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31.覗かれた秘密
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ナバール地域の特別法令地区に向かう馬車の中に、ナリアと夫のフェイデンの姿があった。
カインを痛めつけた罪で、ドルバインに大金を払わなければならなくなったフェイデンは、酷く不機嫌な顔で窓の外を見ている。
しかしその程度のことで済んだことは幸いだった。
ドルバインが黙秘していたため、誤解を生んだということになったが、罪のない貴族を監禁したことは、国法管理局の大失態と言われても仕方のないことだった。
国はドルバインが領地と領民を守るため、寝取られ村のことを隠し、わざと罪を被ろうとしたことまで評価し、ドルバインに補償金まで支払ったのだ。
ドルバインを捕まえ、牢屋にぶちこんだフェイデンはすっかり立場を失い、休職に追いやられた。
もう二度と会いたくない男だったが、和解が復職の条件となりそうもいかなくなったのだ。
フェイデンは苛立ちが止まらなかった。
その向かいに座るナリアは、静かに覚悟を決めていた。
ドルバインの別荘前に馬車が到着すると、最初にフェイデンが馬車を下り、それからナリアが夫の手を借りて馬車の外に出た。
二人を出迎えたのはドルバイン本人だった。
ドルバインは二人を見て、やはり来たのかと小さなため息をついた。
「夫が一緒であれば、誤解もされずに済むな」
軽い嫌味だったが、ナリアもフェイデンも無言だった。
フェイデンはどうしても謝罪の言葉を口に出来ず、不機嫌な顔で黙り込んでいたし、ナリアはドルバインに謝罪をしたかったが、まだ夫に性癖を告白していなかったため、さらなる誤解を生むことを恐れた。
二人を二階の客間に案内したドルバインは、フェイデンに忠告した。
「お前が痛めつけてくれた俺の忠実な部下を怖がらせたくはない。彼とその妻だけがこの屋敷を管理してくれている。彼に近づいたり、何かを命じたりしないようにしてくれ。
それからナリア、ここで過ごすのならば、夫と今度こそしっかり話しあっておいてくれ。
そうでなければ、早めに帰ってくれ。アロナとカインには忙しい季節だ」
ナリアにも必要なことだけを告げると、ドルバインは部屋を出て行った。
すぐにアロナが二人の部屋にやってきて、無言でお茶の用意だけして逃げるように出て行った。
客間に二人きりになると、ナリアとフェイデンはお茶の置かれたテーブルを挟んで座った。
「不愉快な男だ……」
不機嫌なフェイデンの声に、ナリアは目を伏せた。
「あなたはドルバインと仲が良かったと聞いているわ」
「いつの話だ」
仕事では厳しい顔を持つフェイデンだが、ナリアにとっては優しすぎるほど優しい、温厚な夫だった。しかしドルバインのことで誤解を受けてから、二人の間には険悪な空気が漂っている。
「ここならば……人目も気にせず話が出来るわ。召使もいないし、聞かれても問題のない人しかいないから」
ナリアがなぜドルバインの別荘を訪ねたのか、フェイデンはまだ妻の口から聞いたことがない。
元夫に妻を寝取られたのではないかという恐れが、現実のものになってしまったら耐え難い屈辱になるとわかっていた。
聞きたいような、絶対に聞きたくないような顔で、フェイデンは横を向いた。
ナリアは大きく息を吸うと、静かに吐き出した。
「確かめにきたの。ドルバインと私の関係がなんだったのか。彼の内面に不満はなかったと思う。でも、私は彼の外見が嫌いだった。醜くて、太っていて、いつも恐ろしい顔で黙っている。なのに、彼に求婚された時、すぐにそれを受け入れた。心がときめいた理由がわからなかった。
でも、その理由がこの間ここに来てわかったの。私……あなたに見てもらいたいものがあるの」
すくっと、立ち上がったナリアは、部屋の扉を開け、通路に顔を出すとアロナを呼んだ。
「アロナ、ちょっといいかしら?」
アロナはすぐに飛んできた。
ナリアはアロナの耳に何かを囁き、アロナは軽く頷いた。
少し困惑したような顔をして、通路の奥を指さした。
ナリアも心得たように頷き、アロナは忙しそうに走って行った。
その様子を見ていたフェイデンは、眉をひそめ不機嫌そうにナリアを睨んだ。
