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友との再会
44. 犬も食わぬ争い*
しおりを挟むこの館で暮らしていると、悠真は「ここだけ時代が違うな」と感じることが多々あった。本来なら準備に手間も時間も要する、熱や水回りの問題を魔法で解決できてしまうのだ。
その最たるものが浴室だ。王都で暮らしていた頃は、使用人が厨房と浴室を何往復もして、浴槽に湯を満たしてくれた。入浴のたびに罪悪感を覚え、もっと温かい湯を追加して欲しくなっても言えず、身体を清潔にする本来の用途にだけ専念した。
ここでは魔石と魔法陣を組み合わせ、王都の生活ではあきらめていた『生活魔法』の仕組みがふんだんにあった。悠真が元いた世界と遜色ないほど、気軽に風呂も楽しめる。限度を超えた長時間の入浴は逆に身体に悪く、魔石の消耗も早くなるから日に一回だけに留めてはいるけれど、寒い季節に冷めにくい風呂ほどありがたいものはない。
そんな、至福のバスタイム。しかし今夜は、のぼせてしまうかもしれない……。
「煽ったのはおまえだ。ただで済むと思うなよ」
「いあっ! は、ぁあ……やっ、ふかっ、……ぁあっ!」
浴槽が満ちるにはもう少しだけ時間がかかる。立ち込める湯気の中、オスカーは床に膝立ちになり、全裸に剥いた悠真の上半身を壁に押し付け、後ろから深々と貫いた。
両膝を間に割り入れてしまえば、身長差もあって悠真の腰は自然と浮き、尻を相手の下半身に押し付ける格好になる。身をよじって逃げようとしたら、却って雄が深いところに嵌まり込んでしまった。
(やばっ、これ、やばい……! 動いたら、奥に……!)
逃げようともがくほど、自分で自分を追い詰めてしまう。
しかもオスカー自身は深々と埋め込んだきり、ぴたりと動きを止めてしまっていた。
「せっかく、今夜は見逃してやろうと思ったのだがな……覚悟はいいか?」
「ぁ、あ、……だってっ……」
胎内に放たれたオスカーの魔力は時間が経つごとに吸収され、二十歳に満たない若さの回復力も相まって、強がりでも何でもなく、本当に身体のどこも悪くなってはいない。毎回、行為直後に足が使い物にならなくなるのは、過ぎた快楽の余韻で一時的に腰が抜けてしまっているだけだ。
心配されるのが申し訳ないぐらい、悠真は心身ともに一度も苦痛を味わったことがなかった。むしろ毎回、気持ちよさに際限がなくて怖くなるほどだった。
なのに、怖くて逃げようとするのを許さず、甘く甘く犯し続け、快楽を刷り込み続けたのがこの男だった。
「……オスカーのせいだよっ!」
「ん?」
「だって僕、こんなっ……あっ、は、……」
後ろから回された手が、両の乳首をつまんで揉み始めた。胎の奥がきゅんきゅんと雄を締め付け、その形をリアルに感じてしまう。
体格に見合って長大なものが、怯むほど深くに納まっていた。―――でも、まだ余裕がありそうだ。
お互い、日中にたっぷりまぐわっていたおかげで、まだ理性が飛ぶには至らない。そのせいで悠真は生殺しの目に遭いかけ、オスカーは賢者タイムに入りかけた末の攻防が今展開されているわけだが。
「どうした? 強気だったくせに、大人しくなったな?」
「そ、……んな、よゆーぶってるの、いまのうち、だからねっ……」
「くく、余裕などあるものか……。私を見て、何を考えていたと? ほら、言え」
「んっ……し、しらない、よっ……」
「強情だな」
耳を食みながら「素直に吐け」と甘く強請るのに、「絶対言わない」と返す。もしどこぞの友人が見ていれば、「何やってんのきみたち」と砂袋を追加しそうな戦いであったが、悠真としては至って真剣な、一世一代の誘惑だった。
オスカーはおまえにのぼせていると言ってくれるが、悠真は自分ばかりが夢中にさせられている気がしてならない。だから自分がどこまで彼を煽れるのか、後になって思い出して七転八倒する未来は覚悟の上で、試してみたかった。
