死の花

丸井竹

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13.幸福なひととき

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 合同探索は1ヶ月後と決まり、毎日毎日次元世界の中で修行は続いた。
 師匠はとてつもなく忙しそうで、毎日の相手は柳生さんとその奥様、ハゲヤクザと鬼畜治療師というどこにも救いのないメンバーだ。
 そう、柳生さんと奥様が居るのだ。酒飲んで倒れるように寝た翌日、俺を叩き起した上に明け方から修行をした後、昼には帰って行って静かになったと思ったのだが……2日後には奥様を連れて戻ってきたのだ。宴席で口にしていた代替わりを本当に行ったらしく、奥様が仰るには「とんでもなく大慌てになっているから、逃げてきたの」だそうだ。ただ代が替わろうが何だろうが、一全との協力関係は変わらないし、俺と香織さんを守る事を誓うと仰って下さった。
 その奥様はというと、若返りのアムリタを飲んだというだけではないような美しい方だ。なんと87歳らしいのだが、とてもそうは見えない。小柄な可愛いお姉さんと行った感じなのだが……修行になると鬼へと変わる。どの武器でもお使いになるらしいんだけれど、特に得意としているのが弓で、師匠曰く小さな頃によく那須与一ごっこなる頭の上にピンポン玉を置かれて、それを撃ってみせるというおおよそ子供相手にする事じゃない遊びをよくやられたそうだ。まぁ罰ゲームではあったらしいのだが……香織さんはそんな方に「貴女は弓の方が似合っているし、向いているわ」なんて言われて、鬼のような修行を課せられている。
 だが、冷静に考えてみると俺たちのパーティー……つまり俺、香織さん、師匠、ハゲヤクザ、鬼畜治療師、そして召喚獣たちの事を考えた時、つくねと鬼畜治療師以外全員が近接物理職なんだよね。だから香織さんが弓を得物として扱うのは正解なのかもしれない。

 ちなみにどうしてそこまでの協力関係なのか聞いたのだが、その元は戦国時代……つまり一全の初代である織田信長時代にまで話は遡り、裏柳生と言われる忍者集団があったらしいのだが、その頃からの話だそうだ。古木盟約がどうのこうのって言っていた。そして更に師匠の婚約者は柳生さんの玄孫《やしゃご》らしい。その婚約者の方も一緒に連れられて来たのでチラッと見たが、これまた綺麗な人だった。
 まっ、それでも香織さんが1番には変わりないんだけどね!!

 そして合同探索まで1週間となった。

「横川、少し話がある」

 と、久しぶりに顔を見せた師匠に言われ、師匠と柳生さん、そして俺だけで次元世界へと入った。

 石碑の前に広がる芝生の上に座ったのだが、師匠がとても真剣な顔で話しにくそうにしている。いつもと違う様子に、嫌な予感がしなから言葉を待つ。

「さて……まずはここ最近でわかった話をしようか。気になっているだろう、誰が敵で誰が味方か、そんな話だ」

 確かに気にはなっていた。だがその話なら香織さんが1番気にしているだろうと思われるのに、なぜ俺だけを呼び出して話すのかが、今は気になる。

 まずは先日のアマとキムに少し聞いた、伊賀の顛末を教えて貰った。
 ここ数十年、伊賀流は商売に力を入れて、経済を大きく取り仕切っているそうだ。だが先代……つまり先日服部さんや藤林さんに首を斬られた人とその一派は、武力による覇権をも手に入れる事を目論んだ。だがこれまであまり力を入れて来なかったのに突然取れるわけがない。そこで目を付けたのが俺だったらしい。アマとキムを手に入れてしまった事も大きく作用したらしく、そちらから攻めれば……つまり人質にしようと企んだらしいのだ。だが師匠と仲の良い百地さんや藤林さんが、このまま行けば世が乱れると判断し、企んでいた一派全てをいち早く排除したとの事だ。
 次に先日広間で態度の悪かった2人……風魔と戸隠だが、東さんたちパーティー内で魅了により洗脳状態になったメンバーが、本人たちの言葉通り親族である2人に上申したらしい。風魔と戸隠は本拠地が割合と近く、日頃から協力関係にあるために、「他に取られる前に取れ」と考え、まずは正当な手段……つまり各流派による集まりを催す事を叫び、皆の前で堂々と手に入れる事を企んだようだ。
 ……あの態度で、俺と香織さんが喜んで彼らの元に行くと思えるところが恐ろしいというか呆れるところだが、それが真実だそうだ。