夫に隠し事をする妻の姿を見て、不愉快に思わない夫はいない。
「俺に見せたいものとは?あの女が持ってくるのか?」
ナリアは夫に近づき、その手を取った。
「私は身勝手で残酷な女。私はあなたの全てが好きよ。身分も申し分ないし、友人たちに自慢したくなるような素敵な姿だし、その声も仕草も、私をいつもときめかせてくれる。私もあなたに相応しい女でありたいと思ってきた。
ドルバインと失敗した時、私は浮気な女と陰口をたたかれた。確かにそうだったわ。
寂しさに逃げて、浮気をした。彼は私を許したけれど愛がなかった私に、やり直すことは無理だった。
ドルバインがあなたと私を引き合わせた。彼は私の好みをわかっていたのね。
でも私の望みはわかっていなかった。私もわかっていなかったのだから仕方がないわね」
「何の話をしている?」
フェイデンは混乱しナリアの手を握ったまま立ち上がる。
その時、扉が鳴ってアロナが顔を出した。
「用意が整いました。そちらでしばらくお待ちください」
逃げるようにまたすぐにアロナは顔をひっこめた。
ぱたぱたと足音がとおざかると、ナリアはフェイデンの手を引っ張った。
「こっちよ。来て」
ナリアは通路に出るとフェイデンを奥の小さな扉の前に連れてきた。
その隣には立派な大きな両開きの扉がある。
目の前の小さな扉と隣の大きな扉を見比べ、フェイデンは不機嫌な顔をした。
大貴族である二人に相応しい部屋はどう見ても、大きな扉の部屋だと思ったのだ。
ナリアはフェイデンの手をしっかり握り、小さな扉を開けた。
そこは思った通り、物置のように狭い部屋だった。
部屋の大きさにつり合っていない大きな寝台が壁際に置かれている。
他の家具は一切なかった。
その奇妙な部屋に入り、フェイデンはようやくここが変態たちのたまり場であることを思い出した。
「気分が悪いな。その寝台にだけはあがりたくない」
ところが、扉を閉めたナリアは、躊躇わずにその寝台に上がり、壁のタペストリーを外し始めた。
不安定なマットの上に立ち上がり、壁の留め金から紐を外すナリアを見ていられず、フェイデンも寝台に上がりその作業を手伝う。
二人の手が触れ合い、ナリアは夫を仰ぎ見て、ほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、フェイデン。あなたを愛していないわけがないわ。でも……私はあなたに隠し事をしている。見て」
外されたタペストリーの下には小さな扉が三つついていた。
ナリアはそれを開くのではなく、横にスライドさせて目隠し部分を上にした。
そこに大きめの、のぞき穴が現れた。
隣の部屋に誰かがいて、壁を見れば気づいてしまいそうな大きさだったが、誰が覗いているのかわかるほど大きくもない。
フェイデンも、目の前の壁にある扉を回転させ上にあげた。
同じようにのぞき穴が現れる。
そこに顔を近づけてみると、やはり壁を挟んだ隣の部屋がくっきりと見えた。
目の前には大きな寝台がある。
なんて悪趣味な部屋なのだと、フェイデンは頭にきて隣のナリアを見た。
ナリアは穴に顔を押し付け、熱心に壁向こうの光景に見入っている。
膝立ちし、隣の部屋に今にものめり込みそうな姿勢で、壁に両手を添えている。
「ナリア?何を見ている」
「しっ」
押さえた声でナリアは短く声を発し、フェイデンに顔を向けた。
「この壁の向こうに、私が見たいものがあるの」
ナリアは囁き、また穴に顔を押し付ける。
仕方なく、フェイデンも目の前の穴を覗き込んだ。
二人が覗いている部屋で、扉が開く音がした。
のぞき穴から覗かれていることを承知で、寝室に入ってきたのはドルバインとアロナだった。
そこにカインの姿はなく、アロナは落ち着かない様子で扉の方をちらちらと見ていた。
ドルバインは、そんなアロナを抱き上げ、寝台にあげた。
「アロナ、カインが来るのを待つか?」
ドルバインの低く、優しい声の響きに、アロナは首を横に振りながらも、少し緊張した面持ちだった。
一緒に来るはずだったカインに、先に行っていて欲しいと言われてしまったのだ。
さらにカインはドルバインにも同じように先に進めていてくださいと伝えていた。
