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生きとし生ける者の世界へ
17. 第二夜*
しおりを挟む(……んんん? なんで僕、ベッドに寝て……)
後頭部には枕の感触。どうして自分はこんなところにいるんだろう?
テラスで朝ご飯を食べていたはずなのに、もしかしてあれは夢だった?
「起きたか」
「ひぇっ!?」
飛び跳ねそうになった悠真に既視感を覚えつつ、オスカーは分厚い書の表紙を閉じてサイドテーブルに置いた。
ソファから立ち上がり、少年の傍らに膝をついて額に手を当てる。
「頭痛やめまい、不快感は?」
「な、ないです。あの……」
「今朝のことは憶えているか?」
「今朝……あ!?」
思い出した。思い付きでジュースを冷やし、うまうまと飲み干した直後、頭蓋骨を直に揺さぶられるようなめまいと吐き気が押し寄せた。
オスカーによれば、まさかの急激な魔力減による体調不良とのこと。鏡の中では枯渇なんて縁はなく、生きているからこその体調不良だが、何の感動もなければ嬉しくもない。
「僕ひょっとして、あのまんま寝ちゃったんですか?」
「そうだ。私がおまえをここに運んだ」
「ごめんなさいいい~っ」
「謝ってばかりだな、おまえは」
「ううぅ……」
つまり、それだけやらかしが多過ぎるということだ。いったい今までこの人に対し、何度失礼や迷惑を重ねてきたのだろう。出会った日の土下座から数え始め、数えちゃダメだと強制終了した。
(バカだろ僕)
悠真は情けなさのあまり泣きたくなった。ベソをかいてばかりだと、それはそれで困らせてしまうので我慢したけれど。
ここはオスカーの寝室で、悠真は彼のベッドに寝ていた。せっかく起きたのに逆戻り、それに彼を付き合わせてしまったのも申し訳なさに拍車をかける。ベッド脇には一人掛けのソファ。まさかずっと読書をしながら付いてくれていたのだろうか。何の本だろう……。あいにくオスカーの身体でタイトルは見えなかった。
「空腹感は?」
「ないです……ええと、体調も悪い感じはしないです」
医師の診察のような問答をいくつか繰り返し、油断した悠真は緊張を忘れかけた。
が、毛布をめくられ、自分の足の両脇にオスカーの膝が沈み込んだ途端、一気に緊張感が復活する。
入浴の直後なのか、オスカーの纏っているガウンからは少し湿った熱気を感じる。そして悠真自身も、似たデザインの薄い肌着を身につけていた。
誰が服を脱がせ、これを着せてくれたんだろう。想像しかけて、すぐにそれどころではなくなった。オスカーが心許ない紐に手をかけ、ぱらりと解いてしまったのだ。
これからの行為を意識させるように、ことさらゆっくりと肌着の前がひらかれた。肌理の細かい裸体がオスカーの視線に晒され、カッと赤くなる。
「あ、あの……ひゃっ」
手の平が腹部に置かれた。そこからじんわり熱が浸透する。服越しに触れ合った時とは異なる感触だった。
「飲み食いしたものは残らず吸収されているようだ」
「?」
「腹の中に何も残っていない。あの量では微々たるものだが、すべて生命力と魔力に変換されている。これが永続的なものか、今だけなのかはまだ判断できんな」
「ぇ―――あっ、あっ……」
腹部に押し当てられていた手の平が、じっくりと肌をこすりながら胸元まで上がってきた。
熱い。それに、昨夜よりも、触れられている実感がある。
いつもは意識しない平らな胸のその部分が、期待するかのように色づいてツンと尖った。そこに期待通り親指の腹が押し当てられ、尖りを潰しながらクニクニと揉み始める。
そこから生じた間違えようのない性感に混乱し、悠真は必死で相手の胸に手を突いた。途端、びくりと手を離す。生身の肌の熱さ、命の脈動……火傷するかと思った。
「はっ、ぁ、……な、なんで、こんなっ……あうっ」
そんなとこ、触る必要あるの? 戸惑いながら懸命に目で問いかけるも、こんな時に限って答えてはくれない。
男の指が尻の窄まりへぬくりと入り込んできた。ほぼ抵抗感はなく、中指の根元まであっさりと埋まる。
