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蜘蛛の処刑台

126. 刈りの時が来る -sideフェランド

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 あの男ならやりかねない。いつかやるだろうと思った。
 ふざけたささやきが耳に入る中、清潔で広々とした貴族牢ではなく、重犯罪者用の地下牢へ放り込まれた。

 暗く異臭がし、気の滅入る薄汚い場所。
 自分がこのようなところにいていいはずがない。ここは自分に相応しい場所ではない。
 どうせすぐに出られる……。
 そうしたら、あの者どもすべてに思い知らせてくれる。

 初日は怒りで目が冴え、牢の中をウロウロ落ち着かずに歩いていたが、一日、二日と経てば眠気が強くなってきた。
 これが寝台なのか。吐き捨てながら硬い寝床に横になり、イライラしながら目を閉じた。

 そうして、どのぐらい経ったのだろうか。
 鳥がけたたましく鳴きさざめく声が聞こえ、ふと目を開けた。
 暗い。
 寝室ではない。
 それに背中が、やけに硬い。
 やがて自分がどこにいるのか、徐々に思い出した。

 顔をしかめながら上半身を起こし、ぎょっと目をみはった。
 牢の外側、数歩ほど向こうに、古びてきしみそうな机と椅子がある。壁のくぼみにはめ込んだ一本の蝋燭がゆらゆらと照らし、その影が浮き上がっていた。
 あんなもの、そこにあったか?
 異様なのは、椅子に座っている影だ。
 黒い煙が人の形を取ったような、人とそっくりの人形が燃えて焦げたような、不気味な

『ひっひ……目ェ覚めたかよ』

 こちらを向いて、喋った。
 やすりでザリザリ削るような、不快なしゃがれ声だった。

「なっ、き、きさま、何者だ!?」

 まさかそんなものが動いて口をきくとは思わず、声が上ずる。

『ひひ。ちょおっとばかし、オイタが過ぎちまってナァ……暗ぁいところへ落とされちまったのよ……そんで今はここのお役目を仰せつかってんだワ。ひひ。まぁ、俺のことなんざ、どうでもいいだろ……自分の身を心配したほうがいいぞぉ……?』

「な、なんだと?」

 黒い人型のかたまりがニタリ、と嗤った。
 椅子から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。不自然なぎこちない動きだ。
 後退り―――かかとが何かに引っかかって、したたかに尻餅をついた。

……ひっ!?」

 は等間隔に並ぶ金属の棒を、ぞろり、とすり抜けて入ってきた。
 これは何だ。何者だ。限界まで目を見開き、陸に放り出された魚のようにはくはくと口を開閉する。
 相手の恐怖をたっぷり引き出して満足したのか、はぎこちない動作でしゃがみ、不気味なしゃがれ声で、小さな子に言い聞かせるように優しく語りかけた。

から、変更の要求があったんだとよ……』

「……変、更……?」

『契約のだよォ……納得いかねェってさァ……くはは……』


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