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番外編(1,2話のベネ視点)
4.王太子との別れ(完)
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「戦場へは行くな。俺の婚約者なら俺のそばにいろ」
絡め手が不発に終わったマーカスは、ストレートに引き止める作戦に出たようだ。
私は戦地へ出立することが決まった。だが、それが婚約者であるマーカスの耳に入るのも当然のことだった。
ただ、私の意志が固いと知ると、周りから落とすために裏工作を始めたようで、直接の接触は減った。
とはいえ、私は周りからの説得にも応じるつもりはない。
学園に残れば最後、BLゲームのシナリオ通りに悪役令息の道を進んでしまう。
『騎士コース』に転属することで主人公様との接触を減らしたつもりだったが、結局変わらず向こうからの体当たりが続いている。
そしてイケメンボーイズ攻略中のピンク髪がチラチラ見えるたびに、渋い気持ちになってしまう。
どうやらハーレムルートを目指すつもりらしい。
マーカスとパトリックから逃げ回っていた私だが、結局、学園を出る前夜になってマーカスの自室へ呼び出された。
(これが、マーカスと顔を合わせる最後かもしれない)
そう思うと応じずにはいられなかった。
ソファに座った私の腕を掴むマーカスは真剣そのものだ。
その緑の目は真摯で、これから浮気する男とは思えない。それも私とは真逆の系統のタヌキ顔に。
私はどちらかというとキツネ顔で、それを考えるとマーカスの守備範囲は広いな、と考えてしまう。それともまさか、性欲を満たせるなら誰でも良いクズ男なのか?
「おい……なにか答えてくれ。なぜそんな目で俺を見る」
いささか軽蔑の目で見てしまったことを悟られた。私も憶測でマーカスを判断するのはいけないことだ。
「婚約者などと……私ではない人がその心にいるんじゃないですか? この前、パトリックと抱き合っているところを見ました」
「あぁ……、あれは倒れそうなところを支えただけだ。やましい関係ではない」
そう言いながらも、遠い目をしたマーカスは頰を染めている。
どう見ても補正力が働いているようにしか見えない。
「あれは、面白いやつだな。平民育ちのせいか発想が柔軟で、新しい発見がある。俺の王太子という身分にも臆せずに物をいうのも小気味いい」
それは前世で言う、「おもしれー女」ってやつじゃないか。
あらゆる男女にモテているイケメンになびかないがゆえに面白がられて恋される系のやつ。
すでに攻略ルートに乗ってしまっている時にでるセリフでは?
再び軽蔑の目で見てしまった。
「だが、俺の婚約者はベネだ。いつ死ぬかわからないような戦場に送り出すことはできない!」
熱く引き止められるほどに、心が冷める。
それもこれものちの婚約破棄エンドのための補正力ではないかと考えてしまう。
今世のマーカスは優しい人だ。私に気づかってくれるし、優しく接してくれる。その姿を思い出すと今の彼の言葉は私への優しさなのだと思うが……。
前世のBLゲームの知識と今世の記憶がせめぎ合い、私は混乱する。
「……私は、もう決めたのです。マーカスに何を言われようとも翻すことはない」
「なぜそんなに頑ななんだ」
マーカスがソファに座る私の肩を掴んだ。上から見下ろすマーカスの目が険悪な闇で満ちている。
「戦場では綺麗な男は慰みものになるらしいな。どうしても戦場に行くというのなら、おまえの処女を散らしてやる。それが俺の情けだ」
マーカスに噛み付くようなキスをされた。ソファの上に押し倒され、胸元のブラウスのボタンをむしるようにはだけられる。
こんな乱暴な行為は初めてだった。
私の同意を得ずに、自分の意のままにしようとするなんて。
「マーカス!」
拒絶しようとしたが、ふと脳裏をよぎる。
私は何をそんなに怖がっていたのか。今まではマーカスの婚約者になりたかったから、綺麗なままの体を貫いていた。
でも、これから戦場にいく。
いつ死ぬかもわからない戦場に。
「マーカス……戦場で死ぬ前に、私に餞別をくださるんですね。あなたは優しい人です。その餞別があなたの心の傷にならないよう、願っています」
マーカスが驚いたように私をみた。
「ちがう……おれは……ただ、おまえを戦場に行かせたくなかっただけで……」
「あなたにどうされようとも、私は戦場へ行きます」
マーカスが私の上からおりた。どうやら、興がそがれたようだ。
寂しいような、安堵したような気持ちになる。
私はソファから立ち上がって一礼すると部屋の扉へ向かった。
