上 下
71 / 90
魔法使いの流儀

71. 時間ロスのない移動手段

しおりを挟む

「僕、鏡と鏡を直接行き来できるようになったかもしれない」


 そして急遽、食堂で実験が行われることになった。もともとそこにあった鏡に加え、別室から運んできた置き鏡を隅と隅に設置する。

「ユウマ、鏡の角度はどうする?」
「ええと、合わせ鏡にさえしなければ、どっちに向けても大丈夫だよ」
「以前は角度によっては入れないという話だったはずだが」
「うん。前はそうだったんだけど、今は問題ないみたいだ」

 その言葉通りの結果になった。悠真は片方の鏡面に指で触れただけで、もう一方の鏡の近くに出現した。

「実体のまま移動できるのか……」
「すごくない!? 角度も違うのに、どうなってんの?」
「それが、前は真っ暗な異空間みたいなところを通過しなきゃいけなかったんですけど、さっきのはそういうのを経由せずに、直接ここに飛べたんです」
「直接?」
「どーゆーこと?」
「説明がちょっと難しいんですけど。たとえばこっちの鏡を覗いた時、向こうの鏡に映っているものが見えて」

 別々に置かれた鏡Aと鏡Bがあった場合、Aを覗きこんで意識すると、Bの前にあるものを見ることができる。見える範囲は鏡の大きさに影響された。
 たとえるなら鏡Aはモニター、鏡Bはカメラだ。
 そして自分が「そこへ移動したい」と意識しながらAに触れると、Bのカメラにおさまる範囲のどこかに、一瞬で移ることができるのである。

「魔力消費もないようだな」
「うん、ぜんぜん減ってないよ。それにオスカー、ほら……僕、服を着てる。服ごと移動できるんだ」
「……!」

 言わんとすることを理解し、オスカーは目を見開いた。
 使役霊の《シーカ》が影の中へ入ろうとすると、《シーカ》が手に持っていたペンは影の中へ持ち込むことができず、床に転がる。つまり使役霊は異空間に物質を持ち込むことができない。悠真の鏡を使った移動は、それとはまったく性質が違うというわけだ。
 しかし―――もし同じような仕組みだったとすれば、服だけは移動させられず、悠真がこの場で丸裸になっていたかもしれないということである。その点について少々文句を言いたくなるオスカーだったが、まずは何がどこまでできるのか、検証が先だ。

「鏡の角度は問わず、大きさも無関係か」
「移動先の鏡が小さ過ぎると、そこで何がどうなってるのかわかりにくいから、そこそこ大きさはあったほうがいいかな」
「もっともだ。ほかに何が移動できるか試そう」

 そして判明したのは、悠真が身に付けている物質であればたいがい何でも運べるということ。そして、生物に該当するものは運べなかった。
 生物は植物も含まれる。鉢植えを持って移動した時は、そこに植えていた植物が根ごと元の場所にすべて落ちており、悠真の手には土の入った鉢だけがあった。
 けれどたねは運べる。果物も運べる。鉢植えの植物から葉を一枚ちぎれば、それは運べた。
 水や飲み物の入った器も運べる。中身は失われていない。

「水魔法で操作できる範囲と同じ考え方なのかな? 血液みたいに、生物の一部と認識されたら、その液体は操れないっていう……」
「ふむ。近い理屈かもしれん」
「でもさあ、切断した腕とかはどうなんだろね? だってさっき、お肉運べちゃったでしょ?」

 無邪気なリアムの素朴過ぎる質問に、悠真はゾオオ……と青ざめた。

「し、しんせんなのは、はこべない、とか?」
「でも全然腐ってない肉や魚を運べちゃったよね? ちぎったばかりの葉っぱも運べたし」
「ユウマ、想像しなくていい。リアムおまえは余計なことを言うな!」
「ええぇ~、だって気になるじゃないか! チョンとやった指はどうなのかなぁとか」
「ゆ、ゆびがチョン……」
「リアム! 聞かんでいいぞユウマ、考えるな」