そこまでは昨夜と同じ。けれど昨夜と違う点もあった。ひたすら熱の塊としか認識できなかったのが、指の形をしており、節もあると少しだけ感じ取れるようになっていた。
悠真は自分の変化に混乱し、埋め込まれた指の感触に混乱した。そこがそんな風に感じる場所なのか、こうなるのが普通のことなのかまるでわからない。指を動かされると、何かまずい場所があるのか、勝手に身体がはねた。身をよじって逃げたくなる。
けれど彼はそれを許さなかった。指を抜いて悠真の両足首を掴み引き戻すと、高く持ち上げながら左右にガパリとひらいてしまった。その間に下半身を入れて閉じられないようにしてしまい、再びつつましやかな胸の尖りを弄び始める。
「ぁ、んう、あ……や、や……」
たまらず悠真はビクリとのけぞり、その拍子に窓が視界に入った。群青から橙へ移り変わる、美しい空に。
―――月が。
後ろの入り口に灼熱の塊が押し当てられ、ズクンと腰が疼いた。
「~っ!! あっ、や、やだ! や、ぁあっ!!」
「ふ……少し、きつくなったか」
吐息と一緒に吹き込まれた言葉の意味を理解し、全身が沸騰するほどの羞恥に襲われた。最奥まで難なく埋め込まれた長大な熱の塊を、自分のそこがキュウキュウ締めあげ、吸い付いているのに気付いてしまったのだ。
まだ力は弱く、ぼんやりと曖昧な感覚でしかないけれど……
(ど、どうしよう。どうしよう。オスカーの、かたち、が……!)
形が、わかる。わかってしまう。
ぶわ、と涙が溢れた。
慌てたオスカーが痛みの有無を尋ね、しゃくりあげそうになりがら頭を横に振った。
「ち、ちがう…………でも……やさしく、して……」
「おまえっ…………煽るな……!」
煽る? そんなことしたっけ?
涙目できょとんとする少年に、オスカーはグッと喉を鳴らし、灰の瞳に銀色の光が瞬く。闇夜に潜む野生の獣を連想させ、恐ろしいのに悠真の胸は恐怖とは別種の感情で鼓動を速めていた。
けれどオスカーは瞼を閉じ、再び開けた時には残念ながらもうその光はなかった。額に浮かんだ汗だけが、その瞬間に押し殺した衝動の強さを物語っている。
オスカーのガウンも帯がほどけ、硬い筋肉があらわになっていた。どうやって鍛えているのだろう。引き締まった下腹部に、悠真の尻がぴったり接触している。膝裏を掴んでさらに両足を広げられ、わずかに浮き上がったせいで彼の根元部分が見えてしまい、腰の奥がズクリと疼く。
(僕……勃ってる……)
先端は乾いたまま。けれど、しっかりと芯が入っていた。あんな大きなものを、女の子のように後ろへ挿入されて、なのに苦痛も圧迫感もなく、勃ってしまっているなんて。
「あ、オスカー、オスカー、……ぁ、ぁあ、……あ……」
「ユウマ……」
「ひんっ……あっ、はんっ、……あ、あ……あぅ…………」
やさしくしてと願ったからか、オスカーは労るように緩慢な動きで腰を回した。ゆるゆると奥を抉り、内壁を優しくこね、悠真の名を呼びながら快楽だけを送り込む。そのたびに悠真の四肢は震え、指先まで痺れるほどの悦楽に溺れた。
久しぶりに反応している中心には一度も触れない。まだ機能が回復しきっていないのに中途半端に刺激を与えれば、ただの責め苦にしかならないからだ。
「オスカー、あ、ぼく、ぼく、へん……へんになる、やだ、……ぁ、ぬ、ぬいて、おねがっ……」
「ダメだ。待ったも無しも聞かん」
動きが変わった。叱るように奥をグッ、グッと力強く突き上げられ、悲鳴に近い嬌声が押し出された。力の入らない手は使い物にならず、唇を塞げずに恥ずかしい声が上がりっぱなしになる。射精できないまま、悠真は何度か達していた。
「つかまれ。出すぞ」
「っ、………………~~っっ!!」
抱きしめられ、反射的にその背中へ縋りついた瞬間、一番深いところで灼熱がはじけた。
凶悪なまでの魔力が悦楽とともに全身を駆け巡り、その暴威に耐え切れず、悠真の意識はふつりと途切れた。
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