言いたいことがあるのだと思い、グレアムはテーブルから黒板とチョークを取り上げた。
リーンはグレアムの腕を掴んだまま、寝台に座り、グレアムをじっと見上げている。
黒板を枕元に置きながら、グレアムはリーンの言葉をさぐるようにその瞳を覗き込んだ。
リーンの手がグレアムの腕を滑り、大きな手に重なった。
グレアムは驚いたが、リーンの力に逆らおうとはしなかった。
リーンは両手でグレアムの片手を持ち上げ、引っ張ると、そっと豊かな胸の上に置いた。
吸い付くような柔らかな感触がグレアムの手のひらに伝わる。
生唾をごくりと飲みこみ、グレアムは震えながら手を引こうとした。
「リーン……駄目だ……」
グレアムの口から掠れた声がこぼれた。
長旅を終えて戻ってきた男の体にはあまりにも強い刺激だ。
距離を縮めたいと願ってきた女性の体であればなおさらだ。
リーンの豊かな胸の上から逃げようとするグレアムの手をリーンが上から押さえつけた。
グレアムの手の下で柔らかな胸が形を変え、指が沈み込む。
必死に耐えるグレアムは警告するように名前を呼んだ。
「リーン……」
リーンが伸びあがって、グレアムの唇に唇を重ねた。
例えようもない甘美な感触に、グレアムの喉がもう一度鳴った。
唇を離すと、リーンはようやく黒板に書いた。
『私は汚い?』
消えかけた暖炉の火に浮かび上がるその字を目にした瞬間、グレアムは押さえ込んできた想いを爆発させた。
獣のようにグレアムはリーンの体を寝台に押し倒し、夢中で抱きしめる。
「リーン……きれいだ。本当にきれいだ。リーン……」
何度も名前を呼びながら、グレアムはリーンの胸に顔を埋め、手で触れ、舌で味わい、それから張り詰めたズボンの紐を解いた。
その間にリーンは慣れた仕草で服を全部脱ぎ捨てる。
グレアムは薄暗い炎の灯りに照らし出されるリーンの体を見おろし、感嘆のため息をついた。リーンが上半身を起こし、小さな舌を出してグレアムの体を愛撫しようとするのをグレアムは引き離し、自分がリーンの体に舌を這わせた。
「あ……ああ……」
グレアムの腰が入れてもいないのに動き出し、リーンは急いで大きく股を開いた。
熱を持った大きな手がリーンの体を優しく撫でるが、それ以上のことはせず、グレアムは戸惑ったように喘ぎながら腰を揺らすばかりだ。
リーンはグレアムの張り詰めた肉棒に手を添えて、場所を教えた。
「リーン……初めてなんだ。すまない。あんまりうまくできそうにない」
限界を告げる男の情けない声に、リーンは驚きながら、丁寧にグレアムを導いた。
グレアムの物がリーンの中に入った途端、それはあっという間にはじけ、グレアムの艶っぽい声がこぼれた。
「ああ……」
すぐに熱を取り戻したそれは、今度こそリーンの中で動き始めた。
リーンの名前を何度も呼ぶグレアムは苦しそうに目を閉ざし、必死にリーンの唇を探している。
その唇は震え、どうしていいのか分からない様子で開いたり閉じたりして舌を動かしている。
まだリーンの唇に触れてもいないのに。
口づけも初めてなのだろうかと思いながら、リーンはグレアムの首を抱いた。
夢中で腰を振り、唇を貪り、さらに胸をもみ、リーンの体中に触れたグレアムは、本能のままに何度も欲望を吐き出し、最後に深く体を重ねると、リーンを腕に抱いて気を失ったように眠りに落ちた。
あまりにもせわしない交わりだったが、初めてであれば上出来だった。
リーンは枕元に立てかけていた彫刻の絵をうしろ向きにすると、グレアムの腕の中で目を閉じた。
職業斡旋所の列に並び、仕事を探していると黒板に書いた。
話せないリーンを蔑むように見た窓口の男は、リーンが提示した紋章に目をみはった。
「まさか……騎士の奥様ということですか?」
途端に周囲の人々の視線がリーンに集まる。
誰かがそういえばと囁きだした。
「風呂屋に騎士が飛び込んできた騒ぎがあったと聞いたことがある」
「騎士様までたらしこむとはなかなか優秀な性接待奴隷だったのではないか?」
リーンは聞こえないふりをして黒板に書いた字に付け足した。
『接待以外の仕事をお願いします』
窓口の男は困惑したようにリーンに顔を近づけた。
「いくら立派な騎士の夫を持っているとはいえ、あなたのような経歴の方は誰も雇いたがらないと思います」
