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37.不実な男の誠実な告白
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王都からロンダの町に向けて走り続ける馬車の中にヴェイルスの姿が現れた。
正面に座る美女は不機嫌そうに怒っている。
「なぜそんな不機嫌な顔をしているのです?」
柔らかな口調でヴェイルスは尋ねた。
「当然です。股間にこんなものが生えるなんて聞いていません」
「直前で教えたではないですか」
「転送装置に乗る直前です。しかも見知らぬ男に無遠慮に触られたのですよ?」
ラフィーニアを脱出させるのに役立ったのはシーリアの開発したとんでもない霊薬だった。
ラフィーニアの姿になる薬と、ヴェイルスの男性器をそっくりそのまま股間に生やす薬だ。
まず知識の塔に侵入するときにヴェイルスがラフィーニアの姿に化ける。
そして知識の塔にいたラフィーニアはヴェイルスの男性器を生やす薬を飲んで、ヴェイルスの替わりに外に出る。
第一管理官が触ったのはヴェイルスの男性器だったが、それを生やしていたのは本物のラフィーニアだったのだ。
当然、そんなものが生えると知っていればラフィーニアは抵抗しただろうから、ヴェイルスはその男性器が生える薬を変装のための薬だとだけ伝えた。
「これを飲めば絶対に疑われることなく外に出られます」
急いでいたラフィーニアはシーリアがそんな薬を開発していたことを失念していた。
まさか角ネズミに使ったものを自分が使う羽目になるとは思いもしなかったのだ。
シーリアの物語を隅々まで知っているラフィーニアにヴェイルスは素朴な疑問を口にした。
「それを開発したのはあなたなのか、それともシーリアなのか私には判断がつかない」
ラフィーニアは股間の違和感に落ち着かない様子で何度も座席に座り直すような仕草をしていたが、諦めて少し足を開いて腰をおちつけた。
「最初は私の物語でした。でも書いていると、物語は考えるより早く走り出すのです。
シーリアがまるで自ら動き出すかのように、私が何も思いつかなくても彼女は次から次へと事件を起こしました。
それは間違いなく彼女の意志でした。時々私は修正をかけるぐらい。
あんな妙な薬は私では思いつけません。
彼女の体だけがあの廃村の地下にずっとあったのです。
だから私は傍観者のままでした。それでも世界を見ることができた。
でも……私は欲をかきました。あなたに会いたかった。その感情をペンに込めてしまった。
私が感情移入すればシーリアの物語に出てしまう。彼女の意志に介入してしまった。
あなたに惹かれていた気持ちはシーリアの気持ちになった。
シーリアが私のペンから飛び出してリーアンを助けようと走った時は本当に恐ろしかった。
私の感情が追い付かなくて、シーリアを手放してしまうところだった。
リーアンへの気持ちを叶えた時、私はこれ以上シーリアを縛り付けるのは無理だと悟りました。彼女は自ら私のペン先を払いのけたのです。
私の役割は終わり、シーリアは自ら自分の物語を歩き出したのだと受け入れることにしました」
「では、あなたは私が研究棟に美女達を囲っていることも全て承知で私に惹かれて下さったと?」
ヴェイルスはそっとラフィーニアの手をとった。
「ええ。私は何百年も王族達に遊ばれてきた身ですから。それなりに理解はあります」
ヴェイルスは揺れる馬車の中で跪いた。
「ラフィーニア、これからはあなた一人だ。私が何百年と恋焦がれてきたのはあなただけだ。どうか私と共に生きてくれないだろうか?」
「本当の私をあなたは知らないでしょう?」
ラフィーニアの言葉にヴェイルスは微笑んだ。
「あなたが書いた物語は知っている。あなたが誰かのために永伝師の立場に立ち続けたことも。そして今も、あなたの物語があそこで生きている。私の力が共にあればこれからも長い間あなたの嘘をうまく隠していけるでしょう」
長い時をひっそりと生きてきた古代の魔法使いは長い間恋焦がれてきた、美しいラフィーニアを熱く見つめた。
