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番外編(1,2話のベネ視点)
3.王太子は勘違いされる
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前世の記憶がよみがえってから、見るたびに渋い気持ちになることがある。
学園にいる一目置かれた存在について、だ。
良い意味で注目を集める存在と、悪い意味で注目を集める存在がいる。ただ、誰もが種類の違うイケメン揃いだ。つまりBLゲームの攻略対象者だ。
今世の記憶だけなら、特に人の美醜に興味のなかった私にとっては「ふ~ん」という感想しかなかった。
前世の記憶を合わせると「さすが、女受けするイケメンを豊富に取り揃えてんだな」と思ってしまう。おっと、前世の口調が漏れてしまった。
前世の記憶を基準にすると、この世界は美男美女率が高いと思う。ヨーロッパ基準の容姿と考えてもそれを上回る美男美女率だ。
ただ、攻略対象者はその基準をさらに引き上げる美男揃いである。あらためて見ると、攻略対象者だけが浮き上がって見えるほどだ。
BLゲームの世界なんだから当たり前か。
そのひとりであるレイモンドにしごかれながら、私は『騎士コース』で筋トレ中だ。
「ベネ様は魔法適正が高く、魔法操作も柔軟なのであえて魔法の勉強は必要ありませんが、根本的に体力がありませんね……。魔法士になるにしても王妃になるにしても、もう少し体力と筋力がないと年取ってからが心配ですよ」
「そ、そんなに、ひどい、かな。これでも、最近は、まい、にち、筋トレ、がんばって、いるけど」
走らされすぎてヘトヘトに疲れているので息切れする。
グラウンドの隅で倒れている私の横に膝をつきながら見下ろすレイモンドは、水の入ったボトルを渡してくれた。
「……そうですね。初日に比べればいくらかマシです。ただ、あなたは訓練についてこられないので別メニューですし、私はそんなあなたのために自分の訓練がおろそかになっています。早くみんなと同じ訓練ができるようになってほしいですね」
「……それは、すまない」
レイモンドは騎士コースの最優秀者だ。そのせいで、教師に頼まれて私の専属というような立場で訓練をみてくれている。
嫌味なことをいいつつも、細かく気を配り厳しく教えてくれるので、私は彼に教える才能を感じている。
教師たちも、彼のそういう才能を伸ばすために私につけたのかもしれない。
BLゲームのキャラクター紹介には『白の騎士』という煽り文句がついていた。現にこの学園でも白の騎士と影で呼ばれている。
……すると、私も影で悪役令息と呼ばれているかもしれない……。
こういうことは、さすがに本人の耳にはなかなかはいらないものだ。
「息が整ってきたなら、次の訓練にはいりましょうか」
「……時間は有限だからな」
「それはそうですが、筋肉を休ませるのも鍛えるうえで重要です。次は軽めに縄跳びをしましょうか」
縄跳びが軽めかどうかという異論は無視だ。
凛とした立ち振る舞いと、嫌味を言いつつも清廉潔白な人柄は、たしかに白を連想させる。
ちなみに『黒の騎士』もゲームに出てくるが、彼が出るのは学年が上がってからだ。平民から叙爵して編入してくる青年が『黒の騎士』と呼ばれる。
キャラクターの人気ランキング的には、清廉潔白な『白の騎士』より、野生的な『黒の騎士』のほうが人気だった。
可哀想なので、私は心の中ではこの師匠推しとなろう。
縄を準備するレイモンドは、チラリとうかがうように私を見た。
「……あなたの時間はよほど有限なようですね。座学で見てきたあなたとは比べ物にならないほど、今は生き急ぐように訓練している。なにかあったんですか?」
訓練中の無駄口は嫌いそうだが、小声で話すところをみると周りへの配慮が感じられる。
私もこの師匠には早めに伝えておくべきか、と小声で返した。
「もうすぐ戦地へ行くつもりだ。それまでに体裁を整えたい」
「は?! 戦地?!」
「戦地とは言っても、父上の領地に行くというだけだ。父の領地のうち、隣国との国境に面した場所で小競り合いのような衝突が起こっている。近々侵略を受けるだろう。兄とともにそこへ行くつもりで父上にかけあっている」
「そんな……。あなたは未来の王妃です。王太子の婚約者じゃないですか。そんな危険な行動をするべきじゃない」
レイモンドは真剣な表情で、その目が少し怒りを帯びて光っている。本気で身を案じている様子に、私は少し笑った。
私が悪役令息で婚約破棄されるのが怖いから、なんて言ったら、冗談で馬鹿にされたと鉄拳制裁を受けそうだ。
「詳しくは言えない。でも、私はこの学園から離れたいんだ。戦地で死ぬなら本望だ。できる限りの死力を尽くして国に貢献したい。今の私はそんな無鉄砲な気持ちなんだ。どうせ王妃の代わりはいる。私は誰に止められても戦地へ行くつもりだ」
「本当に……なにがあったんですか。王太子に手篭めにされたとか? 彼のそばにいたくない?」
「ん……、そんなところだ」
ふたつ目の問いについて答えたつもりだったが、レイモンドは怒りの表情で縄を引き絞っている。王太子に手篭めにされたと思ってしまったかもしれない。
まぁ、彼が王太子に手を出すことはないだろうし、言い訳も面倒なのでそのままにしておく。
同情した師匠がもう少しやさしく訓練してくれるかもしれないし。
