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ロッソを継ぐ者

96. たのしい晩ゴハンと厨房のお掃除

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 いつも読みに来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございますm(_ _m)
 誤字脱字・訂正報告なども非常に助かっております!

 毎日3話更新しておりますが、変なところで切ることになりそうだったので、本日はキリのいい内容の2話更新としました。
 20時前には投稿予定ですので、よろしくお願いいたします。


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 お互い、打ち明ける前に家族に見透かされていた息子の気まずさを抱えつつ、荷物を片付けておこうとなった。俺達は引っ越ししたてなんだから、まずはそちらが先だな。

「専属でつけて欲しい使用人はいるか?」
「私は現時点で不要です。ニコラ様とラウル様も、今後必要になればその時にお願いすると思いますよ」
「わかった。では、後でな」

 おとなしくこれから住む部屋に戻り、頭をガシガシかきまぜた。
 アレッシオも気まずそうだったけれど、俺だって気まずいよ。だって、俺の過去の行状を振り返るとさ……あなたの息子さんに媚薬盛って襲わせようとしましたなんて言えないじゃん?

「まあ、変態認定されるわな」

 子猫が俺のつま先にじゃれつきながら言った。
 その通りだ子猫よ。危険物扱いだよ。あのブルーノ父からゴミを見るような目で見下されるなんて耐えられない……!

 若気の至りに時間差攻撃を食らっております、オルフェオくん十六歳です。
 真面目に引っ越し荷物をチェックしていると、エルメリンダとミラが挨拶回りを終えて部屋にやってきたので、旅の汚れを落とすついでに煩悩ぼんのうも落とせないかなと、お風呂に入っちゃおうと思います……。
 俺は立場が昔より偉くなったから、絶対に誰もいない時に風呂に入ったらいけないんだよ。転倒したり湯船で気絶した場合に気付いてもらうのが遅れるからね。

 衝立ついたての向こうで服を脱ぎ落とし、風呂で温まって汚れを落として、残念ながら変態菌はしつこくて落とせなかったんだけれど、のぼせない程度の時間で上がった。
 脱いだ服は消え、籠の中にはバスタオルが用意されている。本当にこれを作ってよかった。風呂上がりの支度が以前より格段に楽になった。

 貴族によっては着替えのすべてを使用人にやらせる強者もいるけれど、俺は自力で着替えられない服だけは断じて嫌だと主張している。特別な衣装の時はさすがに手を借りるけれど、こんな歳になってまで妙齢の女性に、日々の着替えを一から手伝わせたくない。
 衝立ついたてのこちら側に衣装台が置かれ、本日の晩餐用の正装が並べられていた。下着に肌着と、順番通りに来ていけばOKだ。ひととおり着込んだら、シワがよっていないか、糸が出ていないか等を専属メイド二人がチェックし、クラバットを巻き直したり、髪の手入れをしてくれたりする。

 エルメリンダとミラは、俺の入浴中に引っ越し荷物の残りをあるべき場所へ配置してくれていた。ほとんどは本邸のメイドが置いてくれていたけれど、知らなければどこへ置けばいいのかわからない荷物も結構あったからね。蜂蜜の小瓶なんて、普通ならソファに囲まれたローテーブルの上か、その近くの棚の辺りに置きそうなものなのに、俺はいつも事務机の上に置いているし。
 あと子猫用ベッドの場所だ。

「どこへ置いてもらいたい?」
「ん~、あそこがいいな」

 ソファの上ね。了解。
 二人の視線がとても温かい。彼女らには子猫の言葉が「み~」とか「みゅ~」にしか聞こえないらしいのに、会話が成立していても不審に思われないのはなんでだろうね。

 今夜は本邸初日の夜なので、正式なディナーだ。ちょうどいい頃に従僕が呼びに来て、廊下に出れば側近達も全員が揃っていた。全員が正装だと迫力が倍増だな。
 アレッシオの正装姿……スクリーンショット機能の実装はいつですか……やはり俺の煩悩ぼんのうは風呂ぐらいでは落とせなかったようだ。

 男性陣が全員食堂に揃い、ややして女性二人が登場した。イレーネはもちろん美しいし、シルヴィアも可愛い。ジルベルトがいなくて寂しがるかと思ったけれど、『兄』がいつもより多いので今のところは楽しそうだ。
 今回は客人の貴族として、アレッシオとニコラとラウルも座ってもらう。の心づくしのディナーが運ばれ、見た目はもちろん食感や味も最高だった。

「やはりおまえのパイは美味い」

 俺は新しい料理長を褒めた。

「本当ですこと。表面はさっくりしているのに、中はやわらかくて……」
「シシィもこのパイすきです! まえのはどうしてもグシャってなって切れなかったの」

 この場には料理人、全員を呼んである。
 王都から連れて来た料理人は皆ニコニコと喜び、本邸の元料理長とその子分達は青ざめ、中には新料理長を憎々しげに睨みつける者もいた。

