66 / 95
喚び招く
66. たとえるなら傭兵タイプ
しおりを挟む偏見を取り払ってみれば、存外魔法使いは気難しくも排他的でもなかった。
オスカーやリアムが研究者タイプであることと同様、魔法使い全体が研究者肌であり、ただ単に好きなことは自由にやりたい、邪魔をされたくないという、ぶっちゃけ魔法オタクの集団だった。
(魔導塔が国そのものを支配せず、あえて別々の状態を保ってきたのって、オタクに国家運営は無理だって自覚してたからなんじゃ……)
客人の魔法使い全員に話しかけてみて、悠真はそう結論づけた。失礼かもしれないが、趣味と国家の都合が両立しなかった場合、魔法使いは間違いなく己の趣味をとる。
個人主義の集まりだから、他人が自分と違っていようが気にしない。だから排他的にもならない。そういう悪評を立てる者は、人から聞きかじったことをさも自分の知識のように言いふらしているだけか、あるいは排除されるような何かを魔法使い相手にやらかしたかのどちらかだ。
声がボソボソと聞き取りづらいのも、性格が暗いからではない。呪文以外を口にする時は、言質を取られないよう、言葉を最低限に抑える癖がついているらしい。彼らの喋る相手は人間だけとは限らないからだ。
その代わりリアムのように、自分の趣味に関して口をひらくと、途端に饒舌になる。あとは、魔道具などの素材商と交渉する時なども、普段とは別人のように舌の回る者が多いそうだ。
「わかる気がします」
悠真はチラリとオスカーを見上げた。彼も若干そういうところがあるなと思ったので。
オスカーはサ、と視線を逸らした。自覚はあるようだ。
ちなみに魔導塔は魔法使いの相互扶助組織のような面が強く、筆頭だから強権を振るえるわけでもない。基本的には従うし敬意も払うが、絶対服従する相手ではないとのことだった。
ただ、オスカーやリアムは精霊の愛し子だ。それはすべての魔法使いにとって特別な存在だった。
「筆頭もレムレスも、必要がなければ我々を呼ぶことはない。今回は必要な事情であると思ったから、応じた」
「この地を空にするわけにはいかないから、全員ではないが。そもそも都合のつかない者もいる」
それを聞いて悠真はふと、「もしや行き当たりばったり、なんてことはないよね?」と気になった。
「あの、つまり皆さんこういう時、組織立った動きはしていないってことですか? 命令系統とか、どうなっているんでしょう……」
「打ち合わせは事前にしているぞ。訓練はしていないが」
「動く者と守る者、いざという時に指示を出す者といった役割は日頃からだいたい決めている」
それは、安心していいのだろうか。彼らの能力は疑っていないけれど、大勢で一気に動くことには慣れていないわけだ。
その懸念は王子達の顔にも浮かんでいた。近衛達も何か言いたそうにしては口をつぐんでいる。
「案ずるな、ユウマ。おまえの頭にあるのは、『訓練された騎士団のようには動けないのではないか』ということだろう」
「オスカー」
「たとえるなら、魔導塔は傭兵集団だ。個人主義だが、おのおの何をすればいいのか熟知している」
「あっ……そういうことなんだ」
研究者で個人主義という特徴が頭にあったせいで、つい不安になってしまったが、オスカーの説明で納得した。傭兵も得手不得手があり、前衛を得意とする者もいれば、後衛や生産系の仕事を得意とする者もいる。
「オスカーの言う通りさ。私達は騎士団のような一糸乱れぬ行動は苦手だけれど、自由度の高さはそれを補って余りあるメリットなんだ。上下関係のがっちり決まっている騎士団は、『上』が腐っていると使い物にならないからねえ」
リアムが皮肉っぽく言い、近衛隊長が鼻白んだ。
否定できないのだ。命令系統の一番上に腐ったものを据えられたら、日頃からどんなに訓練を重ねていても意味がない。
そして今の王国騎士団のトップが誰なのか、悠真も憶えている。家柄とコネで決められたと噂されていたはずだ……。
「さて、まずは目標の設定だが。……おや?」
リアムの言葉が途中で止まった。漆黒の鳥があるかなしかのドアの隙間を通り抜け、羽ばたいてオスカーの腕にとまったのだ。
使役霊の《ウェスペル》だ。鳥が何かを訴えるように主人の目を見つめ、オスカーも見つめ返し、眉根を寄せた。
悠真にも彼らの間に交わされたものが視えた。言語ではなく、視覚イメージによる報告だ。その報告のあまりの内容に、悠真は眉を吊り上げた。
「何やってるの、あいつら……?」
「ユウマ? ―――もしや、視えたのか?」
「あ、うん。ごめんなさい、勝手に……」
怒りが漏れ、そのせいでオスカーにバレてしまった。人の手紙を横から盗み見たバツの悪さにヘコみそうになる。
「その、意識する前に視えちゃったんだ」
「そうか。気にするな。それよりも気分は悪くなっていないか?」
「ううん、それは大丈夫。胸は悪くなったけど……」
「なんだい? なんかろくなことじゃないみたいだけど、もしやあちらさんで妙な動きでもあったかい?」
「ああ。王都の動きを監視させていたのだが」
オスカーはジスランに目を据えた。
「まず、おまえの父親が捕えられている」
「ええっ、父上が!? 何故です!?」
ガタンと音を立ててジスランが身を乗り出した。それに構わず、次に王子に目を向ける。
「数名の臣下が結託し、陛下を拘束しようとしました。ルークスの父はそれを阻んで捕まったのです」
「なっ―――」
「今のところ陛下はご無事です。殿下の側近達がおかしな動きに勘付いて、先手を打ったようですね。近衛とともに謁見の間に立てこもっていますが、破られるのは時間の問題でしょう」
「彼らが……」
友の働きが誇らしい。だが追い詰められていることに変わりはなく、安心材料の少なさに王子は歯噛みした。
「都合がいいな」
「そうだな」
「―――なんだと?」
魔法使い達の呑気な声に、王子の視線に殺気がこもった。滅多にない王子の怒りに悠真は慌てるも、口を挟める空気ではない。
「何が都合がいいのだ?」
「まとめて粛清できるだろう。この機会に」
「相手は逆賊だ。遠慮をしなくていい理由を相手が作ってくれた」
「え……」
「王子の外出を狙い、王位を簒奪せんと狙った逆賊を討伐する。そのために魔導塔に助力を頼んだ。そう宣言すればいい」
「大義は王子にあり、王子の戦力も充分だ。民は王子につく」
「ついでに滅ぼしたい邪魔者がいれば、逆賊を水増ししてしまえ」
「水増しは後で面倒なことになるのではないか? それより流れ矢に当たったことにすればいい。もし高齢なら心の臓が保たなかったことにしても」
「…………」
悠真は呆気にとられた。なるほど彼らは傭兵だ。目的達成の上で不謹慎という単語は存在しないらしい。
(ちょっと、どうすんのこれ。変に理があると思っちゃうからタチ悪いよ)
王子は二の句が継げなくなったようだ。そして救いを求める視線を、こめかみに手を当てて渋面を作っているオスカーに向けた。
こういう時に頼るべき相手を間違えない王子だった。
1,621
お気に入りに追加
2,230
あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる