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6章 再生
48.「おはよう、レオン」 sideレオン
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レオンは気配を消しながら侍女の後を追っていた。
侍女が大きな扉の部屋へ入る。その後に続くか一瞬迷ったが、レオンは扉の中へ入った。
部屋は広い倉庫のようだった。古びた絵画もあれば、甲冑などもあり、うっすら埃が積もった部屋の中は雑然としている。
宝物庫というには物の扱いが悪いので、不要な物を放り込む倉庫なのだろう。
その倉庫の中央、物のあまり置いていない場所で、腕を組んだ美女がレオンを見て不敵に笑っていた。
「こんなところに潜り込んでいるとは、驚いたぞ、レオン」
レオンも相手に気づかれているのはわかっていたので驚きはない。
「裏社会のボスが、こんなところで侍女の真似事とは俺も驚いた」
「はは、なんだ? 魔法封じの呪印を施したと聞いたが、ペラペラとしゃべるじゃないか」
さっきまでの落ち着いた侍女の様子はなくなり、酷薄な笑みを浮かべながらケラケラと笑った。
レオンの所属していた裏社会のボスは、名前を明かさない片目の男だった。
今は美女のふりをしているが、体つきや声、手袋に隠されていても手の骨格を見ればレオンは男だと判別できた。
「こんな帝城に裏社会のボスが潜り込んでいるなんて、案外警備の緩いところなんだな」
「ここに住むのも長い。居心地が良くて俺は侍女が本業の気がするほどだ。副業のほうの獣のような部下が噛み付いてきたら、面倒でさっさと処分したくもなる」
獣のような部下とはレオンのことだろう。
その女装のボスは、目をギラギラ光らせて、手袋の先をギリッと噛んだ。
「魔法を封じれば、奴隷としてまだ使えるとバルトロメに止められたが……、こうして目の前にすると、やはり殺しておけば良かったと思うよ。まさか逃亡奴隷になって封印まで消して、再び俺の前に現れるとはね」
レオンの師匠の名前を出して後悔する男に、レオンは不敵に笑う。
「俺も、もっと早くあんたとバルトロメを殺していれば、こんな苦労はしなかったのに、と思うよ」
ただ、そう言いながらも、レオンはラシャのペットになったことに後悔はない。不幸中の幸い、良い巡り合わせをくれた敵でもあった。
ただ、また会えた今、もう存在の必要ない敵にはさっさと引導を渡してやろうと誓う。
「魔法が使えるからといって、俺を簡単に殺せるとは思うなよ」
レオンがナイフを引き抜くと、ボスの姿がボヤけた。
「幻影使いか」
部屋に散らばる物に紛れるように、ボスが何人もいるような錯覚がある。
レオンの脳にも作用するような幻覚を振りはらい、影から繰り出される攻撃を弾いた。
帝城の埃っぽい倉庫の中で、静かに戦いの火蓋が切って落とされた。
レオンは宿に戻った。まだラシャは戻っていなかった。
マントで全身を覆っても、濃い血の匂いが漏れていた。町を歩いたときには、その匂いにつられた何人かと目があったくらいだ。
裏社会のボスとの戦いは熾烈を極めた。お互いに血みどろになりながらも、最後はレオンが勝利した。
途中、心臓を差し貫かれそうになった時に、死を覚悟した。
だが、それはラシャから譲り受けたペットの首輪に仕込まれた護符によって回避された。
死の危険を一度回避できる護符はその衝撃に首輪はねじ切れ、ゴミのようにボロボロになった。
護符のおかげでギリギリ生き残ったが、それでも傷は深い。
もともと荒れていた倉庫はさらに物が散らばり、壊れた甲冑が転がる中で、侍女だった男の死体も転がった。
血飛沫が飛び、深い傷跡を残す死体を見れば、明らかな戦いの跡だとわかるだろう。跡をを残していけば、殺した人間がいることはすぐに知れる。
だが、レオンも戦いの最中にそれを取り繕う余裕はなかった。
レオンは最後の力を振り絞って帝城を抜け出すと、宿に戻った。
体に残る傷も深かったが、顔に受けた傷が特に痛みと熱を持ち、レオンは意識が朦朧とした。
止血に布を巻いていたが、それももう血で赤く染まっている。
顎にたれるのものを汗かと思って拭ったら、ベットリと血が腕についた。
いよいよダメな気がしてきた。
だが、ラシャには帰ると言って出た。それだけに、意地でも最期にひと目見ていきたかった。
「ラシャ………………」
レオンは扉が開く音に顔を上げた。
出会った時と変わらないラシャの顔が見える。
艶のある黒髪が頰をなで、金色の目が涼しげにきらめく。
その金色の目が大きく見開いた。
レオン、と名を呼ばれた気がしたが、そのまま意識が途切れた。
次にレオンが意識を取り戻した時、見覚えのある天井を背に、ラシャの顔が見えた。
「俺はまた生き延びたのか」
「おはよう、レオン」
ラシャはやつれた顔ながらも、喜びの笑みを浮かべていた。
ラシャの顔の右半分には何故か包帯が巻かれている。
「ん……、これは……? 大丈夫なのか」
「俺よりもレオンのほうが大変だったんだ。ずっと目が覚めなかった。でも意識が戻って良かったよ」
包帯も気になったが、なんでもないように笑うラシャの下半身が、レオンのモノと繋がっているのも大変気になった。
