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6章 再生
50.金色の目 sideレオン
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再び目を覚ましたとき、レオンの気分は最悪だった。
そばにいたのは妖精族のクリストファーだ。レオンの目覚めを待ちながら読んでいた本から顔を上げた。
見覚えのある部屋だと思ったここは、妖精の隠れ里のコテージ だ。
「目が覚めたかい」
「………………ッ! ラシャは?!」
話したくないほどの不快さだが、意識を失う前のラシャを思い出すと背に腹は変えられなかった。
クリストファーは読んでいた本を閉じ、逡巡するように答えない。
「ラシャはどこにいる。さっきまでいたんだろ?」
重ねてたずねるとようやくクリストファーが重い口を開いた。
「しばらく前に魔の島へ帰ったよ。そしてもうここへは当分来ないだろうね。それが10年か30年か、はたまた100年かは神のみぞ知る」
「……どうなってんだ」
レオンの脳裏でずっとグルグルと回っている言葉がある。
『ペット契約解消』
寝入る直前に告げられた言葉はまだ記憶に新しく、レオンの心を凍らせた。
「あいつが……ペット契約は解消だって」
『嫁取りの宴』後、魔の島を出るあたりからラシャの様子がおかしいことには気づいていた。何か気がかりがあるんだろうとは思っていたが。
それはもしかすると、ラシャが精気を取れなくなったからなのかもしれない。
「ラシャが精気を取れなくなったって、どういうことだ?! 俺の精気が枯渇したからか?!」
「元ペットくん、詳しいことは私もわからない。ただ、ラシャの言葉を伝えると、むしろキミの力が増して精気の量が増大したから、ラシャでは精気が取れなくなったようだよ。人間のキミが魔族のラシャを上回る力をつけてしまった……ということさ」
レオンは思い出した。ラシャは自分より弱い生き物から細々と精気を得ると言っていた。
強い生き物には逆に奪われてしまうと。
「そんな……突然強くなるはずがない。だいたい、俺は死にかけて寝込んでいたんだろう? むしろ弱ってんじゃないのか」
「これは……幸せなことだと初めに言っておくよ。キミはこの隠れ里に運び込まれた時、生死の境を彷徨っていた。人を生き返らせるほどの力をもつ『神の涙』を使ったとしても、呼吸させるのがやっとで目覚めない有様だった。キミが半年寝ているあいだにラシャは色々と手を打ったがどうしても目覚めなかった。だからラシャは決断したんだ」
クリストファーは作業台に置いてあった鏡を持ってきた。
「右目の包帯をとってごらん」
鏡を手にして顔の包帯をむしり取ると、鏡に映る顔の違和感にすぐ気づく。
「なんだ……これは! この金色の目は――」
「ラシャの目を移植したんだ。キミの右目は無惨にえぐられて使い物にならなくなっていたから取り除かせてもらった」
ラシャの金色の目がレオンの右目に収まっていた。
ラシャの目として収まっていた時は、ライオンのようにギラついたり、蜂蜜のようにとろけるようだった目が、レオンの顔におさまると冷たい色しかうつさない。
ただ、その右目もちゃんと見えていることは驚異的だ。
右目の周りは額から頰まで続く傷跡が生々しく残っていた。
自分の目がある場所にラシャの目が収まる異様な有様にレオンはゾッとした。
「ラシャの目には精気の器のような役割があるらしい。キミにそれを移植することでキミの器が増大し、もともと人間離れしていたキミが完全に規格外になった」
「目を移植した……から?」
「魔物から人に力を授ける話は伝説級ならたまにあるよ。南方諸国に住む人魚は、人間に自分の肉を差し出して長寿を与えるというし。ラシャは精気をあやつる淫魔だから、その目を与えられて人間の精気量が増えるっていうのもありえる話だ。……とはいえ、キミに移植することは全部ラシャの推測で推し進めたんだけど」
「俺の許可なくか」
レオンはクリストファーを睨むが、相手は意にも介さず鼻で笑った。
「キミは寝ていたからねぇ。それにペットだから決定権はご主人様にある。当たり前だろ?」
「おまえらが止めていれば!」
「もちろん止めたさ。でも半年寝ているキミに手を尽くして八方塞がりの彼を見ていると……ごめんだけど力を貸してしまったね。それに結局、キミに目を移植して、何度もラシャが精気を注ぎ込んだら死にかけていたキミが目覚めた。精気は魔法を使うのにも必要だが、体を動かすのにも必要……だったか? 目覚めないキミは精気量が増えると目覚めた。ラシャは博打に勝ったんだよ」
「……精気を注ぐ?」
ラシャを最後に見た時、彼は寝ていたレオンのモノを自ら咥え込んでいた。
その時は寝込みに襲われたのかと思ったが、……ラシャは目覚めないレオンに精気を注ぎ込んでいたのかもしれない。
目覚めてからもラシャにねだられて精気を奪う行為をした。
それも全部、レオンに精気を渡すためだったのか。
「この辺りの花畑がいくつか滅んだよ……。キミに注ぎ込むための精気を花から取らないといけなくて、ラシャは大量の花を消費していたからね」
レオンは献身的なラシャの行動を知った。でも、そこまでしておきながら、今そばにいないことが理解できない。
「なんで……精気は取れなくても……連れて行ってくれないんだ! ずっと……そばにいるって……言ったのに……」
「それは本当のところ、ラシャにしかわからないけど……私の推測では魔族と人間の戦争のせいじゃないかな。けっこう悩んでいる様子はあったし」
「戦争……?」
