92 / 209
番外・後日談
7. 友の結婚、そして仲間に加わりそうな予感…
しおりを挟む五月。暖かさと涼しさが絶妙に調和する季節、ルドヴィクと王女様の結婚式が執り行われた。
代々の王族もそこで式を挙げてきた専用の会場は、あちらの世界の教会風の建物だ。夫婦が新たな人生を、互いへの誠実さを『天』に誓い合う。
ルドヴィカが教えてくれたんだが、王女様の『当日までお楽しみ』は大成功だったそうだ。ブーケを持って中央を歩く王女様、彼女に寄り添って歩くルドヴィク、どちらも誰が見ても演技ではないのがわかる幸せそうな笑顔だった。
ルドヴィクは公爵家の礼装を纏っている。濃い紫と黒の生地に銀糸の刺繍が施されていて、背中には公爵家の紋章。
花嫁のウエディングドレスは純白、古の女神をイメージした民族衣装っぽいもので、ほぼ王女様自身がデザインしたと聞いている。
ルドヴィクの婚約者を賛美する噂は大量にあり、そういうのは単なる『お決まり』として話半分に聞かれることが多いけれど、「お美しい姫君」や「素晴らしいセンスの持ち主」という点は事実だと自ら証明したわけだ。つまり「賢い御方」というのの証明でもあるな。
お似合いの美男美女である。衣装も豪華だ。
しかし何より、二人とも心から浮かべているであろう最高の笑顔に勝るものはあるまい。
二人の仲睦まじい様子を眺めていると、こちらも嬉しい気持ちになるな。
俺が座っているのは友人席。そこにはイレーネ・ジルベルト・シルヴィアももちろんいる。
家格によって席順が厳格に決まっていて、ずっと背後の席にはラウルとニコラもいた。
―――残念ながら、アレッシオは招待されなかった。もしや俺との関係で引っかかったのかと思いきや、単純に会場のキャパの問題だった。
まず優先されるのが王族。公爵家の親戚のほとんどは王族である。
次に王女様のお身内が何名か。こちらも当然、エテルニア王国の王族だ。
そして新郎が仕事をしていればその関係者、重要な地位にいる者。
最後に友人……という優先順位になる。
友人は通常、その本人だけが出席するもので、一家全員が招待されているのは俺んちだけ。だって家族ぐるみで親しくしているからね。
さらに今回、不遇の立場に落とされながら名誉を回復できた人々が何人も招待されていた。これはルドヴィクの意向ではなく、国王陛下からの指示だ。
不吉な出来事や悲しみの記憶を慶事で洗い流すというのはよくあることで、ルドヴィクと王女様にも否やはなかった。
ただし、それがあって招待枠がキリギリになった。
ただでさえルドヴィクは、元クラスメイト全員を招待しているのである。これは過去に例のないことなんだそうだ。
学生時代の友人なんて、特に親しい数名か、そもそも呼ばない者だっている。招待客リストを作製した時、担当者に「全員って、全員?」みたいな顔をされたそうだ。
俺らのクラス、みんな仲良かったからねえ。それにさ、考えてみれば俺を含めて、みんな『ヴィオレット兄妹の初めての友達』なんだよ。
今だって連絡を取り合っているし、そりゃ呼びたいわな。
でもな……会場には、収容できる最大人数ってものがあるんだよ。
「一人としてリストから外させはせんぞ」と、かなりの無理を通して席を増やし、なんとか全員呼ぶことができたらしい。
そんなわけで友人席は、微妙にさりげなくキッツキツ。欠席者ゼロだよ、素晴らしい。
国内で最大規模の結婚式場、サクラを雇って空席を埋めなきゃ、なんて心配が無用なんだからいいことだよね。王様だって、余裕があると見越して招待客を追加させたんだろうし。
蓋を開ければ、自分の指示が席を圧迫するなんて思わなかったんだろうな。
「お二人とも素敵……!」
「ヴィク兄様があんなに嬉しそうなお顔をするなんて滅多にないよね」
シルヴィアとジルベルトが小声で囁き合っている。
イレーネは少し懐かしそうだ。元夫とのささやかな式を思い出しているのかもしれない。それから子供達を見て、ほんのり幸せそうな微笑を浮かべていた。
周りの友人席からも、腹の探り合いも何もない、友を祝福する囁きばかりが漏れ聞こえてきた。声だけで皆も笑顔なのがわかるね。
この先何があったとしても、この日が二人を支えてくれるだろう。そう確信できる、本当に良い結婚式だった。
「声をかけてくるのは友人だけだったし、あまり時間は取れなかったが、二人に直接祝いも言えた。思ったより気楽で楽しかったかもしれない」
「それはようございました」
夜、長椅子でクテンと横になった俺に「だらしないですよ」と本気で叱るでもない口調で注意しつつ、アレッシオは言った。
夕食もあちらで食べて来たよ。うまかった。俺が特に気に入ったのは白身魚の蒸し料理。バター風味強めのホワイトソースが絶品でさ~。
腹の上で香箱座りをしている子猫が、『魚』の部分で耳をピクリと動かした。エルメリンダやほかのメイドもいるから普通の子猫のフリをしているんじゃなく、留守番中にたっぷり遊んでもらったから眠いんだな。
先日俺に感謝を伝えたいと言ってきていたボルド伯とメロー伯も、ちらちら俺のほうに視線をよこしつつ、でもちゃんとおとなしくしてくれていた。会場の警備をしている騎士が彼らを見ていて、あとで教えてくれたんだよ。
ヒートしていた頭が多少は冷めたろうし、爺さん達も有望な息子達もいるから、今後あの二家が問題行動を起こすことはないだろうな。
「あたしもお式、お祝いしたかったですねえ。先ほどお嬢様も仰ってましたよ、『とっても素敵なお式だったわ! 私もラウル兄様とあんな風にお式を挙げるのかしら?』って」
クリティカルヒット! 俺は行動不能に陥った! 立ち直れない!
片腕が長椅子からダラリとぶら下がり、半眼になって天井を見上げた……。
「もしもあのお二人にお嬢様がお生まれになったら、閣下のようになるかもしれませんね」
アレッシオが苦笑し、フォローなんだかトドメなんだか微妙なことを言った。
俺のよう、か……。
……なりそうだな、ルドヴィク。子煩悩に。
だって公爵閣下自体が相当な子煩悩だもんよ。そして娘には激甘だ。
その愛情を真正面から受け止め、背中も見て育ってきたルドヴィクだ。実子だろうが養子だろうが、我が子という存在ができれば子煩悩パパになる姿が容易に想像できる。
俺はゆるりと顔をめぐらせ、壁の額縁に目をやった。
そこにあるのは、一枚の手巾だ。
シルヴィアからのプレゼント。
それをそこへ飾るに至るまで、護衛騎士や側近、特にラウルも巻き込んで、紆余曲折があったりなかったり……。
俺は遠い目で思い返した。
4,393
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。