夫のカインが、二人が先に始めることを了承しているのだから、アロナにドルバインを拒む理由はないが、ドルバインに惹かれる気持ちに歯止めをかけてくれる夫の存在がないことはやはり不安だった。
それに、ナリアとフェイデンの為の行為というところも少し気に入らなかった。
「あの……ドルバイン様は、どうしてナリア様に協力されるのですか?カインはきっと捕まった時の恐怖を思い出して来られないのだと思います。
あの男は……ナリア様の旦那様ですけど……私は許せません」
「敵にするより味方にした方が安全だと考えることも出来る。カインの気持ちも当然だ。無理強いしたくはない。夫がいなければ俺に抱かれるのは嫌か?」
その聞き方はずるいとアロナは思った。
ドルバインに抱かれたくてもう体が疼いている。
アロナは黙ってするりとドレスを脱いだ。
白い乳房が露わになり、乳首に取り付けられた煌びやかな宝石飾りが、涼やかな音を立てて誘うように揺れた。
太い腕がアロナの腰を一気に抱き寄せ、寝台の上に押し倒す。
観客によく見えるように、寝台に余計な装飾は一切ない。
張りのある乳房がつんと上を向き、乳首に取り付けられた金の留め具がきらりと光る。
その先端にドルバインがそっと唇を押し付けた。
「あっ……」
甘い声が飛び出し、アロナは不安そうに横を向く。そこにいつもの夫の姿はない。
「アロナ……俺を見ていろ」
大きな体に覆い尽くされ、アロナは黙っていても険しく見えるドルバインの顔を見上げた。
顔を覆う分厚い髭は喉のなかほどまで続き、肩や鎖骨を抜けて胸にさしかかると、異なる毛が肌を覆い始める。
裸のドルバインを見上げていると、確かに半分獣のようにも思えてくる。
強くて逞しく、誠実で美しい聖獣のようだ。
アロナはドルバインの胸毛の中に手を入れ、ひっそりと隠れている乳首を探して優しく擦った。
ドルバインが悪戯なアロナの指を捕まえ、噛みつくようにしゃぶりつく。
その大胆な仕草に、アロナは胸を熱くして、また不安そうに横を見た。
扉は静まり返り、カインが来る気配もない。
喰いつくようにドルバインはアロナの双丘にしゃぶりつき、その宝石飾りを揺らしながら大きな手でもみあげた。
心まで奪われそうな、愛撫の心地良さに、アロナが身をよじる。
その体をまるで子猫でも抱き上げるように太い腕が抱え上げ、今度はうつ伏せにした。
四つん這いになったアロナの後ろから覆いかぶさり、獣のように腰を押し付け、胸をまさぐる。
「あっ……ああっ」
また横を向こうとするアロナの頬を掴み、ドルバインは後ろから深く唇を重ねた。
舌を絡め、唾液をすするような口づけを続けながら、ドルバインはアロナの胸を抱えるようにその体を持ち上げた。
寝台の上に膝立ちの状態になったアロナは、ちらりと正面ののぞき穴を見た。
ドルバインの大きな手によって形を変えられる豊かな乳房も、肩幅に開かれた股の茂みも、全て丸見えの状態だ。
さらにドルバインの片手がアロナの股間に入り込み、柔らかな性器をまさぐり始めた。
すっかり濡れそぼったそこから、卑猥な音が聞こえ始める。
かぶりつくような口づけから解放されると、アロナはまた四つん這いの姿勢になった。
熱い肉の塊が準備を終えた秘芯に押し付けられる。
言葉もなく、ドルバインは一気に腰を押し込んだ。
「んんんっ」
見られているという意識が吹き飛ぶほどの強い刺激に、アロナは堪えきれない嬌声をあげ、尻を高くあげたまま上半身を寝台の上に落とした。
その体を持ち上げ、また四つん這いにすると、ドルバインが激しく腰を打ち付け始めた。
「あっ……あっ……あっ……ああああ」
深く押し込まれるその狂暴な刺激に、力が抜けてしまい、アロナは上半身をまたもやシーツの上に落としてしまう。
その体に覆いかぶさり、獣の交尾さながらに、ドルバインは容赦なく深く腰を押し込んだ。
頭が真っ白になるような突き抜ける悦楽の波をいくつも抜け、アロナは何も考えられず、後ろを向こうとした。
またしてもしゃぶるように唇を奪われる。
「あ……ど、ドルバイン様……」
濡れた唇を離し、ドルバインがアロナの耳に囁いた。
「アロナ、お前の心はカインのものかもしれないが、お前の体は俺のものだ」
熱い声音にアロナの心は震えた。
膨れ上がる秘められた想いが溢れ出る。
「うれしい……」
口走ってしまった言葉を、取り戻そうとするかのように、アロナは片手で口を押えた。