オスカーのほうもその意図を察し、仕掛けられた勝負を愉しんでいる。恋人を甘く虐めて、口を割らせたらオスカーの勝ち。悠真は自分ばかり脳内ピンク色だと悔しがっているけれど、何のことはない。相手は相手で、身体だけでなく心も手に入った恋人に浮かれ気味なのだった。
「まだ、白状する気にならないか?」
「やだ。言わないもん……」
「おまえのここは、こんなに欲しがっているぞ……。言わねばずっとこのままだが、いいのか?」
「あなたこそ、このままで、いいの……?」
「何?」
悠真は顔を横に向け、ちろりと舌を出し、上唇を舐めた。……腰の奥が少し、ズグリと動いた。
「キス、して……」
「っ……!」
「あむ、……ふ……ン……」
オスカーの手が首から顎を支え、深く唇が重ねられた。舌と舌が絡まり合うたび、ぞくぞくと悠真の下腹部に震えが走る。
「ふあ、……はぁ、はぁ……うれし……」
「ユウマ……」
「あなたの、また、おっきくな……た……」
ぐ、と背後で喉奥を絞るような呻きが上がり、獣の唸りに似た吐息が首の後ろにかかった。
「ね、オスカー……僕のなか、欲しく、ない……?」
「こら。壊すぞ」
脅しながらも悠真の腹を、胸をまさぐり、背中をついばむように舐める。
(なんか、切羽詰まってきた? やった、もうちょっと……!)
喘ぎながら瞳を潤ませ、悠真は意識して胎の中に力を込めた。
近くに来た耳へ、毒をそそぐように吹き込む。
「ん、あ……ねえ、欲しい……僕は、欲しいよ……僕のなか、愛して、くれないの……?」
「――――――」
銀色にぎらつく目が、完全に据わった。
上半身を背中から抱え込んで押し付け、浮き上がった尻に密着させた腰を強く抉り込む。
「ひんっ!? あっ、いやっ、あっ、ふかっ!?」
「くっ、はっ、ふう……!」
「あぁっ、ふか、そんな、ふかいっ、いやぁっ!」
「煽るなと、言ったろうが……! くそっ、止まらん……知らんぞ……!」
「ひあんっ、いやっ、いやっ、あぁぁっ、……ゆる、ゆるしてぇっ、だめぇっ……」
「許さん、味わえ。望み通り、すべて、くれてやる……!」
「あぁあっ、おく、おくぅ……っ!」
初めてのシチュエーション、初めての体位に加え、悠真が煽るだけ煽ってしまったせいか、猛る雄は実際にいつもより奥まで突き刺していた。
もわりと撫でてゆく湯気にすら煽られ、浴室に荒い息遣いと嬌声が反響する。
設置された魔石から流れ出る湯は既に浴槽を一定量まで満たし、自然に止まっていた。その湯に肩まで浸かってくつろぐのは、もう少し後だ。
これ以上ない深みへ到達した先端から、たっぷりと熱が吐き出される。その衝撃で悠真の雄も白濁を噴いていた。達する瞬間に瞼の裏がチカチカと発光し、全身が陸にあがった魚のようにはねる。
「ぁ、ぁあ、あぅん……んぅ……」
後ろから抱きしめられて拘束され、逃げを打つこともできずに、どくどくと流し込まれる。悠真の瞳がトロリととろけ、両足の爪先が丸まった。
「ふ、はぁ……愛している……おかしくなりそうだ……」
耳元で囁かれ、悠真はふるりと震えた。その拍子に自分の先端から残滓が数滴飛んだのを自覚し、「ぼくだって」と涙目で恨み言を呟く。
そこを刺激されずとも、後ろに入れられた刺激で簡単に追い上げられてしまうし、勃つだけなら想像だけでいけるようになってしまった。
「ぼく、だって……ぼくの、ほうが、とっくに……ヘンだよ……」
「……いや。言い直す。とうに、おかしくなっていた。おまえが相手だと、どうにも、我慢がきかん」
「……異議あり。ぼくのが、先だって……」
「待て。だからな……」
またもや、犬も食わない戦いが始まったようだ。
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