「シシィは以前の料理、食べにくかったのか?」
「かたいっていうと、『こういうおりょうりなんですよ』って言われました。うばやがもうちょっとやわらかくしてっておねがいするんだけれど、兄さまたちはこれでもちゃんとおたべになってましたよって……」
「そうか」
「いえ、あの、坊ちゃま。おそらくお嬢様は、お記憶違いをなさっているんだと思います。決してそのようなことは……」
「黙れ。と妹君がお話し中だ。誰がきさまに発言を許した」

 手もみをしながらヘラヘラ割り込んできた元料理長に、厳しい声を発したのは護衛騎士だ。
 元料理長は「ヒッ」と後退り、子分達もますます顔色を悪くした。強そうな相手には途端に弱腰になるんだよな、こいつら。

「ブルーノさん。閣下が現在、どのようなお立場でいらっしゃるのか、こちらの方々には伝わっていないのでしょうか」

 ニコラが最近習得しつつある冷徹モードを披露した。なかなか堂に入っている。

「いいえ、ヴェルデ様。ロッソ邸の使用人すべて、閣下のお立場についてはしっかりと学ばせております」

 にこやかに答えるブルーノ父もさすがだ。
 元料理長は自分の発言に嫌味を含めることが多いだけあって、人の言葉の含みにもすぐ気付いたようだ。

『知らぬ者はロッソの使用人ではない』

 そういうことだ。
 小さい子に嫌がらせをしてほくそ笑む、相変わらずな性根が気に入らない。皆が俺を『若』と呼び始めてからも坊ちゃま呼びを継続し、未だそれを改めずとも許されると甘く見ていた点もな。
 俺はこいつやこいつの子分が作った料理なんぞ、決して口につけるものか。

「あのっ、お待ちをっ! ぼっちゃ、いえ、閣下!」

 従僕がわらわらと集まり、この場に相応しからぬ者達を食堂から引きずり出していった。
 俺は奴らとただの一度も視線を合わせず、一言も口をきかなかった。誰よりも優雅に、美しく、気品に満ちていると称賛される角度―――これらすべてはもう、意識するまでもなく出せる。
 俺はただ、目の前の美味しい料理を堪能すればいい。それこそが奴らのダメージになる。
 イレーネが「ふふ」とスッキリした笑顔を浮かべた。

「ジルに楽しい報告ができそうだわ」

 それはよかった。シルヴィアは俺の作法を見て、必死で真似ようと頑張っている。可愛いな。
 あー、メシがうま。



 素晴らしい晩餐を終え、俺は実に気分よく部屋に戻った。
 俺の部屋の前で見張りの騎士が一礼し、扉を開けてくれる。アレッシオが俺の後から入室し、同時にエルメリンダとミラはさりげなく姿を消していた。
 着々と環境が整っている……何のとは言わないが……。

「ご入浴は?」
「一度入ったし、食べたばかりだし、今夜はもういい」

 やや行儀悪くボスンとソファに腰を落とし、子猫の頭をなでなでする。俺の頭から食堂での出来事を読み取ったか、子猫の瞳が愉快そうにキラキラしていた。
 こういう『土産話』、これからまだ聞かせてやる機会があると思うから楽しみにしておいてくれ。

 食後の妹の様子を思い出して笑みが浮かんだ。美味しいものを食べておなかいっぱいになると、どうしても眠くなってしまうんだよな。今夜は頑張って起きて、俺達との会話を長く楽しむんだと気合を入れていたのに、やっぱり瞼が落ちかけていた。

「ご立派でした。正確な噂を明日の朝にはラウル様が流す予定です。もっとも、こちらの使用人が自主的に広めてくれそうですが」

 極悪非道の新領主に追い出されたとか被害者ぶりそうだからな、あいつら。そうはいくかっての。

「幼い頃からさんざん舐めた真似をしてきた私相手に、今からどうやって媚びを売ろうか必死で頭を絞ろうとしていたようだがな。どうせ何もできやしないと見下していた子供が、自分達を排除できる力を得て戻って来る。ここしばらく、生きた心地がしなかったろうよ」 

 放置していれば自滅して消える予定の奴らだったが、フェランドがああなった以上、しぶとく居座るかもしれなかった。
 あんなのにいつまでもでかいツラをさせてやる気はなかったので、今回、退場してもらうことにしたわけだ。

「格好よかったですよ」
「そうか?」
「ええ、とても」

 格好いいのはおまえだろう―――なんて返しかけたら、アレッシオが近付いてきて……ソファが、ぎしりと……。
 あ……。

「あなたに見惚れて、触れたくなって、困りました」

 俺の背の両脇に手が置かれ、片膝が腰の横に沈み込んだ。


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