 ……人体の一部を運べる可能性は高い、しかし検証不要という結論になった。
 気を取り直し、次は『どれだけの量』を運べるのかを試す。これは単純に、悠真自身が持ち上げられるだけの量ならば運ぶことができた。
 食堂のテーブルといった重過ぎて運べないものは、たとえその一部を掴んでいたとしても、一緒に移動はさせられなかった。
 最後に、どこにある鏡なら使えるか、だが……。

「僕が認識できる鏡なら、どれでも」
「この館すべての鏡ならいけるか? それとも見える範囲にある鏡だけ?」
「ううん」

 悠真は首を横に振った。

「この国に存在する鏡、全部だよ」



 悠真は自分の考えをざっと話した。
 大量の魔道具を持ち込み、国王夫妻の籠城している建物の守りを完璧にかため、そこに食べ物をどんどん運び込む。
 取り囲んでいる連中が、いつになったら音を上げるのかと苛立つまで、中の人々にはとことん粘ってもらう。
 そしてそちらに注目が集まっている隙に、魔法使い達にはこっそり王宮に接近してもらう……というものだ。

「いいねぇ、それ」

 ニヤリと嗤ったのはリアムだ。
 オスカーは渋面を作っている。悠真一人を王宮へ向かわせることが気に入らないのだ。
 しかし使える作戦ではあるので、すぐに否定はできない。

「大丈夫だよオスカー、危ないことは絶対にしないから」
「おまえ一人をあちらへ向かわせること自体、危ないことだが?」
「う。だ、大丈夫だよ! そのために魔法使いさん達はもちろん、オスカーにも防御魔法たくさんかけてもらうから!」
「任せろ」
「守護の呪符なら大量に持って来ているぞ」
「筆頭の魔道具はやめておけ、字が汚くてたまに暴発する」
「暴発!?」
「こら、余計なこと言うんじゃないよ!」
「―――……わかった。少しでも危険だと感じたら即座に戻ると約束しろ」
「うん! 約束する、絶対に無謀なことはしないから!」

 魔法に関する作戦がメインになり、口を挟みにくい王子達だったが、ふと気になって尋ねた。

「ユウマ、父上達の場所にも鏡があるのか?」
「うん、あるよ」

 さらりと返され、ジュールは絶句した。悠真は国王夫妻のいる場所にも鏡があることを、とうに探った後なのだった。
 悠真は戻る時もそれを使うつもりだったが、オスカーが待ったをかけた。

「こちらに戻る時は、その鏡を使わないほうがいい」
「え? どうして?」
「おまえの移動手段が『鏡』であることは隠し、特殊な魔道具を使っているのだと思わせたほうがいいだろう」
「あぁ、私もそのほうがいいと思うよユウマくん。きみの力だと、向こうの姿だけじゃなく声も聞こえるんじゃない?」
「はい。……あ、そうか」

 悠真にとって鏡はカメラになる。あちらからすれば、知らぬ間に王宮へカメラを大量に仕掛けられていた気分になるのではないか。
 しかもその鏡は悠真にとって行き来が自在。どれだけ警備を厳重にしようと無意味。
 そして身分の高い人間ほど、鏡を一切利用しない生活など不可能だ。
 緊急時にしか利用しないと言っても信用されないかもしれないし、気持ちのいいものではないだろう。

「わかりました。じゃあ、カモフラージュになるものを持って行ったほうがいいですね」
「携帯鏡がいいだろう。それをおまえ専用の魔道具として使っていることにして、あちら側に設置すればいい」

 そこからは王子や近衛達も加わり、国王夫妻のいる場所に何があって何が足りないと思われるか話し合った後、悠真が運び込むものを決めていった。



-----------------------------------------------

 読んでいただいてありがとうございます!

 次の更新は9/30の予定ですm(_ _m)

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

処理中です...