「………………死ぬな」
優しいマーカスの言葉を背にして、私は部屋を出た。
その翌日、私は学園を発った。
END
絡め手が不発に終わったマーカスは、ストレートに引き止める作戦に出たようだ。
私は戦地へ出立することが決まった。だが、それが婚約者であるマーカスの耳に入るのも当然のことだった。
ただ、私の意志が固いと知ると、周りから落とすために裏工作を始めたようで、直接の接触は減った。
とはいえ、私は周りからの説得にも応じるつもりはない。
学園に残れば最後、BLゲームのシナリオ通りに悪役令息の道を進んでしまう。
『騎士コース』に転属することで主人公様との接触を減らしたつもりだったが、結局変わらず向こうからの体当たりが続いている。
そしてイケメンボーイズ攻略中のピンク髪がチラチラ見えるたびに、渋い気持ちになってしまう。
どうやらハーレムルートを目指すつもりらしい。
マーカスとパトリックから逃げ回っていた私だが、結局、学園を出る前夜になってマーカスの自室へ呼び出された。
(これが、マーカスと顔を合わせる最後かもしれない)
そう思うと応じずにはいられなかった。
ソファに座った私の腕を掴むマーカスは真剣そのものだ。
その緑の目は真摯で、これから浮気する男とは思えない。それも私とは真逆の系統のタヌキ顔に。
私はどちらかというとキツネ顔で、それを考えるとマーカスの守備範囲は広いな、と考えてしまう。それともまさか、性欲を満たせるなら誰でも良いクズ男なのか?
「おい……なにか答えてくれ。なぜそんな目で俺を見る」
いささか軽蔑の目で見てしまったことを悟られた。私も憶測でマーカスを判断するのはいけないことだ。
「婚約者などと……私ではない人がその心にいるんじゃないですか? この前、パトリックと抱き合っているところを見ました」
「あぁ……、あれは倒れそうなところを支えただけだ。やましい関係ではない」
そう言いながらも、遠い目をしたマーカスは頰を染めている。
どう見ても補正力が働いているようにしか見えない。
「あれは、面白いやつだな。平民育ちのせいか発想が柔軟で、新しい発見がある。俺の王太子という身分にも臆せずに物をいうのも小気味いい」
それは前世で言う、「おもしれー女」ってやつじゃないか。
あらゆる男女にモテているイケメンになびかないがゆえに面白がられて恋される系のやつ。
すでに攻略ルートに乗ってしまっている時にでるセリフでは?
再び軽蔑の目で見てしまった。
「だが、俺の婚約者はベネだ。いつ死ぬかわからないような戦場に送り出すことはできない!」
熱く引き止められるほどに、心が冷める。
それもこれものちの婚約破棄エンドのための補正力ではないかと考えてしまう。
今世のマーカスは優しい人だ。私に気づかってくれるし、優しく接してくれる。その姿を思い出すと今の彼の言葉は私への優しさなのだと思うが……。
前世のBLゲームの知識と今世の記憶がせめぎ合い、私は混乱する。
「……私は、もう決めたのです。マーカスに何を言われようとも翻すことはない」
「なぜそんなに頑ななんだ」
マーカスがソファに座る私の肩を掴んだ。上から見下ろすマーカスの目が険悪な闇で満ちている。
「戦場では綺麗な男は慰みものになるらしいな。どうしても戦場に行くというのなら、おまえの処女を散らしてやる。それが俺の情けだ」
マーカスに噛み付くようなキスをされた。ソファの上に押し倒され、胸元のブラウスのボタンをむしるようにはだけられる。
こんな乱暴な行為は初めてだった。
私の同意を得ずに、自分の意のままにしようとするなんて。
「マーカス!」
拒絶しようとしたが、ふと脳裏をよぎる。
私は何をそんなに怖がっていたのか。今まではマーカスの婚約者になりたかったから、綺麗なままの体を貫いていた。
でも、これから戦場にいく。
いつ死ぬかもわからない戦場に。
「マーカス……戦場で死ぬ前に、私に餞別をくださるんですね。あなたは優しい人です。その餞別があなたの心の傷にならないよう、願っています」
マーカスが驚いたように私をみた。
「ちがう……おれは……ただ、おまえを戦場に行かせたくなかっただけで……」
「あなたにどうされようとも、私は戦場へ行きます」
マーカスが私の上からおりた。どうやら、興がそがれたようだ。
寂しいような、安堵したような気持ちになる。
私はソファから立ち上がって一礼すると部屋の扉へ向かった。
「………………死ぬな」
優しいマーカスの言葉を背にして、私は部屋を出た。
その翌日、私は学園を発った。
END
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