残酷で幸福な愛の話

丸井竹

文字の大きさ
上 下
22 / 24

22.初めての夜

しおりを挟む
 夜中は子守唄のように聞こえていた川の音が、朝になれば心地良い目覚めを促した。
ヤーナはカーテンの隙間からこぼれ落ちる朝日に手をかざし、一気に気分が暗くなった。

現実は残酷だ。失われた指同様、何も戻ってこないことをまたもや突き付けられる。

「こんな日常に慣れるかしら……」

大きなため息をついたヤーナは、嫌なことを思い出す前に、さっさと動こうと台所に向かった。

と、裏口の脇に置かれた古ぼけた水瓶が目に入った。
真新しい家には新しい物しかないのに、これだけは少し使い古されている。
自分の物だったような気がするが、欠けた指のように抜けてしまった記憶も多い。

深く考えることを止め、ヤーナはそれを持ち上げ、裏口から外に出た。
甲高い鳥のさえずりが聞こえ、朝靄を含んだひんやりとした風が鼻先を通り抜ける。
大きく深呼吸をして、朝日を取りこぼしている木立の中を歩き始める。

すぐに見覚えのある森の小道が現れた。
木立に挟まれ、苔に覆われたその道は、川に繋がる抜け道で、ひと二人分の幅があった。
なつかしさに胸を痛めながら、その道に入ったヤーナは、数歩進んでぴたりと足を止めた。

木立の陰に男が立っている。
昔の記憶に重なる光景だったが、木立から出てきた男は記憶にある姿よりずっと大きく見えた。
全身には見覚えのない傷がたくさんある。

「デイヴィス……どうして?……」

ヤーナの発した声は震えていた。
少しはにかんだように微笑み、デイヴィスはぎこちなく近づいてくる。

「持つよ」

腰をかがめ、昔そうしていたように、ヤーナが手にしている水瓶を取り上げる。
一瞬、抵抗したヤーナだったが、デイヴィスの強い力に負けて手放した。
二人はなんとなく並んで歩きだす。

「水を汲みに行くんだろう?君はいつも井戸の水よりも、川の水の方が好きだった」

悲しそうにヤーナは目を伏せた。
それは大切に胸に秘めてきた幸福な記憶の一つだ。
一人の時間が欲しくて川に通い始めたが、いつの間にかデイヴィスに会うことが目的になっていた。

もう大昔の話だ。
ヤーナの目の端にデイヴィスの指先が入る。
肩を寄せなければ並んで歩けないような、細い苔の道を指も触れずに歩いていく。

おもむろにデイヴィスが話しだした。

「ヤーナ……ずっと後悔していた。もっと早く気持ちを告げるべきだった……」

ヤーナは鼻で笑った。

「言わなくて正解よ。こんな女じゃ……」

その瞬間、デイヴィスの手が動いた。
近くて遠い距離にあったデイヴィスの手がヤーナの手を握りしめる。

指が触れ合っただけで顔を赤くしていた二人の距離が一気に近づく。

今更、そんな距離がなんだというのだろう。
震えながら口を引き結んだヤーナの前で、デイヴィスが膝をついた。

「ヤーナ。今更だと思うかもしれない。でも、俺は取り戻したい」

突き上げる恐怖に、ヤーナはデイヴィスの手を振りほどいた。

「馬鹿言わないで!そんなの無理よ」

するりと手袋が抜け、指の欠けた手が明るい光の下に露わになった。
咄嗟に、ヤーナは指の欠けた部分を他の指で隠した。
身を翻し、逃げようとするヤーナをデイヴィスが追いかけた。

「逃げないでくれ!頼む!」

切羽詰まったその声に、ヤーナは思わず振り向いた。

「話を、話を聞いてくれ」

デイヴィスは膝を付き、懇願するようにヤーナを見上げている。

「ヤーナ。ずっと好きだった。一人でいろいろ背負い込もうとする君の力になりたいとずっと思っていた。家族のことも将来のことも、手を取り合って一緒に考えていけると思っていた」