「ふぅ……ここまでで何か質問はあるか?」
「アマとキムには迷惑を掛けているな……っと」
「ふむ、それは本人たちに自分で確認しろとしか言えん」
「ですよね……」

 先日は気にするなと言ってくれたけれど、やはり気になるところだ。

「ただな、彼ら2人が居なくとも先代の服部は同じように動いたと思うぞ?アレはかなり権力欲が強かったからな」
「ふむ……横川くんや、我ら古くから続く各武術家がなぜそれぞれ勝手に探索やらをせずに、広告塔用人材を出し合ってやっておるかわかるか?」
「……わからないです」
「お互いが鎬を削り切磋琢磨するだけならええ、それなら構わん。だがのう、他の流派を乱してやろう、足を引っ張ってやろうとなれば世は乱れる、確実に乱れ戦国時代へと戻ってしまう事もありえるんじゃよ。それを危惧して、我らはお互いが監視し合い、足並みを揃えておる。だがダンジョンが出来て60余年……当初の理念を忘れての、ダンジョン関連事業で得た利益によって欲を膨らませはじめたのが、先日のあやつらや伊賀の先代じゃ」
「俺という存在で欲が暴走したって事ですか?」
「うーん、確かに一因じゃな、それは間違いない。だがお主が出んでも、いつかこうなっておったろうよ、如月くんもおるしな」

 これを俺だけに話し、香織さんを呼ばなかったのは、俺が受け入れる事が出来ると思ってだろうか?

「うち……つまり一全は小さい組織だ。そんなところが横川のような前途有望な者を手にしていると思われたのが原因でもある。例えば伊賀や甲賀といった、巨大な組織ならば最初から太刀打ち出来んと諦める者もいただろうが、うちなら勝てると踏んだわけだ。お前は無理やり一全に組み込まれた、お前のせいで俺はとんでもない目にあっているんだって俺を責めてくれていい」

 そういう考え方もあるのか……
 でもな……確かな大変な修行を課せられたり、とんでもない無茶な要求をしてくる事もあるけれど、駒として見ているわけではないってのもわかるんだよね。もし本当に囲い込んで、一全員のために使うつもりならば、先日の戸隠のオッサンのような条件などを言ってくると思うし。

「責めるなんて……ないです」
「横川くんこの坊はな、お主が己や大事な者を守れるだけの力を手にさせようと思っておるんじゃ、なんなら養子に迎えてもいいと思っておったみたいじゃからな……まだ結婚もしておらんというのに」
「はい、その気持ちは伝わってきていました……養子の件は初耳ですし、考えさせて欲しいですけど」
「あぁ養子の件は忘れてくれ……あと爺さん、今はその話はなしだ」
「はぁ……せめて儂が生きている内にして欲しいもんじゃ……むっ!!まさかお主はそれを考えて若返り薬なんて物を飲ましたんじゃなかろうな!?」
「……考えすぎだ」
「な、なんじゃ今の間は!なら早う祝言を挙げんか!!」

 しんみりとした雰囲気だったけれど、柳生さんの言葉にふふっと笑ってしまい、つい下を向いてしまってした顔を上げたら、2人が優しい目で俺を見ていた。

 あぁ……俺を励ます?慰めるため?にこの人たちは見守っていてくれるのか。
 やはりいい人たちに巡り会えた事を感謝しなきゃだね。

「さて、他にも気になっている事があるだろうから話を続けようか」

 東さんたちパーティーで魅了により洗脳を行っていたのは金山さんだそうだ。裏にいるのは外国勢力で、元々は勇者である香織さんだけを連れ去る予定だったけれど、俺の能力を見て俺もターゲットとしたらしい。これまでの勇者の扱いなら、殺すという手段を取られるはずだが、なぜ殺さず連れ去ろうと思ったのか?それは香織さんが若くて美しい事が大きいらしい……つまり権力者の欲が出たのだろうとの事だ。でもなぜ今なのか?香織さんたちは俺より1年上だ、つまりここまでで約2年あったのにも拘わらず、なぜ今更事を起こそうとしたのか?以前ならもっと楽に拐かす事が出来たと思うんだ。それについては正直わからないらしい。金山さんの事情なのか?それとも裏にいる海外勢力なのかも。ただこの機に乗じて、日本国内の勢力の力を削ごうとする思惑も見受けられる事は確からしい。
 ここで気になるのがという言葉だ。なぜ元々だなんて言葉が出てくるかといえば、それに便乗して東さんたちに魅了魔法を掛け洗脳しやすいようにしたのが田中さんだったようだ。田中さんは長野出身という事なので戸隠かと思いきや伊賀関連らしい。これは百地さんや藤林さんが情報として持ってきてわかったとの事だ。
 では秋田さんは潔白かといえば、それはそれで違うらしい。彼女は一全の中の不穏分子……師匠の座、つまり一全流当主を狙う師匠の弟である五男さんとそれに付き従う者たちと関係しているらしい。なぜ五男さんが?と思えば、一全の中にも目先の欲に囚われている者がいるとの話だ。
 ちなみにハゲヤクザと鬼畜治療師は今のところ潔白らしい。

 Xデーには金山さんが関連する勢力が手を貸した東さんたち一行、風魔戸隠に与する流派一行、そして秋田さんが関連する一全の不穏分子の3勢力が我先に……もしくは漁夫の利を狙ってくるだろうと予測しているらしい。

 まさか3人ともが犯人だなんて、誰か予想していただろうか……あれほど香織さんと仲良くしているように見えた3人が、まさかそれぞれ思惑を持っていたとか……酷すぎる!!

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