カインを痛めつけた罪で、ドルバインに大金を払わなければならなくなったフェイデンは、酷く不機嫌な顔で窓の外を見ている。
しかしその程度のことで済んだことは幸いだった。
ドルバインが黙秘していたため、誤解を生んだということになったが、罪のない貴族を監禁したことは、国法管理局の大失態と言われても仕方のないことだった。
国はドルバインが領地と領民を守るため、寝取られ村のことを隠し、わざと罪を被ろうとしたことまで評価し、ドルバインに補償金まで支払ったのだ。
ドルバインを捕まえ、牢屋にぶちこんだフェイデンはすっかり立場を失い、休職に追いやられた。
もう二度と会いたくない男だったが、和解が復職の条件となりそうもいかなくなったのだ。
フェイデンは苛立ちが止まらなかった。
その向かいに座るナリアは、静かに覚悟を決めていた。
ドルバインの別荘前に馬車が到着すると、最初にフェイデンが馬車を下り、それからナリアが夫の手を借りて馬車の外に出た。
二人を出迎えたのはドルバイン本人だった。
ドルバインは二人を見て、やはり来たのかと小さなため息をついた。
「夫が一緒であれば、誤解もされずに済むな」
軽い嫌味だったが、ナリアもフェイデンも無言だった。
フェイデンはどうしても謝罪の言葉を口に出来ず、不機嫌な顔で黙り込んでいたし、ナリアはドルバインに謝罪をしたかったが、まだ夫に性癖を告白していなかったため、さらなる誤解を生むことを恐れた。
二人を二階の客間に案内したドルバインは、フェイデンに忠告した。
「お前が痛めつけてくれた俺の忠実な部下を怖がらせたくはない。彼とその妻だけがこの屋敷を管理してくれている。彼に近づいたり、何かを命じたりしないようにしてくれ。
それからナリア、ここで過ごすのならば、夫と今度こそしっかり話しあっておいてくれ。
そうでなければ、早めに帰ってくれ。アロナとカインには忙しい季節だ」
ナリアにも必要なことだけを告げると、ドルバインは部屋を出て行った。
すぐにアロナが二人の部屋にやってきて、無言でお茶の用意だけして逃げるように出て行った。
客間に二人きりになると、ナリアとフェイデンはお茶の置かれたテーブルを挟んで座った。
「不愉快な男だ……」
不機嫌なフェイデンの声に、ナリアは目を伏せた。
「あなたはドルバインと仲が良かったと聞いているわ」
「いつの話だ」
仕事では厳しい顔を持つフェイデンだが、ナリアにとっては優しすぎるほど優しい、温厚な夫だった。しかしドルバインのことで誤解を受けてから、二人の間には険悪な空気が漂っている。
「ここならば……人目も気にせず話が出来るわ。召使もいないし、聞かれても問題のない人しかいないから」
ナリアがなぜドルバインの別荘を訪ねたのか、フェイデンはまだ妻の口から聞いたことがない。
元夫に妻を寝取られたのではないかという恐れが、現実のものになってしまったら耐え難い屈辱になるとわかっていた。
聞きたいような、絶対に聞きたくないような顔で、フェイデンは横を向いた。
ナリアは大きく息を吸うと、静かに吐き出した。
「確かめにきたの。ドルバインと私の関係がなんだったのか。彼の内面に不満はなかったと思う。でも、私は彼の外見が嫌いだった。醜くて、太っていて、いつも恐ろしい顔で黙っている。なのに、彼に求婚された時、すぐにそれを受け入れた。心がときめいた理由がわからなかった。
でも、その理由がこの間ここに来てわかったの。私……あなたに見てもらいたいものがあるの」
すくっと、立ち上がったナリアは、部屋の扉を開け、通路に顔を出すとアロナを呼んだ。
「アロナ、ちょっといいかしら?」
アロナはすぐに飛んできた。
ナリアはアロナの耳に何かを囁き、アロナは軽く頷いた。
少し困惑したような顔をして、通路の奥を指さした。
ナリアも心得たように頷き、アロナは忙しそうに走って行った。
その様子を見ていたフェイデンは、眉をひそめ不機嫌そうにナリアを睨んだ。
夫に隠し事をする妻の姿を見て、不愉快に思わない夫はいない。
「俺に見せたいものとは?あの女が持ってくるのか?」
ナリアは夫に近づき、その手を取った。
「私は身勝手で残酷な女。私はあなたの全てが好きよ。身分も申し分ないし、友人たちに自慢したくなるような素敵な姿だし、その声も仕草も、私をいつもときめかせてくれる。私もあなたに相応しい女でありたいと思ってきた。
