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番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (4)
しおりを挟むいやいや、待ってくれたまえ。
俺は確かに欲望に弱い男だが、何も欲望だけで突っ走っているわけではない。
風呂の問題だけじゃなく、俺の家族にも彼らと会わせてあげたいな、とか思っているんだぞ?
だって絶対に魔法とか喜ぶだろう?
そんな俺の家族達は、俺とアレッシオが長めの外出予定を立てていたのもあって、この時期に合わせて予定を入れていた。
イレーネとシルヴィアは懇意にしている貴族の家へ泊まりに行っており、ラウルはその付き添いに。
ジルベルトとニコラは、ロッソ領の視察に行っている。
みんな日帰りでは行けない場所だから、戻ってくるのは数日後。
ユウマ殿とレムレス殿があちらの世界へ帰る直前、一日か二日ぐらいは、みんな一緒に揃った状態で話ができそうだ。
「オルフェオさんの家族って、継母さんと義弟さんと妹さんですよね? 天使っていう……」
「そうだ。百の言葉を語るより、本人達に会ってもらうのが一番だな」
ユウマ殿とは確実に仲良くなれるだろう。
レムレス殿のことは、彼らのミーハーな面が出れば近寄り難さなどたやすく凌駕してくれそうだ。
なので魔法の一個でも披露してもらえば、一発で打ち解けられると思っている。
いいよね、どうせ帰る直前なんだから、その頃には皆に話しちゃっても。
お客様に見せるのが風呂だけではもちろんあれなので、客室の内部をじっくり見てもらったあと、ロッソ本邸の中を案内してあげることにした。
まずは俺の日頃の行動範囲ぐらいだが、あちらの世界の建物とだいぶ違うので、結構面白かったらしい。
異世界の建築物ツアーだもんな。
俺もレムレス殿の城をユウマ殿に案内してもらった時は、かなり楽しかったし。
「高位貴族の館は基本的に、玄関から入るとこのように広い空間があり、向こうの奥に広間や食堂が繋がっている。階段から二階に上がれば当主一家のプライベートな部屋が、一階部分は使用人部屋や厨房などがある。王都邸も広さこそ違えど、配置はだいたい変わらんな」
「僕が前に見たあちらの貴族の館も、玄関から入ると広間が近いんですよ。これってお客様を招くことを想定したつくりなんですよね?」
「そうだな。我が家は人を呼ぶパーティーなど時々しかやらないんだが。普段は活用のタイミングが少なくとも、使うこともあるから必要ではある」
「そうなんですね。僕とオスカーが住んでいるお館、入り口から広間がちょっと遠いのは外からのお客様用じゃなく、ほぼ身内用だからなんです。リアムさんも招いてよくやるんですよ、宴会。その時は使用人のみんなも参加するから、大宴会になるんです」
「へえ……!」
それは見てみたかったな。主人と使用人がいっぱい集まって、無礼講の宴会か。
主人があのレムレス殿だと思うと、ますます楽しそうだな。ああ、だからリアム殿もいるのか。音頭取るのは絶対あの人だろ。
俺とユウマ殿が話している一方で、レムレス殿はアレッシオと話している。
「あちらとこちらでは近いものも多いが、違っている部分もやはり多いな。壁のタペストリーや絨毯も、模様の雰囲気がまるで違う。それに窓ガラスに窓枠、この壁も……技術だけを見れば、全体的にこちらのほうが水準が高い」
「あなたの館のガラスは凄まじいと思いましたけれど、一般に広まっていなければ無いのと変わらない、ということですか」
「そうなるな。あれは私個人の趣味の産物にすぎん」
「趣味……」
レムレス殿は異文化を楽しむだけでなく、建物の構造や使われている物質、材質なんかにもいたく興味を示していた。
今この瞬間に用紙とペンを渡せば、俺が何を頼まずとも何かを描き始めてくれるかもしれない。
……いかんな、こういう発想は。俺がよくラウルにやられていることではないか。
自分がされたら遠い目になってしまうようなことを、人にやってはいけないのである。
それにしてもわかってはいたけれど、このお客さん達二人、マジで目立つわ~。
上から下まで漆黒の装いのユウマ殿が、真っ白な子猫を抱っこしているのもなんか不思議な魅力があるし。
おまけにユウマ殿って、喋っている間は元気いっぱいで可愛いタイプなのに、口を閉じていると一気にミステリアスな雰囲気になるんだよな。本人そのつもりがなくとも、ひょっとしたらレムレス殿よりも近寄り難さが漂っているかもしれない。
精霊の寵児と、精霊本人の違いってやつかな?
だからといって、レムレス殿がユウマ殿よりも目立たない、なんてことはもちろんない。
むしろ目立ち具合ではこっちのほうが上だ。
まず上背があるし、顔立ちが綺麗すぎて迫力がある。
そして何といっても、髪が輝いている。
……言葉通りだ。比喩ではない。
基本的にレムレス殿の髪は灰色で、それをかなり長く伸ばしているんだが、これが時おり光ることがあるのだ。
移動の際、髪が揺れた拍子に光の加減で……というのでもなく、動いていなくとも時々、銀色っぽい光を帯びることがある。
念を入れてユウマ殿にも確認したら、実際に光っているのだそうだ。
髪の毛だけでなく、瞳も時々光るので、灰銀色に見えるのだとか。
ああ……うちの使用人達が、さりげにレムレス殿の髪に注目しております。今まさに光ってますもんね。
派手にパーッと光るのではないけれど、見間違いではなく発光しておりますから。
そういうのは、本人にはあまりコントロールできないらしい。ちょっと興奮状態になった時とかに、魔力が感情に呼応してああなるみたいなんで、「ごめんそれ消して」とは言えないのだ。
俺とアレッシオはもう見慣れてしまったけれど、初めて見るうちの使用人達はびっくりするわな。
「使用人部屋は完全に別棟になっている家もありますが、ロッソ邸では分離されていないのです。私は以前、王都邸のほうで執事として勤めていたのですが、ロッソ家は昔から使用人部屋がとても上等で暮らしやすいのですよ。これは家によって千差万別で、酷いところは本当に劣悪な環境だと聞きます」
「ふむ。あちらもそういうのはあるぞ? 執事であっても狭苦しい屋根裏部屋に住まわされ、給金もわずかしか出ず、食事も新人と変わらぬといった話を耳にしたことがある。衣食住を与えてやっているのだから奉公せよ、という主人の言い分でな」
「ああ、聞きますね。じめじめとした半地下に住まわされたりですとか……そのような家は給金もほぼないので、出ていきたくとも叶わず、働けなくなれば完全に詰んでしまうそうです。お仕えする家、とりわけ主人がどなたであるかは本当に重要な問題でした。運の要素が強いので、この家には感謝しかありません」
アレッシオとレムレス殿が、いつの間にやらなんか打ち解けている。
この二人が並ぶと迫力の暴力だ。
会話の内容は浮ついたところがなく、要は仕える家がここでよかったと言ってくれているみたいなので、主人としては面映ゆいな。
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