どこかで完全に隠れて生きることも出来ただろうが、人の中で穏やかに生きていきたい者もいる。
ヴェイルスはラフィーニアを抱き寄せ口づけをしながら、いつもの習慣でその手を胸から腰、そして腿のつけねに走らせた。
そして、自分の男性器に触れ、不快な声を出した。
「くそっ!薬の効果が長すぎる!」
ラフィーニアは明るい笑い声をたてた。
「彼女は一流の霊薬師でしたから。一流の霊薬師の記録を山ほど読みました。言止めの力はいつか消えてしまうもの。ヴェイルス様、私を支えてくださいね」
ヴェイルスはもちろんだと答えながら下半身に触れることを諦め、ラフィーニアの腰を抱いて再び熱い口づけをした。
――
永伝師が知識の塔からいなくなったと騒ぎになったりはしなかった。
ただ、少しだけ不思議な出来事が続いたが、気に留めるような事でもなかった。
魔封じの腕輪を外し忘れたと思った知識の塔の第一管理官は、その魔封じの腕輪が机の下から出てきたことに首をひねった。
しかし無意識に外して落としたのだろうかと思っただけだった。
永伝師のラフィーニアがよく眠りにつくようになり、王はついに懐妊したかと喜んだが、全くその兆しはないと調べでわかり落胆した。
いつものようにラフィーニアは人形のように淑やかに微笑み、王を満足させたからその変化はいつしかそうしたものとして受け入れられていった。
なにせラフィーニアは王が生まれた時からそこにいたのだ。
歳をとって疲れやすくなったのかもしれないとも考えられた。
一級霊薬師のヴェイルスが知識の塔に呼ばれることはなくなったが、ヴェイルスはもうラフィーニアを眺めに頻繁に王都にいったりはしなかった。
なぜならラフィーニアはヴェイルスのすぐそばにいたからだ。
驚いたことにヴェイルスの愛は本物だった。
あれだけ美女をはべらせていたというのに、ヴェイルスは研究棟の女達に良い縁談を世話してやるとさっさと追い出してしまったのだ。
残ったのは王都から連れて帰った謎の霊薬師だけだった。
なぜかさまざまな書類がそろっており、国家霊薬師としての正式な身分も持っていた。
ヴェイルス好みの美女であり、ヴェイルスはその顔を毎日飽きもせずに眺めた。
そのうち、なぜか少しずつ人が増え始めた。
国家霊薬師の研究所であったから、働く者はそれなりの身分であったが、王都の霊薬総合研究所からそんな霊薬師がいただろうかと確認の連絡が入ることもあった。
しかしヴェイルスに言われて調べてみれば必要な書類は揃っており、審査も終えている霊薬師だとわかった。
少しずつヴェイルスの霊薬研究所第五班には再び人が集まってきたが美女はやはり一人だけだった。
美女はラフィーニアと呼ばれたが、それを不審に思う者もいなかった。
『永伝師ラフィーニア似の美女に一時的になれる薬』はこの研究棟が開発した代表的な霊薬だった。
「意外と国の目をごまかすのって簡単なのですね」
ユドの廃村近くに隠れ住んでいた野良言止めのエーナが霊薬の瓶を振りながら様子を見に来たヴェイルスに開発許可証を差し出した。
書類には王都の審査本部の印が押されていた。ヴェイルスは書類を丸めるとエーナに冷やかな眼差しを向けた。
「馬鹿をいうな。数百年かけてどの程度ならばれないか、緻密に計算してきたのだ。言っておくがある程度自由になるというだけだ。
制約は受けてもらう。王国は常に魔力使いを見張っているのだ」
「わかっています」
答えたのは背後から洗濯籠を運んできたこれまた野良言止めだったビエナだった。
「あそこも快適だったけど、ここはもっと快適。霊薬師と偽らないといけないのは大変だけど、シーリアの残したレシピ通りに霊薬も作れるし、半端な私達には快適なことだらけ」
エーナは洗濯物を持ってくると、ビエナの持ってきたかごに詰めた。
「彼氏も出来たしね」
エーナの言葉にビエナは赤くなった。ヴェイルスが厳しい目を向ける。
「秘密をばらすようなことをすれば男も同様に殺すからな」
ぞっとするようなことを簡単に口にしたヴェイルスに、二人の女は真剣な顔で頷いた。それが脅しではないことを二人はよくわかっていた。