リーンは肩を落とし、丘の上の小屋に戻った。
教会の厨房で皿洗いや野菜の下ごしらえを手伝っていたが、報酬はわずかな野菜くずだった。
だいたい敷地内に家賃も払わず、寄付もせず住んでいるのだ。
野菜くずでももらえるだけ有難い話だった。
グレアムのお金に頼らないと生きていけない自分にがっかりし、リーンは寝台に寝そべり、ドナンが板に描いた彫刻の絵を眺めた。
こんなにきれいに笑っていただろうかと、リーンは自分の顔ながら見惚れ、その彫り込まれた凹凸を指でなぞった。
(もうこんな風に笑えないよ……。ドナン……)
涙を浮かべながら、リーンはその彫刻の絵を胸に抱きしめた。
翌日、リーンは再び仕事を探しに行ったが、やはり仕事斡旋所から断られ、その帰り道で怪しい男から声をかけられた。
「町の人間が使えるような場所ではなく、もっと身分の高い方が出入りする娼館があります。そちらはどうですか?」
リーンは鼻に皺をよせ、不快な顔をすると走って逃げた。
丘をかけあがり、ドナンのお墓の前に戻ってくると、リーナはしゃがみ込んで唇をかみしめた。
涙があふれだすと、リーンは袖で目元を拭った。
鼻をすすり、顔を上げた時、斜面を登ってくる男の姿が見えた。
数日ぶりの懐かしい顔に驚き、立ちあがると、丘を登ってきた男がリーンに気づき、軽く手を挙げた。
目が合った途端、リーンは逃げるように小屋に走った。
扉を閉めると、寝台の中にもぐりこむ。
しばらくして、扉が鳴り丘を登ってきた男が入ってきた。
「リーン、すまない。遅くなった……」
グレアムの声は沈んでいた。自分と目を合わせた途端、リーンは逃げるように小屋に戻ってしまったのだ。
よくわからないが、とにかくリーンは怒っているのだと思った。
リーンが寝台の上にうずくまっているのを確認し、グレアムは担いできた荷物を床におろし、物入れの前に座り込む。
扉を開けると、躊躇いがちに胸のポケットを探り小さな物を取り出した。
それを拳に握りしめ、奥に隠してある袋を取り出そうと手を伸ばす。
不意に、床を歩く軽い音が近づき、グレアムは手を止めて振り返った。
目の前に黒板が突き出される。
『それなに?』
さっき逃げて行ったリーンが、今は隣に立っていた。
「こ、これは……」
黒板に書かれた質問に答えようとして口ごもったグレアムは、おずおずと拳を開いた。
大きな手に包まれていたのは美しい獣の牙だった。
その表面に赤い花が描かれている。
「その……角狼の牙だ。北の村で作られている工芸品で、描かれている花がきれいだった……。その……」
歯切れ悪く説明し、グレアムは声を小さくすると俯いた。
グレアムに売り飛ばされたリーンは、何一つ自分の物を持てなかった。
服一枚自由に着る事さえ許されなかったのだ。
そんな境遇に追いやった自分が、今更身を飾る物を買ってくるなんて身勝手すぎるとグレアムはわかっていた。
それでも外で小さな土産物を目にするたびに、リーンを思い出し買ってしまうのだ。
首飾りやスカーフ、小さな首飾り、ちょっとした装飾品を買ってきて渡せないまま物入れに隠してあった。
「こんなもので……許されるとは思っていない。ただ、似合いそうだと……いや。俺の自己満足だ……。すまない」
ドナンが彫ったリーンの絵以上の贈り物はこの世界に存在しない。
毛皮を暖炉で焼こうとしたみたいに、リーンは怒ってグレアムからの贈り物を投げ捨ててしまうかもしれない。
お前にだけはこんなことをされたくないと、黒板に書きなぐり、暴れだすかもしれない。
リーンを怒らせたくないと思いながらも、グレアムはその距離を縮めたくてたまらなかった。
何かせずにはいられなかったのだ。
黒板にチョークで字を書く音が聞こえ、うなだれていたグレアムは顔をあげた。
『私の?』
掲げられた黒板の字に、グレアムは小さく頷いた。
大きなグレアムの手は震えている。
リーンはその手の上から角狼の牙の首飾りをつかみ上げた。
グレアムの手の中にはすっぽりおさまっていたのに、リーンが握ると拳の上下から牙の一部がはみ出した。
表面を細かく削り、花の形が描かれている。
その上から赤い絵の具で色が塗られていた。
牙の上部には穴が空けられ、首からさげられるように紐がついている。
リーンはそれを首にかけた。
赤い花が胸元で咲いたようにぶら下がった。
