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魔法使いの流儀
75. 出発前夜*
しおりを挟むこれまで何年も多忙を極め、陰湿で鬱陶しい臣下に悩まされ続けてきた国王夫妻は、良質な睡眠、美味な食事、楽しい娯楽と三拍子揃った籠城生活により、髪も肌もすっかり色つやが良くなっている。
国王夫妻だけでなく、そこで同じ日々を送ることになった人々も、この数日の健康生活で生き返った心地になっていた。
まさに人生の休暇。これが自分達を衰弱させたい敵方の思惑をくじく嫌がらせになるのだから、最高の一言に尽きる。
「それでは、また明日」
「うむ、待っておるぞ」
「ごきげんよう」
「楽しゅうございました」
和やかに挨拶を交わし、悠真は専用の魔道具の鏡に触れた。
安全な快適空間に変貌させてしまったとはいえ、彼がそこに泊まるわけにはいかない。
(オスカーを心配させたくないからね)
タイムラグもなく、鏡は悠真を求める場所へ運ぶ。ほんの瞬きひとつの間に、そこはもうレムレスの館、オスカーの部屋の中だった。
「ただい……わっ」
抱きすくめられ、言葉が途中で途切れた。広い胸の中にすっぽり収まり、銀灰色の髪が流れて悠真の頬をくすぐる。
「お帰り」
「う、うん」
ドキドキしながら悠真も抱き返した。オスカーが黒髪や額に口づけを落とし、「今日はどうだった」と尋ねる。
「ん、あのね―――」
こめかみに唇の感触を感じ、くすぐったいと笑いながら、悠真は今日の出来事を思い出すままに話し始めた。運び込める物はもうほとんどあちらに持って行ったので、今日の午後はずっと遊んでいたのだ。
同じ釜の飯を食う関係というのか、同じ鍋の料理を分け合い、あの場所にいる全員に何となく連帯感が生まれている。精神状態に不安はない、それどころか病むのが難しいほどの環境になっている。
初日は緊張でいっぱいだった国王夫妻とも、すっかりカード友達になった。
それから、あの場所にはかつて悠真の友だったエルヴェとクレマンがいる。まだ二人には自分のことを明かせていないけれど、時々二人が「ん……?」という顔で悠真を見ているので、薄々勘付いているかもしれない。
「すごく楽しいし、嬉しかった」
「よかったな」
「うん」
「夕食は?」
「あっちで食べてきた。オスカーは?」
「私も食事は終わっている。―――明日だ。おまえは引き続き、あの中で注意を逸らしておいてもらいたいが……」
「ううん。それはもう陛下達にお願いできる。僕はミシェルを押さえに行くよ。それが僕の役目だ」
「……わかった。危険を少しでも感じればすぐに退け」
「ん。約束する」
こめかみに触れていた唇が移動し、頬を撫で、それから悠真の唇に辿り着いた。
始めは二、三度軽く重なり、次に舌を差し込みながら深く重なる。
「ぁふ……」
己の舌を絡めとられ、悠真の息はすぐに上がった。ゾクゾクと背筋を走る感覚に耐え、やがて立つのも難しくなり、オスカーの服にしがみつく。
官能をこれでもかと刺激する口づけ。これの意味するところはひとつだ。
自分の足が床から離れ、横抱きにされているのを感じながら、悠真は唇の隙間からうっとりと熱い息を吐いた。
ジュール王子とジスランと近衛達が滞在し、モレスの件があり、深い眠りから目覚めて以降は今回の件だ。立て続けにあれこれ重なったために、ここしばらくは共寝をしても、軽い触れ合いしかできていなかった。
そのせいだろうか。オスカーはいつもより手加減がなかった。
「あっ、やっ、あんっ! あっ! は、はげしっ、オスカーっ……ぁあぁっ!」
「っ……はっ……」
「あぁあっ、あーっ!」
荒々しく貫かれ、悠真はシーツの上でのたうっていた。
正面から腰を抱えられ、その両足の間に彼の身体が入り、閉じられない狭間に強く打ちつけられている。
突かれるたびに、怖いぐらいの衝撃がそこから全身に響いてたまらなかった。
(でも……うれしい……)
求められるのが嬉しい。触れてもらえるのが嬉しい。この熱をずっと感じたかった。