ヴェイルスは古の時代から生きる冷酷な魔法使いなのだ。
ラフィーニアがこの国に留まり、偽の永伝師を作り上げているから仕方なくこの王国にとどまっているが、本気になれば人の世界に囚われず一人で国を飛び出して生きていくことさえ可能なのだ。
女たらしで有名なヴェイルスは生まれ変わったように一途な男に変わっていた。
ヴェイルスは保護することになった霊薬師たちを見回ると、ラフィーニアの部屋に戻ってきた。
ラフィーニアは分厚い本を開いて金色のペンで白紙のページに文字を刻み続けている。
扉が開き、ヴェイルスがその前に立ってもしばらくラフィーニアはその存在に気が付かなかった。
やがて、窓からの日差しが雲で遮られると、ランプに手を伸ばそうとしてヴェイルスの姿に気が付いた。
ヴェイルスは黙ってラフィーニアを見つめていた。
ラフィーニアは小さく驚きの声をあげ、それからにっこり微笑んでペンを置いた。
「声をかけてくれたらいいのに」
ヴェイルスはラフィーニアに近づきその腰を抱き上げた。
「王が部屋にきたのか?」
知識の塔の最上階での話だった。彼女の存在をもとに書かれる知識の塔にいるラフィーニアの物語はまだ続いていた。
眠るシーリアが生きていたらと仮定して書き続けてきたように、ラフィーニアがそこにまだ残っていると仮定して書かれる物語は王国の都合の良いように話が進むのだ。
その光景を見てその体験をしているにも関わらず、実際のラフィーニアはヴェイルスの傍にいる。
「あなたが天窓に穴をあけてくれたから、彼女と魔力で繋がっている。私が、物語の中で他の男に抱かれるのは嫌?」
困ったようにラフィーニアは問いかけた。ヴェイルスはにやりとしてラフィーニアを抱き上げた。
「いいや。俺は知っての通り性格が悪い。彼らが抱いている女はただの想像物に過ぎないと思うと小気味いい」
ヴェイルスはラフィーニアを寝室に連れていくと寝台の上に横たえ、さっそく楽しもうとラフィーニアの服を脱がしにかかった。
「あら、私もまた作られた存在だったらどうかしら?」
ラフィーニアは両手を伸ばしヴェイルスの頬に触れた。
「また探すさ。数百年かけた。また何年でもかける。俺はずっとあなたを一目見た時から欲しいと思ってきた。俺達は太古の時から生きている者同士だ。同じように生きている仲間が何人いるかわからないが、長く生きる者同士、いつかは必ず会える」
唇を重ねると、ラフィーニアは観念したようにヴェイルスに囁いた。
「私はここにいる。私はあなたの物。私のためにここに留まってくれていたのね。ありがとう……一年に一度あなたの姿を見るのが本当に楽しみだったの」
「目を合わせたこともなかったのに?」
ヴェイルスはラフィーニアの白い乳房に唇を押し付け優しい愛撫を加えた。
ラフィーニアは幸せそうに微笑んだ。
「気づいていると悟られるわけにはいかないでしょう?私もうまくやっていたのよ。しばらくは永伝師の席は空いたまま。誰も王国にとらわれずに済むはずよ」
ラフィーニアは次に永伝師に選ばれてしまうかもしれない誰かを守っている。
恐ろしい孤独の牢獄から。
この王国が魔力使いを掌握しきれなくなればどうなるか、他国の侵略を受け、魔力使いは乱獲され売り飛ばされることになりかねない。
様々な歴史を見てきたラフィーニアはこの平和を維持したいのだ。
その平和が見せかけだけのものだとしても、ヴェイルスのように力ある魔法使いがそのほころびを微調整して押さえている場合もある。
白でも黒でもない灰色の魔力使いが住める場所だ。
ヴェイルスはラフィーニアの膣内に本物の自分の男性器をゆっくり馴染ませながら押し込んだ。
ラフィーニアの口から甘い声が漏れると、ヴェイルスはその耳を舐めながら囁いた。
「そうだ。聞きたいことがあった。君が子供を生めないのは高齢だから?」
怒ったラフィーニアがヴェイルスを押しのけようとしたが、ヴェイルスは深くラフィーニアと重なりその体をしっかり押さえつけていた。
「酷い人!」
ラフィーニアは喘ぎながら文句を言ったが、ヴェイルスは実に楽しそうにその体を味わった。