「俺は……寝込みを襲われたのか?」
ラシャはにっこり笑った。
侍女が大きな扉の部屋へ入る。その後に続くか一瞬迷ったが、レオンは扉の中へ入った。
部屋は広い倉庫のようだった。古びた絵画もあれば、甲冑などもあり、うっすら埃が積もった部屋の中は雑然としている。
宝物庫というには物の扱いが悪いので、不要な物を放り込む倉庫なのだろう。
その倉庫の中央、物のあまり置いていない場所で、腕を組んだ美女がレオンを見て不敵に笑っていた。
「こんなところに潜り込んでいるとは、驚いたぞ、レオン」
レオンも相手に気づかれているのはわかっていたので驚きはない。
「裏社会のボスが、こんなところで侍女の真似事とは俺も驚いた」
「はは、なんだ? 魔法封じの呪印を施したと聞いたが、ペラペラとしゃべるじゃないか」
さっきまでの落ち着いた侍女の様子はなくなり、酷薄な笑みを浮かべながらケラケラと笑った。
レオンの所属していた裏社会のボスは、名前を明かさない片目の男だった。
今は美女のふりをしているが、体つきや声、手袋に隠されていても手の骨格を見ればレオンは男だと判別できた。
「こんな帝城に裏社会のボスが潜り込んでいるなんて、案外警備の緩いところなんだな」
「ここに住むのも長い。居心地が良くて俺は侍女が本業の気がするほどだ。副業のほうの獣のような部下が噛み付いてきたら、面倒でさっさと処分したくもなる」
獣のような部下とはレオンのことだろう。
その女装のボスは、目をギラギラ光らせて、手袋の先をギリッと噛んだ。
「魔法を封じれば、奴隷としてまだ使えるとバルトロメに止められたが……、こうして目の前にすると、やはり殺しておけば良かったと思うよ。まさか逃亡奴隷になって封印まで消して、再び俺の前に現れるとはね」
レオンの師匠の名前を出して後悔する男に、レオンは不敵に笑う。
「俺も、もっと早くあんたとバルトロメを殺していれば、こんな苦労はしなかったのに、と思うよ」
ただ、そう言いながらも、レオンはラシャのペットになったことに後悔はない。不幸中の幸い、良い巡り合わせをくれた敵でもあった。
ただ、また会えた今、もう存在の必要ない敵にはさっさと引導を渡してやろうと誓う。
「魔法が使えるからといって、俺を簡単に殺せるとは思うなよ」
レオンがナイフを引き抜くと、ボスの姿がボヤけた。
「幻影使いか」
部屋に散らばる物に紛れるように、ボスが何人もいるような錯覚がある。
レオンの脳にも作用するような幻覚を振りはらい、影から繰り出される攻撃を弾いた。
帝城の埃っぽい倉庫の中で、静かに戦いの火蓋が切って落とされた。
レオンは宿に戻った。まだラシャは戻っていなかった。
マントで全身を覆っても、濃い血の匂いが漏れていた。町を歩いたときには、その匂いにつられた何人かと目があったくらいだ。
裏社会のボスとの戦いは熾烈を極めた。お互いに血みどろになりながらも、最後はレオンが勝利した。
途中、心臓を差し貫かれそうになった時に、死を覚悟した。
だが、それはラシャから譲り受けたペットの首輪に仕込まれた護符によって回避された。
死の危険を一度回避できる護符はその衝撃に首輪はねじ切れ、ゴミのようにボロボロになった。
護符のおかげでギリギリ生き残ったが、それでも傷は深い。
もともと荒れていた倉庫はさらに物が散らばり、壊れた甲冑が転がる中で、侍女だった男の死体も転がった。
血飛沫が飛び、深い傷跡を残す死体を見れば、明らかな戦いの跡だとわかるだろう。跡をを残していけば、殺した人間がいることはすぐに知れる。
だが、レオンも戦いの最中にそれを取り繕う余裕はなかった。
レオンは最後の力を振り絞って帝城を抜け出すと、宿に戻った。
体に残る傷も深かったが、顔に受けた傷が特に痛みと熱を持ち、レオンは意識が朦朧とした。
止血に布を巻いていたが、それももう血で赤く染まっている。
顎にたれるのものを汗かと思って拭ったら、ベットリと血が腕についた。
いよいよダメな気がしてきた。
だが、ラシャには帰ると言って出た。それだけに、意地でも最期にひと目見ていきたかった。
「ラシャ………………」
レオンは扉が開く音に顔を上げた。
出会った時と変わらないラシャの顔が見える。
艶のある黒髪が頰をなで、金色の目が涼しげにきらめく。
その金色の目が大きく見開いた。
レオン、と名を呼ばれた気がしたが、そのまま意識が途切れた。
次にレオンが意識を取り戻した時、見覚えのある天井を背に、ラシャの顔が見えた。
「俺はまた生き延びたのか」
「おはよう、レオン」
ラシャはやつれた顔ながらも、喜びの笑みを浮かべていた。
ラシャの顔の右半分には何故か包帯が巻かれている。
「ん……、これは……? 大丈夫なのか」
「俺よりもレオンのほうが大変だったんだ。ずっと目が覚めなかった。でも意識が戻って良かったよ」
包帯も気になったが、なんでもないように笑うラシャの下半身が、レオンのモノと繋がっているのも大変気になった。
「俺は……寝込みを襲われたのか?」
ラシャはにっこり笑った。
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