既に理性のネジが何本か飛んだ頭で、悠真は涙の雫を飛ばしながら「嬉しい」と呟く。
「オスカー、すきっ……オスカーっ」
耳元で名を囁かれ、それにすら感じてしまう。
潤んだ後ろの孔を剛直が出入りし、根元まで深く埋め込まれた何度目かの瞬間、勝手に腰がシーツから浮き上がった。
「ぁ、あぅん、あ、あ、……」
身体が弓のようにしなり、両足がピンと張った。何度か痙攣し、やがてガクリと力を失った。
けれど、悠真の芯は硬さを保ったままだ。オスカーも果ててはいない。
何も出ない状態で達したことは今までもあったが、絶頂を味わいつつ過ぎる快楽に達し損ねるという、中途半端な状態になってしまった。
ここまでくるとつらい。ひくひくと泣き始めた悠真の目尻に唇が落とされ、「大丈夫だ」とあやされた。
「肩につかまれ。そうだ……導いてやるから、安心しろ……」
「ん……」
精一杯腕を伸ばして抱き付くと、長い髪のさらりとした感触がある。
(髪、掴んだら、痛いよね……)
うっかり引っ張ってしまわないよう、手は拳の形にした。
途端、熱い杭がグルリとかき回す動きを始め、か細い悲鳴が漏れた。
しなやかな足の膝裏に腕がかけられ、今度は悠真の中心にも指で触れながら、また奥へ奥へと突き込む動きに変わる。
「だめっ、それ、おすかーっ! ……あっ……ぼく、だめ、だめ、あぁあ……っ!」
「大丈夫だ……そのまま委ねろ」
「―――っ、あ、あぁああっ!」
胎の奥を熱い液体が勢いよく満たす感覚。
大きな手が悠真のものを包み、その親指が根元から先端へツウ、と這う。
両方の刺激に身体が跳ね、悠真の目に火花が散った。
強烈な解放感とともに白濁がどぷりと溢れ、腹部から胸までを濡らす。
多幸感とオスカーの魔力、愛情、そういったもろもろでいっぱいになり、悠真はひくんと泣いた。気持ち良くて幸せ過ぎて、勝手に涙が流れてしまう。
「んぅ……ん、んん……」
「本当はおまえを、行かせたくはないのだがな……」
「……お、すかー?」
「今のおまえは、自力で立ち回れるだろう。たやすく後れを取るとは思わん。わかっていても、行かせたくない……ああいったものには、関わらせたくなかった」
「……オスカー……」
「だが、綺麗なものだけで包まれていても、おまえは幸福にはならん。行けなかったらおまえは後悔するだろう。そして、行かせなかった私も後悔する。ままならんな……」
せっかくオスカーが目尻をぬぐってくれているのに、悠真の涙はますます止まらなくなった。
(この人が、好きだ)
何度実感したかわからない想いを、また胸の中で抱きしめる。
大切で心配だからといって、肝心の時に排除することはしない。そのほうが悠真は嬉しかった。
だからこの想いを、目の前で苦渋の表情を浮かべている恋人に伝えようとした―――が。
「ぁう?」
ずぐりと中が蠢き、言葉をかけるために開けた口から、変な喘ぎ声が出てしまった。
オスカーがニヤリと意地悪そうに笑んでいる……。
「おまえを立てなくしてやれば、私にくっついているしかなくなるか」
「何言っ……あっ、んっ……オスカー!?」
彼のものが力を取り戻しているのを察し、悠真は本気で慌てた。
「待って、これ以上、んっ……これ以上はっ、ほんとに、立てなくなっ……」
「立てても、運んでやろうか?」
「~~、もうっ! ばかっ……ぁ、ああ……」
「くく……すまん。……あと少し、付き合ってくれ……」
内緒話を囁くように、笑いながらおねだりされ、あっさり陥落してしまった。
心配してもらえるのは嬉しいけれど、苦しそうな顔よりも、楽しそうな笑顔のほうがずっといい。
(だからって、本気で明日歩けなくなってたらどうするんだよーっ! もーっ!)
と思いつつ、先ほどよりもゆっくりと抜き差しをされて、後孔からハッキリ伝わってくる水音にカッと熱くなった。
果てたばかりの自分のそこもムクリと起き上がり、悠真は身をよじりながら、観念して瞼を閉じた。
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