取り戻せない昔の話を聞かされ、ヤーナは怒りに駆られた。

「無理よ。もうそんなの無理!誰にも会いたくない。誰にも見られたくない!あなたにも見られたくない!」

怒りと悲しみを爆発させ、ヤーナは叫んだが、デイヴィスはすがった。

「ヤーナ、俺と一緒に生きてくれ。戦って、生きて欲しい。傍にいるから!」

それはあまりにも残酷な言葉だった。
人目に晒され、恥をかいて欲しいと言っているのだ。
ヤーナが傷つくことを承知で傍にいて欲しいと懇願している。

人目を避け、故郷で静かに暮らしたいと思っていたヤーナは、怒りのあまり顔を赤くして唇を震わせた。

容赦なくデイヴィスは、さらに残酷な言葉を口にした。

「人前に立ってほしい。俺と一緒に王宮に戻ろう」

とんでもないと、ヤーナは逃げ出した。しかしデイヴィスは飛び上がり、ヤーナの手首を捕まえた。
あっという間にヤーナの背中を抱いて苔の上に倒れ込む。

「やめてよ!」

デイヴィスの手を振りほどこうとするヤーナの両手首を押さえ込み、デイヴィスはついにヤーナに馬乗りになった。

「ヤーナ!」

「放してよ!」

火を噴くようにヤーナが叫んだ。

「私が何をされてきたかわかって言っているの?数えきれないほどの男の尻を舐めて、あそこをくわえこんで、自分の股を晒して笑いものにされてきたのよ。
家畜のあれも舐めたし、犬ともやったわ!子宮を弄ばれ、私の体には女性の神聖な場所なんて微塵も残っていない!自分が生き残るためにどれだけの人間を蹴落としてきたと思っているの?卑怯で残酷で、淫らで汚らわしい。どこにいっても石を投げつけられる。私はそんな女に変わってしまった。昔の私はもうどこにもいないのよ!」

血を吐くようなヤーナの言葉をデイヴィスは最後まで聞いていた。
ヤーナの大きな瞳から涙が溢れ、頬の上を滝のように流れ落ちていく。
心引き裂かれるような声で泣きながら、ヤーナはデイヴィスを振り落とそうと暴れだした。

それを燃えるような目で見下ろし、デイヴィスはヤーナを強く押さえつけた。

「それでも生き残った。ヤーナ、君は強くて美しい女性だ。目的のために全てをかけて戦った。
君に石を投げるものがいるなら、俺がそいつらを皆殺しにしてやる。
君を汚らわしいと呼ぶ者がいるなら、そいつらも同じ目にあわせてやる。
君が変わったというのなら、俺だって変わった。
紳士的でも優しくもない。醜い憎しみで心の中はいっぱいだ。
ベメは死んだと言ったが、あれは嘘だ。あれは生き残った。
復讐のためだ。楽に死なせてやるものか。
復讐のため、最後の一息まで生かし、苦しめている。俺はそんな男だ。
だけど、変わらないものもある。ヤーナ、君が欲しい!」

叩きつけるような言葉と共に、デイヴィスはヤーナの頬を両手で挟みこみ、顔を正面に向けた。

大粒の涙がデイヴィスの指の上を滑り落ちた。
涙をこらえ、ヤーナは自分を真っすぐに見下ろすデイヴィスを見た。
昔のように優しいだけの顔ではない。

目は鋭く強くなり、その体は傷だらけだ。

血に染まった者同士なのだとヤーナはようやく気が付いた。
三年耐えて戻ってきた故郷の館に、訪ねてきたデイヴィスの姿を思い出した。

躊躇いもなく裸になり、犬になることを受け入れた。
すすり泣きながら腰を振り、自ら恥辱に染まって見せた。
デイヴィスには既に同じ世界に落ちる覚悟があったのだ。

「君は?ヤーナ、俺が欲しいと思ったことはないのか?」

苔むした森の小道でいつも偶然を装い待っていた男。
いつも触れたくて仕方がなかった。
恥ずかしくて聞けなかった。
手を繋いでいいのか、好かれていると思ってもいいのか。

素直になれない自分が嫌いだった。
女として自信がなかった。
なんて平凡で幸せな悩みだったことか。
だけど、まだその甘い痛みを覚えている。

再びヤーナの瞳から涙が溢れだした。

「デイヴィス……あなたが、欲しかった」

震える声がヤーナの唇からこぼれた。
その瞬間、デイヴィスの熱い唇が重なった。

もどかしく感じてきた二人の距離があっという間に消え去った。
互いの体をまさぐり、服を脱がし合う。

恥じらい、互いに体を確かめ合う、そんな初々しい関係をすっ飛ばして、スカートをまくり上げ、ズボンをずり下げる。
熱い肉の先端を秘芯に押し付け、デイヴィスは最後の確認をとった。

「ヤーナ、君が欲しい。傍にいてくれ」

溢れる涙で瞳を濡らし、ヤーナは黙って頷いた。





 デイヴィスは無事ヤーナを王宮に連れて戻った。
ヤーナは自分の身に起きたことを隠すことなくデイヴィスの隣に立ったのだ。
王妃と呼ばれるのは嫌がったが、ささやかながらデイヴィスと教会で結婚式をあげた。

国はまだ荒れており、贅沢出来る余裕はなかった。
しかし、共に戦った仲間達が集い、新婚夫婦を祝福すると共に、失われた仲間のために盃を捧げ、平和な時代を讃える歌を歌った。

 
 その夜、二人は初めて同じ寝室で寝ることになった。
今更ではあったが、ヤーナはやや緊張した面持ちで夜着に身を包み、寝台に横たわっていた。
少し顔を赤くしたデイヴィスが入ってきて、ヤーナの傍らに座った。