シーリアの目を通してみてきた通り、本当に意地の悪い人なのだとラフィーニアは思いながら、ヴェイルスの抗えない魅力を受け入れうっとりとその首に抱き着いた。
正面に座る美女は不機嫌そうに怒っている。
「なぜそんな不機嫌な顔をしているのです?」
柔らかな口調でヴェイルスは尋ねた。
「当然です。股間にこんなものが生えるなんて聞いていません」
「直前で教えたではないですか」
「転送装置に乗る直前です。しかも見知らぬ男に無遠慮に触られたのですよ?」
ラフィーニアを脱出させるのに役立ったのはシーリアの開発したとんでもない霊薬だった。
ラフィーニアの姿になる薬と、ヴェイルスの男性器をそっくりそのまま股間に生やす薬だ。
まず知識の塔に侵入するときにヴェイルスがラフィーニアの姿に化ける。
そして知識の塔にいたラフィーニアはヴェイルスの男性器を生やす薬を飲んで、ヴェイルスの替わりに外に出る。
第一管理官が触ったのはヴェイルスの男性器だったが、それを生やしていたのは本物のラフィーニアだったのだ。
当然、そんなものが生えると知っていればラフィーニアは抵抗しただろうから、ヴェイルスはその男性器が生える薬を変装のための薬だとだけ伝えた。
「これを飲めば絶対に疑われることなく外に出られます」
急いでいたラフィーニアはシーリアがそんな薬を開発していたことを失念していた。
まさか角ネズミに使ったものを自分が使う羽目になるとは思いもしなかったのだ。
シーリアの物語を隅々まで知っているラフィーニアにヴェイルスは素朴な疑問を口にした。
「それを開発したのはあなたなのか、それともシーリアなのか私には判断がつかない」
ラフィーニアは股間の違和感に落ち着かない様子で何度も座席に座り直すような仕草をしていたが、諦めて少し足を開いて腰をおちつけた。
「最初は私の物語でした。でも書いていると、物語は考えるより早く走り出すのです。
シーリアがまるで自ら動き出すかのように、私が何も思いつかなくても彼女は次から次へと事件を起こしました。
それは間違いなく彼女の意志でした。時々私は修正をかけるぐらい。
あんな妙な薬は私では思いつけません。
彼女の体だけがあの廃村の地下にずっとあったのです。
だから私は傍観者のままでした。それでも世界を見ることができた。
でも……私は欲をかきました。あなたに会いたかった。その感情をペンに込めてしまった。
私が感情移入すればシーリアの物語に出てしまう。彼女の意志に介入してしまった。
あなたに惹かれていた気持ちはシーリアの気持ちになった。
シーリアが私のペンから飛び出してリーアンを助けようと走った時は本当に恐ろしかった。
私の感情が追い付かなくて、シーリアを手放してしまうところだった。
リーアンへの気持ちを叶えた時、私はこれ以上シーリアを縛り付けるのは無理だと悟りました。彼女は自ら私のペン先を払いのけたのです。
私の役割は終わり、シーリアは自ら自分の物語を歩き出したのだと受け入れることにしました」
「では、あなたは私が研究棟に美女達を囲っていることも全て承知で私に惹かれて下さったと?」
ヴェイルスはそっとラフィーニアの手をとった。
「ええ。私は何百年も王族達に遊ばれてきた身ですから。それなりに理解はあります」
ヴェイルスは揺れる馬車の中で跪いた。
「ラフィーニア、これからはあなた一人だ。私が何百年と恋焦がれてきたのはあなただけだ。どうか私と共に生きてくれないだろうか?」
「本当の私をあなたは知らないでしょう?」
ラフィーニアの言葉にヴェイルスは微笑んだ。
「あなたが書いた物語は知っている。あなたが誰かのために永伝師の立場に立ち続けたことも。そして今も、あなたの物語があそこで生きている。私の力が共にあればこれからも長い間あなたの嘘をうまく隠していけるでしょう」
長い時をひっそりと生きてきた古代の魔法使いは長い間恋焦がれてきた、美しいラフィーニアを熱く見つめた。
どこかで完全に隠れて生きることも出来ただろうが、人の中で穏やかに生きていきたい者もいる。
