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甘く誘う悪魔
106. その日のための大事なレッスン*
しおりを挟むすう、とアレッシオの目の色が変わった。
あ、やべ? と思ったが後の祭り。
何年も一緒にいれば、それなりに表情の変化には敏感になる。
だけど「まずい」と察しても、何がまずかったのかわかんないところが俺のダメクオリティだ。
おもむろに椅子から立ち上がり、何を考えているかまったく読めない薄寒い笑顔を乗せて、アレッシオが歩いてくる。
あ、なんか、動けないです……。
気分は猛獣に睨まれて硬直した草食動物。アレッシオはそんな俺の両脇を抱え、立たせた。
「……背が高くなりましたね」
「そ、うだな……」
昔はもっと小さかったもんな。それでも見上げるぐらいおまえのほうが大きいけど。見おろされたままギュ、と背と腰を抱かれ、ドキドキする。
いい香りだ。彼がほんの少しつけているのは、《セグレート》のコロン。
絶対、絶対、アレッシオに合う! と思ってこれもプレゼントしたかったのに、先に買われちゃっててさ…………あ、顔が近付いてくる。キス、されるのかな……。
しっとりと唇が重なってきた。もう何度もされているから、唇を少し開けて待っていると、遠慮なく舌が入ってくる。うっとりと瞼を閉じ―――
「……んう!? ん、んんっ……ふぁっ、や、何をっ……!?」
腰を支えていた腕が下がり、長い指が俺のズボンの後ろの谷間をなぞって、その部分を押し上げてきた。
布越しに、ちょうどその部分……孔のあるところへ中指を食い込ませ、ぐ、ぐ、と……。
閉じかけた目を見開いて顔を離したら、互いの唇から糸が引いてカッと赤面した。しかも、表情は冷静なのに瞳の奥がギラついているアレッシオは、見せつけるようにペロリと唇を舐めた。
あの舌がさっきまで、俺の口の中に……。
「約束。お忘れではないでしょうね?」
約束。この状況で、約束とは、つまりあれしかない。
「お、憶えてる、憶えているとも! だけど、その、まだ」
「四月一日。その日が来れば、あなたのすべてをいただけるのですよね?」
俺はコクコクと頷いた。それはもう必死で。そうしないと、このまま喰い荒らされそうな予感しかしない。
なのにアレッシオの指は、いまだに後ろの孔のある部分をすりすりとなぞっている。その腕も、背に回された腕も、がっちりとしてビクともしない。
「だめ、だ、アレッシオ……」
「ええ、わかっていますよ。何年も耐えに耐えたのですから、その日まで我慢します。ですがね」
「ひぅ!?」
我慢すると優しげに言いながら、中指が容赦なく後ろに食い込んできた。布越しでも入ってきそうな感覚にゾワリと震え、つま先立ちになった瞬間、それを見越したアレッシオが前を密着させてきた。
俺のそこと、彼のそこが重ねられ、軽く揺らされる。
「ぁ、うぁ……」
俺達のそこは、元気いっぱいに成長していた。
というか、アレッシオの。
「お……おおきい……」
なんてもんじゃない。
で か い ……。
「まぁ体格なりのものですから、まだ大きくなりますよ。それをあなたの、ここに入れるんです」
「ひ!?」
「入れますから」
とても大事なことを二度言われてしまった!?
「おわかりの通り、簡単には入りません。だからといって当日、入りそうにないからやめておこう、なんて冗談ではないのですよ。中途半端で逃がしはしませんからね。延期を承諾する時にも、手加減はなしと申し上げたでしょう? 絶対に入れます」
容赦なく三度目の念押しをされてしまった……!!
というか延期の約束、よくよく思い返せば手加減が少なめになるっていう話であって、ゼロではなかったんじゃないかな!? なんて指摘させてもらえそうな空気がゼロだ……!
「ですから、慣らします。ちゃんと丁寧にほぐして、あなたが苦痛の欠片も感じることなく入るようにしてあげますから。大丈夫。気持ちのいいことしかしませんよ」
指を後ろに圧し当てたまま、悪魔が甘い甘い声を鼓膜に吹き込んできた……。
「い、今、から?」
「今からです」
「いやでも、四月まで、まだ日が……」
「それが何か?」
にっこり。
「今欲しいものをくれるんでしょう?」
「……、…………」
■ ■ ■
今日は練習ですから、入り口を触るだけですよ。
絶対にそれは信用しちゃいけない甘言だと思ったんだ。
「ひっ、んう、んっ、んっ……」
「ほら、掴まってください。大丈夫、怖いことなんて何もありませんから」
怖いやつはみんなそう言うんだ!!
手際よくポイポイっと脱がされたズボンとパンツが、どこへ消えたかは知らない。
俺は彼のベッドに押し倒されていた。香油を纏った指が、俺の後孔の入り口をぬるぬるとなぞっている。
最初は香油を塗り込むように揉むだけだった。最初は。
けれど次第にそこがほころんだのか、時々、つぷりと新たなぬるつきを足して、指先がもぐりこんでくる。一つめの関節が引っかかる、ごく浅いところまで。
入り口ってそういうことか。そこまでが入り口なのか。騙された。
しかも、アレッシオは前をくつろげて、すっかり勃ちあがった俺のそこを、彼のそれで擦ってきた。
巨きなそれの先端が、俺の裏筋をつつう、となぞりながら上下するたび、口からとんでもない声が出てしまう。恥ずかしくて塞ごうとしても、彼はそれを邪魔して、「掴まってください」なんていかにも優しげに言いながら、俺の手を外して自分の背に回させてしまった。
「ぁ、あ、やだ、あっ……あーっ……」
ぬくり、と指がまた埋め込まれ、入り口の部分をぐりぐりとかき回された。
痛みはないが、違和感に跳ねて逃げようとする腰を捕まえられ、くすぐる程度に触れていた前が、今度はしっかりと密着してきた。
俺と彼のものが互いの下腹部の間で重なり、そのまま腰を上下に揺らされる。後ろと前を同時に揉みこまれる刺激に涙をこぼしながら、俺はあっさりと達してしまっていた。
「……は、ぁ……はあ、はぁ……」
「ふ……可愛い。気持ちが良かったでしょう……?」
「ううぅ……」
最近、そういえばしばらく、出してなかったんだけども。
自分の先端からとぷりと、紛れもない快感の証拠が伝っているのを見せつけられて、恥ずかしいなんてもんじゃない……!
しかも、アレッシオのそれ、まだ臨戦態勢だし。ところであの、それがMAXですよね……? 俺はまだ本気を出してないだけとか言いませんよね?
「もう少し練習しましょうか」
「んむっ」
俺の口を口で塞ぎ、アレッシオは反論を封じた。ぬちぬちと揉みこまれる音と感触に、また新しい涙をこぼしながら、俺はひたすら溺れ続けるしかなかった……。
ところでさ。
これ、もう充分に、あれじゃないの?
俺の認識がおかしい?
ちょっと待って?
慣らすだけって言ったのに。なんかそれ以上のことをたっぷり、みっちりされてしまった気がするんだけど。気のせい? 俺が無知なだけ?
世の中ではこれ、前戯っていうの?
アレッシオの言う、大本番がなければいいのか?
訊きたいけれど訊けない……。
「次は、ちゃんと指が一本入るところまで頑張りましょうね」
再びあっさり追い上げられ、二度目の吐精に放心する俺の耳に、甘い甘い声が宣告した。
ゆび。いっぽんいれたよね。
これ、かずに、はいらないの……?
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