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魔法使いの流儀
84. 思い込みの払拭
しおりを挟むいつも読みにきてくださる方々、ふらっと来てくださった方もありがとうございます!!
一日遅くなってしまい申し訳ありません。
投稿再開いたしますm(_ _m)
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ジュール王子の一行が王宮を奪還した。
いち早くそれをカリタス邸へ知らせに来てくれた魔法使いに礼を言い、悠真はさっそく執事のフロースにもそれを伝えた。
「フロース、飲み物と軽食を用意してもらえないかな」
「は、ただちに」
簡単につまめる軽食と飲み物がすぐにテーブルへ並べられ、フロースも脇に控えて詳しい話を聞くことになった。
「ありがたい。メシを食いっぱぐれていたんだ」
「そうなんだ。もう少し用意したほうがよかったかな?」
「いや、満腹だと逆に動きづらくなる。これでちょうどいい」
機嫌よくおかずパンをつまみながら魔法使いが語るには、ジュール王子とジスランと近衛、それに王子へ味方する貴族の手勢が森の出口付近に待機しており、彼らはオスカーの合図とともに王宮への『進軍』を開始した。
その時点で既に王宮の征圧は完了していたのだが、あくまでも王子が奪還したという形にしておきたかったのだ。これは王子達の意向ではなく、魔導塔の介入が最低限であったことを対外的に示しておきたいというリアムとオスカーの意向によるものだ。
加えて、愛し子単体でそれだけの戦力になるということを、あまり喧伝したくはなかったのもある。
(そうだね……大昔は、そのせいで戦奴みたいに扱われていたらしいし……)
彼らが『道具』として扱われれば、それはもう強力な軍隊になったであろうことは想像がつく。そんな時代への回帰を望む者が、おそらくフルーメン一派の中には相当数いたことだろう。
王都の民が固唾を呑んで見守る中、大勢の兵士と魔法使いが王子に付き従って王宮を目指し、それは一種異様な光景だったという。
リアムによって縛り上げられたフルーメン達は、広間で膝を突かされ、ある者は怯え、ある者は憎々しげに睨みあげていたそうだ。猿轡を噛まされているので、お得意の不愉快な口上も吐き出すことができない。
そんな彼らを、ジュール王子は満面の笑顔で見下して言った。
『安心するがよい。歴史書にはそなたらのことをこう記してやろう。―――〝孫どころか曾孫もいる年齢になりながら、後継へ譲る気がひと欠片もなく、豪華な椅子にしがみつき続ける迷惑な老人集団〟とな』
甘く見ていた王子に嘲笑され、彼らは屈辱で顔を真っ赤にした。
それでも中には『まだ何とかなる』と考え、余裕ぶった顔を作っていた輩もいたらしい。どうせ何も証拠はない、と。
それはフルーメン『元』大臣だけではない。誰もが似たり寄ったりの魑魅魍魎として、長年権力を握り続けてきた自負もあった。
けれどそれらは、もはや状況を理解できず、あるいは認めたくないがための悪あがきでしかなかった。
「奴らの敵は国王一家だけではなかったのさ」
果物のジュースが気に入ったのか、魔法使いは美味しそうにちびちび飲みながら続けた。
「その筆頭が、ほかならぬ奴ら自身の子や孫達だ。奴らが家督を抱え込んだままズルズル居座り続け、頭上から押さえつけているせいで、何ひとつ自由にできるものがない」
息子達も既に高齢になったのに、未だに呼称は『~令息』。
孫達は三十代に入っても『~令孫』だ。
この呼称自体が、時には嘲笑や皮肉をこめて呼ばれていたため、息子や孫達は表向き従順な態度を取りながら、内心ではその元凶を嫌い抜いていた。
フルーメン一派が王宮で籠城を始めた時、彼らは死に物狂いでフルーメン達のこれまでの罪の証拠をかき集め始めた。
『道連れにされてたまるものか……!』
『あいつらの仲間扱いで滅ぼされるなど冗談ではない!』
反逆罪を逃れたい身内らによって、労せずして王子達のもとに、続々と証拠が提出され続けている。
実際のところ、これだけのことをしでかしたのだから、フルーメン達を罰するのにもはや『証拠の有無』など論点にはならない。だが過去の悪行をハッキリさせておけば、老い先短い臣下を野心家の王子が始末したような勘違いをする者を防げる。
ちなみにフルーメン達を守っていたはずの『元』近衛騎士団長だが、何故か防具がめちゃくちゃに破壊された上、下半身を露出した状態で豪華なシャンデリアに吊るされていた。
誰に何を言ってそんな辱めを受けているのか瞬時に察した王子は、それを記憶から消去することにした……。
さらに王子は、何日も謁見の間に閉じ込められていた両親とも再会した。やつれてはいないか、病を得てはいないかと心配していたのだが、「心配して損した」と彼は思った。
国王夫妻はとても色つやが良く、なんなら閉じ込められる前よりも健康的になっている。
夫妻だけでなく、そこに閉じこもっていた全員がまるで命の洗濯をしたかのような晴れやかな顔になっており、王子はいろいろと察した。
(なんかゴメン、ジュール……)
半笑いで遠い目になりながら、悠真はその後も魔法使いの詳細な報告を聞いた。
魔法使いに土産のパンを包んでやり、見送った後で悠真はフロースに二人分の夕食の準備を頼んだ。
今夜はきっと彼が戻る。そんな予感があったからだ。
思った通り、辺りがすっかり暗くなった頃、カリタス邸の玄関の前に、闇へ溶け込む巨大な翼竜が舞い降りた。
「オスカー! お帰りなさい!」
「ああ、今戻った」
その翼竜を初めて目にする使用人達は腰を抜かし、フロースでさえかろうじて踏みとどまっている状態だ。
しかし悠真が大喜びで翼竜に駆け寄り、皆の緊張感はややほぐれた。
「《ラディウス》もお帰り!」
翼竜が長い首を垂れ、悠真はその頭に抱き付いてわしゃわしゃと撫でてやっている。
(アレ? これは使役霊ではなかったのだろうか……?)
顔を見合わせた使用人の目と目の間に疑問符が飛び交った。
オスカーは自分より先に抱き付かれている《ラディウス》に面白くなさそうな視線を送り、悠真が「あ~……」と残念そうな声を上げるのも構わず、さっさと影の中に仕舞い込んでしまった。やはり使役霊だったんだ、と驚く使用人の前で、さらにオスカーは悠真の腰を抱き、咎めるような目で軽い口づけを落とした。
恥ずかしがりつつ、自分の唇を上向け、それを受け止める悠真。
その姿はカリタス邸の使用人達の中に、特大の衝撃を与えていた。
確かに『伴侶』とは聞いていた。
けれど本当に、本当の意味でそういう仲だったなんて。
かつてオスカーのことを、『人の感情を理解できない冷血』と揶揄する声に同調し、彼が館を追い出されるようにいなくなっても何とも思わなかったことを、彼らは恥じた。
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