「それでは……戦場で通用するように叩き込みましょう。今のペースでは1年程度はかかります。訓練を3倍の強度に増やしましょう!」
前言撤回。訓練で死ぬかもしれない。
学園にいる一目置かれた存在について、だ。
良い意味で注目を集める存在と、悪い意味で注目を集める存在がいる。ただ、誰もが種類の違うイケメン揃いだ。つまりBLゲームの攻略対象者だ。
今世の記憶だけなら、特に人の美醜に興味のなかった私にとっては「ふ~ん」という感想しかなかった。
前世の記憶を合わせると「さすが、女受けするイケメンを豊富に取り揃えてんだな」と思ってしまう。おっと、前世の口調が漏れてしまった。
前世の記憶を基準にすると、この世界は美男美女率が高いと思う。ヨーロッパ基準の容姿と考えてもそれを上回る美男美女率だ。
ただ、攻略対象者はその基準をさらに引き上げる美男揃いである。あらためて見ると、攻略対象者だけが浮き上がって見えるほどだ。
BLゲームの世界なんだから当たり前か。
そのひとりであるレイモンドにしごかれながら、私は『騎士コース』で筋トレ中だ。
「ベネ様は魔法適正が高く、魔法操作も柔軟なのであえて魔法の勉強は必要ありませんが、根本的に体力がありませんね……。魔法士になるにしても王妃になるにしても、もう少し体力と筋力がないと年取ってからが心配ですよ」
「そ、そんなに、ひどい、かな。これでも、最近は、まい、にち、筋トレ、がんばって、いるけど」
走らされすぎてヘトヘトに疲れているので息切れする。
グラウンドの隅で倒れている私の横に膝をつきながら見下ろすレイモンドは、水の入ったボトルを渡してくれた。
「……そうですね。初日に比べればいくらかマシです。ただ、あなたは訓練についてこられないので別メニューですし、私はそんなあなたのために自分の訓練がおろそかになっています。早くみんなと同じ訓練ができるようになってほしいですね」
「……それは、すまない」
レイモンドは騎士コースの最優秀者だ。そのせいで、教師に頼まれて私の専属というような立場で訓練をみてくれている。
嫌味なことをいいつつも、細かく気を配り厳しく教えてくれるので、私は彼に教える才能を感じている。
教師たちも、彼のそういう才能を伸ばすために私につけたのかもしれない。
BLゲームのキャラクター紹介には『白の騎士』という煽り文句がついていた。現にこの学園でも白の騎士と影で呼ばれている。
……すると、私も影で悪役令息と呼ばれているかもしれない……。
こういうことは、さすがに本人の耳にはなかなかはいらないものだ。
「息が整ってきたなら、次の訓練にはいりましょうか」
「……時間は有限だからな」
「それはそうですが、筋肉を休ませるのも鍛えるうえで重要です。次は軽めに縄跳びをしましょうか」
縄跳びが軽めかどうかという異論は無視だ。
凛とした立ち振る舞いと、嫌味を言いつつも清廉潔白な人柄は、たしかに白を連想させる。
ちなみに『黒の騎士』もゲームに出てくるが、彼が出るのは学年が上がってからだ。平民から叙爵して編入してくる青年が『黒の騎士』と呼ばれる。
キャラクターの人気ランキング的には、清廉潔白な『白の騎士』より、野生的な『黒の騎士』のほうが人気だった。
可哀想なので、私は心の中ではこの師匠推しとなろう。
縄を準備するレイモンドは、チラリとうかがうように私を見た。
「……あなたの時間はよほど有限なようですね。座学で見てきたあなたとは比べ物にならないほど、今は生き急ぐように訓練している。なにかあったんですか?」
訓練中の無駄口は嫌いそうだが、小声で話すところをみると周りへの配慮が感じられる。
私もこの師匠には早めに伝えておくべきか、と小声で返した。
「もうすぐ戦地へ行くつもりだ。それまでに体裁を整えたい」
「は?! 戦地?!」
「戦地とは言っても、父上の領地に行くというだけだ。父の領地のうち、隣国との国境に面した場所で小競り合いのような衝突が起こっている。近々侵略を受けるだろう。兄とともにそこへ行くつもりで父上にかけあっている」
「そんな……。あなたは未来の王妃です。王太子の婚約者じゃないですか。そんな危険な行動をするべきじゃない」
レイモンドは真剣な表情で、その目が少し怒りを帯びて光っている。本気で身を案じている様子に、私は少し笑った。
私が悪役令息で婚約破棄されるのが怖いから、なんて言ったら、冗談で馬鹿にされたと鉄拳制裁を受けそうだ。
「詳しくは言えない。でも、私はこの学園から離れたいんだ。戦地で死ぬなら本望だ。できる限りの死力を尽くして国に貢献したい。今の私はそんな無鉄砲な気持ちなんだ。どうせ王妃の代わりはいる。私は誰に止められても戦地へ行くつもりだ」
「本当に……なにがあったんですか。王太子に手篭めにされたとか? 彼のそばにいたくない?」
「ん……、そんなところだ」
ふたつ目の問いについて答えたつもりだったが、レイモンドは怒りの表情で縄を引き絞っている。王太子に手篭めにされたと思ってしまったかもしれない。
まぁ、彼が王太子に手を出すことはないだろうし、言い訳も面倒なのでそのままにしておく。
同情した師匠がもう少しやさしく訓練してくれるかもしれないし。
「それでは……戦場で通用するように叩き込みましょう。今のペースでは1年程度はかかります。訓練を3倍の強度に増やしましょう!」
前言撤回。訓練で死ぬかもしれない。
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