ドルバインと失敗した時、私は浮気な女と陰口をたたかれた。確かにそうだったわ。
寂しさに逃げて、浮気をした。彼は私を許したけれど愛がなかった私に、やり直すことは無理だった。
ドルバインがあなたと私を引き合わせた。彼は私の好みをわかっていたのね。
でも私の望みはわかっていなかった。私もわかっていなかったのだから仕方がないわね」
「何の話をしている?」
フェイデンは混乱しナリアの手を握ったまま立ち上がる。
その時、扉が鳴ってアロナが顔を出した。
「用意が整いました。そちらでしばらくお待ちください」
逃げるようにまたすぐにアロナは顔をひっこめた。
ぱたぱたと足音がとおざかると、ナリアはフェイデンの手を引っ張った。
「こっちよ。来て」
ナリアは通路に出るとフェイデンを奥の小さな扉の前に連れてきた。
その隣には立派な大きな両開きの扉がある。
目の前の小さな扉と隣の大きな扉を見比べ、フェイデンは不機嫌な顔をした。
大貴族である二人に相応しい部屋はどう見ても、大きな扉の部屋だと思ったのだ。
ナリアはフェイデンの手をしっかり握り、小さな扉を開けた。
そこは思った通り、物置のように狭い部屋だった。
部屋の大きさにつり合っていない大きな寝台が壁際に置かれている。
他の家具は一切なかった。
その奇妙な部屋に入り、フェイデンはようやくここが変態たちのたまり場であることを思い出した。
「気分が悪いな。その寝台にだけはあがりたくない」
ところが、扉を閉めたナリアは、躊躇わずにその寝台に上がり、壁のタペストリーを外し始めた。
不安定なマットの上に立ち上がり、壁の留め金から紐を外すナリアを見ていられず、フェイデンも寝台に上がりその作業を手伝う。
二人の手が触れ合い、ナリアは夫を仰ぎ見て、ほっとしたように微笑んだ。
「ありがとう、フェイデン。あなたを愛していないわけがないわ。でも……私はあなたに隠し事をしている。見て」
外されたタペストリーの下には小さな扉が三つついていた。
ナリアはそれを開くのではなく、横にスライドさせて目隠し部分を上にした。
そこに大きめの、のぞき穴が現れた。
隣の部屋に誰かがいて、壁を見れば気づいてしまいそうな大きさだったが、誰が覗いているのかわかるほど大きくもない。
フェイデンも、目の前の壁にある扉を回転させ上にあげた。
同じようにのぞき穴が現れる。
そこに顔を近づけてみると、やはり壁を挟んだ隣の部屋がくっきりと見えた。
目の前には大きな寝台がある。
なんて悪趣味な部屋なのだと、フェイデンは頭にきて隣のナリアを見た。
ナリアは穴に顔を押し付け、熱心に壁向こうの光景に見入っている。
膝立ちし、隣の部屋に今にものめり込みそうな姿勢で、壁に両手を添えている。
「ナリア?何を見ている」
「しっ」
押さえた声でナリアは短く声を発し、フェイデンに顔を向けた。
「この壁の向こうに、私が見たいものがあるの」
ナリアは囁き、また穴に顔を押し付ける。
仕方なく、フェイデンも目の前の穴を覗き込んだ。
二人が覗いている部屋で、扉が開く音がした。
のぞき穴から覗かれていることを承知で、寝室に入ってきたのはドルバインとアロナだった。
そこにカインの姿はなく、アロナは落ち着かない様子で扉の方をちらちらと見ていた。
ドルバインは、そんなアロナを抱き上げ、寝台にあげた。
「アロナ、カインが来るのを待つか?」
ドルバインの低く、優しい声の響きに、アロナは首を横に振りながらも、少し緊張した面持ちだった。
一緒に来るはずだったカインに、先に行っていて欲しいと言われてしまったのだ。
さらにカインはドルバインにも同じように先に進めていてくださいと伝えていた。
夫のカインが、二人が先に始めることを了承しているのだから、アロナにドルバインを拒む理由はないが、ドルバインに惹かれる気持ちに歯止めをかけてくれる夫の存在がないことはやはり不安だった。
それに、ナリアとフェイデンの為の行為というところも少し気に入らなかった。
「あの……ドルバイン様は、どうしてナリア様に協力されるのですか?カインはきっと捕まった時の恐怖を思い出して来られないのだと思います。
