未完の詩集

丸井竹

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「王冠の色」他14作品

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『カエルの家』

穴を掘り、冬に備えるその夜に
カエルは寒さに命尽き
その屍は寝床になった
小さな虫が冬を越す、そんな家には多くの命がやってくる

春になりカエルの家から生れ出た
小さな命が、別の命を支えていく


『竜の鼓動』

翼も体も重すぎて、餌の量も多すぎて
生きる居場所を失った
作り出された生き物は無責任に放置され

小さな絵本に閉じ込められた
真実の姿は知られることもなく
偉大で賢い生き物は架空の空を飛び続け

そうとも知らぬ地底の竜は
やせ衰えて孤独のままに骨になる


『食べるワニ』

誰よりも大きな口を持つワニは
食べられることなく食べ続ける
巨大になったそのワニはさらに大きな獲物を探す

過酷な時代を生き抜いて
進化を続けたそのワニは
ある日突然食べられる
それは巨大な敵ではなく

数万年の進化を嘲笑い
食べるワニを一網打尽
革を剥ぎ、肉を食べて金にする

敵には敵がいるもので
いつかそれは現れる



『王冠の色』

金が良いと王が言った
銀が良いと王妃が言った
ピンクが良いと王女が言った
黒が良いと死神が言った
血の色が良いと民衆が言った
緑が良いと農夫が言った

全ての色を作ろうと

炉にくべられたその王冠は
炎に溶けて見えなくなった



『殺しの歌』

愛を与えて懐かせて
助けて欲しいと泣いてみる
あなたが全てと教え込み

世界を閉ざして問いかける
私のために殺せるか?
子供の心はガラスのよう

無垢な心に血の雨を
殺しの歌は子守唄
愛を偽り語り掛け
世界は一つと教え込む

殺せといえば走り出す
そんな刃を
研いでいる



『落ちる雨』

地に落ちて
石を伝って地中に落ち
地底湖に沈み闇に消える

目に見えぬその一滴は天に戻り、また地に落ちる

ある時、それは突然止まる。

雨は落ちず天に浮き、真空の彼方で氷になる
星は滅び
命は尽きる

落ちる雨があるうちに
星がここにあるうちに
見えぬ一滴に心を寄せ
落ちる雨に憂いを乗せる



『粘る恋』

透明なシートに張り付く納豆の
粒がとれずに箸で取る

それでも嫌だと納豆が
仲間を呼んで張り付いて
シートに包まれ箸拒む

苛立ち箸で挟み込み
シートを引いて粒を出し
粘る恋が終わっても

指にぬめりが消えずに残る



『小石』

ぶつかり砕け漂って
果てなき世界を飛んでいく
何物にもなれず

留まるところもなく
ごみのようにちっぽけで
誰にも顧みられることなく

孤独に漂うその先に
緑の星が待っていた
もうすぐで

誰もが見上げ恐怖する
隕石と呼ばれ私は伝説に



『エイリアン』

人間も肉も野菜も食べられない
土はまずいし水は不要
寒さも熱さも感じない
世界は最悪、地中は退屈
空を見上げてつくため息
千年経っても変わらない



『誕生』

ぬるぬると殻を溶かして外に出て
餌を求めて地を這って
この世で一番厄介な

あれを食べては巨大化し
ある日何かに捕まった

無情にも細切れにされ
容器の中に
その日から
黙っていてもやってくる
厄介なあれを食べている

人に飼われてゴキブリ食べて
巨大化しては細切れに




『止まる風』

風のない
世界に生まれる静寂は
破滅の音を呼んでいる

息もせず
音もたてずにガスが燃え
光ばかりが存在する

そんな世界を間近に見て
息をしながら考える
いつか風が
止まる日を



『テーブル』

寄り添って光って知らせる
ガチャの鳥
酔っ払いに潰されて
ガチャの鳥は
ぺちゃんこに

かぼそく光る
健気さに泣く




『おなら』

勉強をしろと言いつつおならをし
食事中ごめんと言いつつおならする

愛し合う前にもこっそりおならして
あ、きたな、お尻萎めてあとにする

芋食べて仕方ないからおならする
寝てる間に、してたと言われて知るおなら

私じゃない言いつつおならの次が出る
世界はおならで出来ている


『推し』

推しがいる
財布捧げて愛ねだる
心を捧げて夢を買う
目が合えば思わず息を止めている

推しのいる世界が全てと思いきや
新たな推しが押し寄せる

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