二人はなんとなく手を繋ぎ、しばらくの間、窓にかかる大きな銀色の月を見上げていた。

「ヤーナ、幸せな新婚生活の始まりだが、問題が山積みだ」

荒れ果てた国土をたてなおすために、やらなければならない事は尽きないし、新しい制度がうまく定着するまで五年はかかる。王の交代と反乱に乗じて外交問題も持ち上がっている。
退屈する暇もない。

「今までの三年に比べたら些細なことね」

思い出したくもないことを口に出し、ヤーナは嫌な顔をした。

「確かにそうだが、問題は解決しなければならない。棚上げできる問題は俺の親父の問題ぐらいだな」

ヤーナはデイヴィスの家族の話を思い出した。
どこかで女を作って帰らなくなったろくでもない父親だとちらりと聞いたことがあった。
母親はさっさと再婚し、違う家庭を持っている。

「元気だったの?」

国の大事や、王の仕事に比べたらちっぽけな問題だが、問題は問題だ。

「息子が王になったのではないかと城門に押しかけて来たらしい」

何とも言えない顔になったヤーナにデイヴィスは笑った。

「これが四年前のことだったら大事件だが、あれやこれやあっての、国家規模のとんでもない事件を抱えている今となっては、笑い話にもならないな」

「棚上げしていいの?」

「大人の男だぞ?今更誰の面倒になる必要もないだろう。だが、どこかで子供を作っているとまずいな。どうするかな」

「なかなか二人きりで生きていくのも難しいものなのね」

死の淵を生き延びた二人は顔を見合わせ、雄々しく笑った。
シャツを脱ぎ捨てたデイヴィスの体には無数の傷がある。
月明かりに浮かび上がるその体を見上げ、ヤーナは小さく舌を出して唇を舐めた。
ぎらついた獣の眼で、デイヴィスはヤーナの夜着の前を開く。

喉がごくりと動き、大きな手がヤーナの首を撫でた。

「どこを舐めたいの?デイヴィス」

意地悪くヤーナが問いかけた。
困ったなと、デイヴィスは舌なめずりをして、豊かな乳房を眺める。
その先端は赤く尖っている。

息遣いが荒くなり、本物の獣のように鼻をひくつかせる。
ヤーナは両手でそっと乳房をもみあげると、手のひらで乳首を隠してしまった。

「もういいだろう?俺のものだ」

「答えになっていないわ」

冷酷なヤーナの眼は笑っている。

「胸だ。その胸に触れて舐めたい」

ヤーナは手をどけた。

「どうぞ」

猛然とデイヴィスは目の前の豊満な胸に襲い掛かった。
しゃぶりつき、手でもみあげ、先端をこねくりまわす。
快感に喘ぐヤーナの唇を奪い、また乳房を舐める。

胸に吸い付くデイヴィスの頭を抱え、ヤーナは幸福な吐息をついた。
散々弄ばれてきた体なのに、デイヴィスが触れると、まるで初めて男に抱かれているかのように興奮し、体の芯まで蕩けそうになる。

愛する人と体を合わせるということがこれほど心満たされるものだとは知らなかった。
デイヴィスを受け入れることがなければ、この感覚を生涯知ることなく死んでいたかもしれないのだ。

それはあまりにも、もったいないことだとヤーナは思った。

「デイヴィス……あっ……気持ち良い……」

誘うように足を開き、腰を押し付けるが、デイヴィスはやっと触れることを許されたおっぱいに夢中だった。ずっと触りたかったのだ。
柔らかな感触を確かめ、固くなる先端を味わい、その手の中に甘美な膨らみを閉じ込める。
口づけの雨を降らせ、花びらの跡を刻みながら、デイヴィスはなかなか入れようとせず、全身に愛撫を繰り返した。

踏みにじられた体が清められていくようで、ヤーナは甘く喘ぎながらその優しい愛撫を全身で受けとめた。
熱を持った肉棒がようやく中に入ってくると、ヤーナはついに泣き出し、デイヴィスに抱き着いた。

「ごめんなさい」

初めてをあげられなかった後悔がどうしても消えないのだ。
四年前のきれいな体は戻って来ない。

「ヤーナ、こんな顔で男に抱かれたことがあるか?」

デイヴィスは頬を染め、目元を濡らした艶っぽいヤーナの顔をうっとりと見つめた。

「俺が初めての男だ。そうだろう?」

泣きながらヤーナは頷いた。

「こんなに感じるのも、こんなに幸せなのも初めて」

深く体を重ね、デイヴィスはヤーナの傷ついた胎内までも、洗い清めるように優しく腰を動かした。

重なり合う傷だらけの二人を月明かりが優しく包み込む。
それは言葉では言い尽くせない、満ち足りた幸福な夜だった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...