ヴェイルスはラフィーニアを抱き寄せ口づけをしながら、いつもの習慣でその手を胸から腰、そして腿のつけねに走らせた。
そして、自分の男性器に触れ、不快な声を出した。
「くそっ!薬の効果が長すぎる!」
ラフィーニアは明るい笑い声をたてた。
「彼女は一流の霊薬師でしたから。一流の霊薬師の記録を山ほど読みました。言止めの力はいつか消えてしまうもの。ヴェイルス様、私を支えてくださいね」
ヴェイルスはもちろんだと答えながら下半身に触れることを諦め、ラフィーニアの腰を抱いて再び熱い口づけをした。
――
永伝師が知識の塔からいなくなったと騒ぎになったりはしなかった。
ただ、少しだけ不思議な出来事が続いたが、気に留めるような事でもなかった。
魔封じの腕輪を外し忘れたと思った知識の塔の第一管理官は、その魔封じの腕輪が机の下から出てきたことに首をひねった。
しかし無意識に外して落としたのだろうかと思っただけだった。
永伝師のラフィーニアがよく眠りにつくようになり、王はついに懐妊したかと喜んだが、全くその兆しはないと調べでわかり落胆した。
いつものようにラフィーニアは人形のように淑やかに微笑み、王を満足させたからその変化はいつしかそうしたものとして受け入れられていった。
なにせラフィーニアは王が生まれた時からそこにいたのだ。
歳をとって疲れやすくなったのかもしれないとも考えられた。
一級霊薬師のヴェイルスが知識の塔に呼ばれることはなくなったが、ヴェイルスはもうラフィーニアを眺めに頻繁に王都にいったりはしなかった。
なぜならラフィーニアはヴェイルスのすぐそばにいたからだ。
驚いたことにヴェイルスの愛は本物だった。
あれだけ美女をはべらせていたというのに、ヴェイルスは研究棟の女達に良い縁談を世話してやるとさっさと追い出してしまったのだ。
残ったのは王都から連れて帰った謎の霊薬師だけだった。
なぜかさまざまな書類がそろっており、国家霊薬師としての正式な身分も持っていた。
ヴェイルス好みの美女であり、ヴェイルスはその顔を毎日飽きもせずに眺めた。
そのうち、なぜか少しずつ人が増え始めた。
国家霊薬師の研究所であったから、働く者はそれなりの身分であったが、王都の霊薬総合研究所からそんな霊薬師がいただろうかと確認の連絡が入ることもあった。
しかしヴェイルスに言われて調べてみれば必要な書類は揃っており、審査も終えている霊薬師だとわかった。
少しずつヴェイルスの霊薬研究所第五班には再び人が集まってきたが美女はやはり一人だけだった。
美女はラフィーニアと呼ばれたが、それを不審に思う者もいなかった。
『永伝師ラフィーニア似の美女に一時的になれる薬』はこの研究棟が開発した代表的な霊薬だった。
「意外と国の目をごまかすのって簡単なのですね」
ユドの廃村近くに隠れ住んでいた野良言止めのエーナが霊薬の瓶を振りながら様子を見に来たヴェイルスに開発許可証を差し出した。
書類には王都の審査本部の印が押されていた。ヴェイルスは書類を丸めるとエーナに冷やかな眼差しを向けた。
「馬鹿をいうな。数百年かけてどの程度ならばれないか、緻密に計算してきたのだ。言っておくがある程度自由になるというだけだ。
制約は受けてもらう。王国は常に魔力使いを見張っているのだ」
「わかっています」
答えたのは背後から洗濯籠を運んできたこれまた野良言止めだったビエナだった。
「あそこも快適だったけど、ここはもっと快適。霊薬師と偽らないといけないのは大変だけど、シーリアの残したレシピ通りに霊薬も作れるし、半端な私達には快適なことだらけ」
エーナは洗濯物を持ってくると、ビエナの持ってきたかごに詰めた。
「彼氏も出来たしね」
エーナの言葉にビエナは赤くなった。ヴェイルスが厳しい目を向ける。
「秘密をばらすようなことをすれば男も同様に殺すからな」
ぞっとするようなことを簡単に口にしたヴェイルスに、二人の女は真剣な顔で頷いた。それが脅しではないことを二人はよくわかっていた。
ヴェイルスは古の時代から生きる冷酷な魔法使いなのだ。