あの男は……ナリア様の旦那様ですけど……私は許せません」
「敵にするより味方にした方が安全だと考えることも出来る。カインの気持ちも当然だ。無理強いしたくはない。夫がいなければ俺に抱かれるのは嫌か?」
その聞き方はずるいとアロナは思った。
ドルバインに抱かれたくてもう体が疼いている。
アロナは黙ってするりとドレスを脱いだ。
白い乳房が露わになり、乳首に取り付けられた煌びやかな宝石飾りが、涼やかな音を立てて誘うように揺れた。
太い腕がアロナの腰を一気に抱き寄せ、寝台の上に押し倒す。
観客によく見えるように、寝台に余計な装飾は一切ない。
張りのある乳房がつんと上を向き、乳首に取り付けられた金の留め具がきらりと光る。
その先端にドルバインがそっと唇を押し付けた。
「あっ……」
甘い声が飛び出し、アロナは不安そうに横を向く。そこにいつもの夫の姿はない。
「アロナ……俺を見ていろ」
大きな体に覆い尽くされ、アロナは黙っていても険しく見えるドルバインの顔を見上げた。
顔を覆う分厚い髭は喉のなかほどまで続き、肩や鎖骨を抜けて胸にさしかかると、異なる毛が肌を覆い始める。
裸のドルバインを見上げていると、確かに半分獣のようにも思えてくる。
強くて逞しく、誠実で美しい聖獣のようだ。
アロナはドルバインの胸毛の中に手を入れ、ひっそりと隠れている乳首を探して優しく擦った。
ドルバインが悪戯なアロナの指を捕まえ、噛みつくようにしゃぶりつく。
その大胆な仕草に、アロナは胸を熱くして、また不安そうに横を見た。
扉は静まり返り、カインが来る気配もない。
喰いつくようにドルバインはアロナの双丘にしゃぶりつき、その宝石飾りを揺らしながら大きな手でもみあげた。
心まで奪われそうな、愛撫の心地良さに、アロナが身をよじる。
その体をまるで子猫でも抱き上げるように太い腕が抱え上げ、今度はうつ伏せにした。
四つん這いになったアロナの後ろから覆いかぶさり、獣のように腰を押し付け、胸をまさぐる。
「あっ……ああっ」
また横を向こうとするアロナの頬を掴み、ドルバインは後ろから深く唇を重ねた。
舌を絡め、唾液をすするような口づけを続けながら、ドルバインはアロナの胸を抱えるようにその体を持ち上げた。
寝台の上に膝立ちの状態になったアロナは、ちらりと正面ののぞき穴を見た。
ドルバインの大きな手によって形を変えられる豊かな乳房も、肩幅に開かれた股の茂みも、全て丸見えの状態だ。
さらにドルバインの片手がアロナの股間に入り込み、柔らかな性器をまさぐり始めた。
すっかり濡れそぼったそこから、卑猥な音が聞こえ始める。
かぶりつくような口づけから解放されると、アロナはまた四つん這いの姿勢になった。
熱い肉の塊が準備を終えた秘芯に押し付けられる。
言葉もなく、ドルバインは一気に腰を押し込んだ。
「んんんっ」
見られているという意識が吹き飛ぶほどの強い刺激に、アロナは堪えきれない嬌声をあげ、尻を高くあげたまま上半身を寝台の上に落とした。
その体を持ち上げ、また四つん這いにすると、ドルバインが激しく腰を打ち付け始めた。
「あっ……あっ……あっ……ああああ」
深く押し込まれるその狂暴な刺激に、力が抜けてしまい、アロナは上半身をまたもやシーツの上に落としてしまう。
その体に覆いかぶさり、獣の交尾さながらに、ドルバインは容赦なく深く腰を押し込んだ。
頭が真っ白になるような突き抜ける悦楽の波をいくつも抜け、アロナは何も考えられず、後ろを向こうとした。
またしてもしゃぶるように唇を奪われる。
「あ……ど、ドルバイン様……」
濡れた唇を離し、ドルバインがアロナの耳に囁いた。
「アロナ、お前の心はカインのものかもしれないが、お前の体は俺のものだ」
熱い声音にアロナの心は震えた。
膨れ上がる秘められた想いが溢れ出る。
「うれしい……」
口走ってしまった言葉を、取り戻そうとするかのように、アロナは片手で口を押えた。
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そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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