クリストファーがレオンにシワのついた薄紙を渡してきた。その紙には細かい字と共に大きく、『残虐非道な魔族からの解放を』と書いてあった。
そばにいたのは妖精族のクリストファーだ。レオンの目覚めを待ちながら読んでいた本から顔を上げた。
見覚えのある部屋だと思ったここは、妖精の隠れ里のコテージ だ。
「目が覚めたかい」
「………………ッ! ラシャは?!」
話したくないほどの不快さだが、意識を失う前のラシャを思い出すと背に腹は変えられなかった。
クリストファーは読んでいた本を閉じ、逡巡するように答えない。
「ラシャはどこにいる。さっきまでいたんだろ?」
重ねてたずねるとようやくクリストファーが重い口を開いた。
「しばらく前に魔の島へ帰ったよ。そしてもうここへは当分来ないだろうね。それが10年か30年か、はたまた100年かは神のみぞ知る」
「……どうなってんだ」
レオンの脳裏でずっとグルグルと回っている言葉がある。
『ペット契約解消』
寝入る直前に告げられた言葉はまだ記憶に新しく、レオンの心を凍らせた。
「あいつが……ペット契約は解消だって」
『嫁取りの宴』後、魔の島を出るあたりからラシャの様子がおかしいことには気づいていた。何か気がかりがあるんだろうとは思っていたが。
それはもしかすると、ラシャが精気を取れなくなったからなのかもしれない。
「ラシャが精気を取れなくなったって、どういうことだ?! 俺の精気が枯渇したからか?!」
「元ペットくん、詳しいことは私もわからない。ただ、ラシャの言葉を伝えると、むしろキミの力が増して精気の量が増大したから、ラシャでは精気が取れなくなったようだよ。人間のキミが魔族のラシャを上回る力をつけてしまった……ということさ」
レオンは思い出した。ラシャは自分より弱い生き物から細々と精気を得ると言っていた。
強い生き物には逆に奪われてしまうと。
「そんな……突然強くなるはずがない。だいたい、俺は死にかけて寝込んでいたんだろう? むしろ弱ってんじゃないのか」
「これは……幸せなことだと初めに言っておくよ。キミはこの隠れ里に運び込まれた時、生死の境を彷徨っていた。人を生き返らせるほどの力をもつ『神の涙』を使ったとしても、呼吸させるのがやっとで目覚めない有様だった。キミが半年寝ているあいだにラシャは色々と手を打ったがどうしても目覚めなかった。だからラシャは決断したんだ」
クリストファーは作業台に置いてあった鏡を持ってきた。
「右目の包帯をとってごらん」
鏡を手にして顔の包帯をむしり取ると、鏡に映る顔の違和感にすぐ気づく。
「なんだ……これは! この金色の目は――」
「ラシャの目を移植したんだ。キミの右目は無惨にえぐられて使い物にならなくなっていたから取り除かせてもらった」
ラシャの金色の目がレオンの右目に収まっていた。
ラシャの目として収まっていた時は、ライオンのようにギラついたり、蜂蜜のようにとろけるようだった目が、レオンの顔におさまると冷たい色しかうつさない。
ただ、その右目もちゃんと見えていることは驚異的だ。
右目の周りは額から頰まで続く傷跡が生々しく残っていた。
自分の目がある場所にラシャの目が収まる異様な有様にレオンはゾッとした。
「ラシャの目には精気の器のような役割があるらしい。キミにそれを移植することでキミの器が増大し、もともと人間離れしていたキミが完全に規格外になった」
「目を移植した……から?」
「魔物から人に力を授ける話は伝説級ならたまにあるよ。南方諸国に住む人魚は、人間に自分の肉を差し出して長寿を与えるというし。ラシャは精気をあやつる淫魔だから、その目を与えられて人間の精気量が増えるっていうのもありえる話だ。……とはいえ、キミに移植することは全部ラシャの推測で推し進めたんだけど」
「俺の許可なくか」
レオンはクリストファーを睨むが、相手は意にも介さず鼻で笑った。
「キミは寝ていたからねぇ。それにペットだから決定権はご主人様にある。当たり前だろ?」
「おまえらが止めていれば!」
「もちろん止めたさ。でも半年寝ているキミに手を尽くして八方塞がりの彼を見ていると……ごめんだけど力を貸してしまったね。それに結局、キミに目を移植して、何度もラシャが精気を注ぎ込んだら死にかけていたキミが目覚めた。精気は魔法を使うのにも必要だが、体を動かすのにも必要……だったか? 目覚めないキミは精気量が増えると目覚めた。ラシャは博打に勝ったんだよ」
「……精気を注ぐ?」
ラシャを最後に見た時、彼は寝ていたレオンのモノを自ら咥え込んでいた。
その時は寝込みに襲われたのかと思ったが、……ラシャは目覚めないレオンに精気を注ぎ込んでいたのかもしれない。
目覚めてからもラシャにねだられて精気を奪う行為をした。
それも全部、レオンに精気を渡すためだったのか。
「この辺りの花畑がいくつか滅んだよ……。キミに注ぎ込むための精気を花から取らないといけなくて、ラシャは大量の花を消費していたからね」
レオンは献身的なラシャの行動を知った。でも、そこまでしておきながら、今そばにいないことが理解できない。
「なんで……精気は取れなくても……連れて行ってくれないんだ! ずっと……そばにいるって……言ったのに……」
「それは本当のところ、ラシャにしかわからないけど……私の推測では魔族と人間の戦争のせいじゃないかな。けっこう悩んでいる様子はあったし」
「戦争……?」
クリストファーがレオンにシワのついた薄紙を渡してきた。その紙には細かい字と共に大きく、『残虐非道な魔族からの解放を』と書いてあった。
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