ラフィーニアがこの国に留まり、偽の永伝師を作り上げているから仕方なくこの王国にとどまっているが、本気になれば人の世界に囚われず一人で国を飛び出して生きていくことさえ可能なのだ。
女たらしで有名なヴェイルスは生まれ変わったように一途な男に変わっていた。
ヴェイルスは保護することになった霊薬師たちを見回ると、ラフィーニアの部屋に戻ってきた。
ラフィーニアは分厚い本を開いて金色のペンで白紙のページに文字を刻み続けている。
扉が開き、ヴェイルスがその前に立ってもしばらくラフィーニアはその存在に気が付かなかった。
やがて、窓からの日差しが雲で遮られると、ランプに手を伸ばそうとしてヴェイルスの姿に気が付いた。
ヴェイルスは黙ってラフィーニアを見つめていた。
ラフィーニアは小さく驚きの声をあげ、それからにっこり微笑んでペンを置いた。
「声をかけてくれたらいいのに」
ヴェイルスはラフィーニアに近づきその腰を抱き上げた。
「王が部屋にきたのか?」
知識の塔の最上階での話だった。彼女の存在をもとに書かれる知識の塔にいるラフィーニアの物語はまだ続いていた。
眠るシーリアが生きていたらと仮定して書き続けてきたように、ラフィーニアがそこにまだ残っていると仮定して書かれる物語は王国の都合の良いように話が進むのだ。
その光景を見てその体験をしているにも関わらず、実際のラフィーニアはヴェイルスの傍にいる。
「あなたが天窓に穴をあけてくれたから、彼女と魔力で繋がっている。私が、物語の中で他の男に抱かれるのは嫌?」
困ったようにラフィーニアは問いかけた。ヴェイルスはにやりとしてラフィーニアを抱き上げた。
「いいや。俺は知っての通り性格が悪い。彼らが抱いている女はただの想像物に過ぎないと思うと小気味いい」
ヴェイルスはラフィーニアを寝室に連れていくと寝台の上に横たえ、さっそく楽しもうとラフィーニアの服を脱がしにかかった。
「あら、私もまた作られた存在だったらどうかしら?」
ラフィーニアは両手を伸ばしヴェイルスの頬に触れた。
「また探すさ。数百年かけた。また何年でもかける。俺はずっとあなたを一目見た時から欲しいと思ってきた。俺達は太古の時から生きている者同士だ。同じように生きている仲間が何人いるかわからないが、長く生きる者同士、いつかは必ず会える」
唇を重ねると、ラフィーニアは観念したようにヴェイルスに囁いた。
「私はここにいる。私はあなたの物。私のためにここに留まってくれていたのね。ありがとう……一年に一度あなたの姿を見るのが本当に楽しみだったの」
「目を合わせたこともなかったのに?」
ヴェイルスはラフィーニアの白い乳房に唇を押し付け優しい愛撫を加えた。
ラフィーニアは幸せそうに微笑んだ。
「気づいていると悟られるわけにはいかないでしょう?私もうまくやっていたのよ。しばらくは永伝師の席は空いたまま。誰も王国にとらわれずに済むはずよ」
ラフィーニアは次に永伝師に選ばれてしまうかもしれない誰かを守っている。
恐ろしい孤独の牢獄から。
この王国が魔力使いを掌握しきれなくなればどうなるか、他国の侵略を受け、魔力使いは乱獲され売り飛ばされることになりかねない。
様々な歴史を見てきたラフィーニアはこの平和を維持したいのだ。
その平和が見せかけだけのものだとしても、ヴェイルスのように力ある魔法使いがそのほころびを微調整して押さえている場合もある。
白でも黒でもない灰色の魔力使いが住める場所だ。
ヴェイルスはラフィーニアの膣内に本物の自分の男性器をゆっくり馴染ませながら押し込んだ。
ラフィーニアの口から甘い声が漏れると、ヴェイルスはその耳を舐めながら囁いた。
「そうだ。聞きたいことがあった。君が子供を生めないのは高齢だから?」
怒ったラフィーニアがヴェイルスを押しのけようとしたが、ヴェイルスは深くラフィーニアと重なりその体をしっかり押さえつけていた。
「酷い人!」
ラフィーニアは喘ぎながら文句を言ったが、ヴェイルスは実に楽しそうにその体を味わった。
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