グレアムは目を潤ませそれを見上げ、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
あとはいつも通りだった。粗末な食事を共に食べると、リーンが先に毛布に潜り込んだ。
「リーン、お休み」
最後に灯りを消したのはグレアムだった。
テーブルのランプを消すと、暖炉の炎が残された。
薪を奥に追いやり、自然に火が消えるように調整すると、グレアムは自分の寝床に戻ろうとした。
その腕をほっそりとした手が掴んだ。
薄暗い炎の灯りにリーンの顔が浮かび上がる。
「眠れないのか?」
何か言いたいことがあるのだと思い、グレアムはテーブルから黒板とチョークを取り上げた。
リーンはグレアムの腕を掴んだまま、寝台に座り、グレアムをじっと見上げている。
黒板を枕元に置きながら、グレアムはリーンの言葉をさぐるようにその瞳を覗き込んだ。
リーンの手がグレアムの腕を滑り、大きな手に重なった。
グレアムは驚いたが、リーンの力に逆らおうとはしなかった。
リーンは両手でグレアムの片手を持ち上げ、引っ張ると、そっと豊かな胸の上に置いた。
吸い付くような柔らかな感触がグレアムの手のひらに伝わる。
生唾をごくりと飲みこみ、グレアムは震えながら手を引こうとした。
「リーン……駄目だ……」
グレアムの口から掠れた声がこぼれた。
長旅を終えて戻ってきた男の体にはあまりにも強い刺激だ。
距離を縮めたいと願ってきた女性の体であればなおさらだ。
リーンの豊かな胸の上から逃げようとするグレアムの手をリーンが上から押さえつけた。
グレアムの手の下で柔らかな胸が形を変え、指が沈み込む。
必死に耐えるグレアムは警告するように名前を呼んだ。
「リーン……」
リーンが伸びあがって、グレアムの唇に唇を重ねた。
例えようもない甘美な感触に、グレアムの喉がもう一度鳴った。
唇を離すと、リーンはようやく黒板に書いた。
『私は汚い?』
消えかけた暖炉の火に浮かび上がるその字を目にした瞬間、グレアムは押さえ込んできた想いを爆発させた。
獣のようにグレアムはリーンの体を寝台に押し倒し、夢中で抱きしめる。
「リーン……きれいだ。本当にきれいだ。リーン……」
何度も名前を呼びながら、グレアムはリーンの胸に顔を埋め、手で触れ、舌で味わい、それから張り詰めたズボンの紐を解いた。
その間にリーンは慣れた仕草で服を全部脱ぎ捨てる。
グレアムは薄暗い炎の灯りに照らし出されるリーンの体を見おろし、感嘆のため息をついた。リーンが上半身を起こし、小さな舌を出してグレアムの体を愛撫しようとするのをグレアムは引き離し、自分がリーンの体に舌を這わせた。
「あ……ああ……」
グレアムの腰が入れてもいないのに動き出し、リーンは急いで大きく股を開いた。
熱を持った大きな手がリーンの体を優しく撫でるが、それ以上のことはせず、グレアムは戸惑ったように喘ぎながら腰を揺らすばかりだ。
リーンはグレアムの張り詰めた肉棒に手を添えて、場所を教えた。
「リーン……初めてなんだ。すまない。あんまりうまくできそうにない」
限界を告げる男の情けない声に、リーンは驚きながら、丁寧にグレアムを導いた。
グレアムの物がリーンの中に入った途端、それはあっという間にはじけ、グレアムの艶っぽい声がこぼれた。
「ああ……」
すぐに熱を取り戻したそれは、今度こそリーンの中で動き始めた。
リーンの名前を何度も呼ぶグレアムは苦しそうに目を閉ざし、必死にリーンの唇を探している。
その唇は震え、どうしていいのか分からない様子で開いたり閉じたりして舌を動かしている。
まだリーンの唇に触れてもいないのに。
口づけも初めてなのだろうかと思いながら、リーンはグレアムの首を抱いた。
夢中で腰を振り、唇を貪り、さらに胸をもみ、リーンの体中に触れたグレアムは、本能のままに何度も欲望を吐き出し、最後に深く体を重ねると、リーンを腕に抱いて気を失ったように眠りに落ちた。
あまりにもせわしない交わりだったが、初めてであれば上出来だった。
リーンは枕元に立てかけていた彫刻の絵をうしろ向きにすると、グレアムの腕の中で目を閉じた。
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