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5章 嫁取りの宴
44.干からびる
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「干からびて死ぬ」
ラシャとしては、少し大袈裟に言っているところはある。結局、試してみないことにはわからないからだ。
ただ、死ぬ危険をともなってまで試したい相手でもない。
「まて……でもおまえは……淫乱って噂で……魔族を相手に奔放な性生活を…………」
「どこから流れている噂か知らないけど、それは事実ではないな。俺は魔族を相手にしたことはない。パーティで言い寄ってくる輩も全て断っているのに、何故かそんな噂が流れているんだ」
ブレーズが驚きで息もできないのかパクパクあえいだ。
「……フェルディナンは愛人だって」
「それはフェルディナンがいったのか? それなら、からかわれただけだろ。フェルディナンともキス以上のことはしていない」
ブレーズは驚愕の表情を浮かべて固まっている。
ラシャは憐れみの目でブレーズを見ていた。
「ブレーズは勘違いしていたんだ。可哀想だけど、俺を殺す気がないならもう引けよ」
「………………わかった。おまえをヤリ殺して、俺も死のう」
「意地を張るな。戦場で死ぬのが名誉な魔族が腹上死って、笑い者どころじゃないだろ」
ブレーズがベッドに突っ伏して震えている。顔は見えないが、激しい葛藤があるようだった。
ブレーズの考えがまとまる前に逃げようと、ラシャは気づかれる前に枕元の花束の精気を吸い尽くした。
その時、ラシャは遠くの喧騒に気づいた。
「なんだ?」
ラシャの疑問の声に、ブレーズも喧騒に気づいたのか顔を上げる。とたんに、いつもの鋭い目に戻ったブレーズは、少し口角をあげた。
「フェルディナンがおまえを助けに来たか」
「なに?」
「裏で動いているのは知っていた。今夜この離宮を制圧しておまえを取り戻そうと精鋭を集めていたんだ。今夜のディナーパーティも見ものだったな。フェルディナンの取り巻きどもの殺る気満々の顔ときたら」
ブレーズが戦闘狂の宿る目をして含み笑いする。
ラシャはフェルディナンの横にいるレオンの姿を想像して、少しホッとした。
レオンが助けに来ないはずがないんだ。突然いなくなったラシャをそのままにするはずがない。
「でも、誤解だったんだ。もう解放してくれていいだろ?」
「なにを馬鹿なことを。戦いの勝者に捧げられるトロフィーがおまえだ。解放したら戦いの意味がなくなるだろうが」
頭がこんがらがってくる。ラシャのために戦うのか、戦う口実にラシャが必要なのか。
「その馬鹿げた戦いのトロフィーは俺が貰う」
突如聞こえた第三者の声に聞き覚えがあった。
「レオン!」
ラシャはその姿を探して扉を振り返るが、そこには誰もいない。
不意に影が降ってきた。
影はブレーズの肩の上に肩車のようにのしかかると、ブレーズの頭を抱き込み固定した。
薄暗がりの中、その影がレオンだとラシャは気づいた。
「レオン?!」
「ッ?!」
頭を抱え込まれたブレーズはとっさのことに動けなかったようだ。
「動くなよ。あんたのツノが折れるぞ」
ラシャに貰った切れ味の良いナイフがブレーズのツノの根元にあてられている。
「その手で俺を引き裂いても良いが、その代わりにあんたのツノを貰っていくぞ」
「人間風情が大きな口を叩くな。そう簡単に俺のツノが折れるか!」
「たしかに、試してみなきゃわからんな」
レオンがそう言い、ツノに当てたナイフをギコギコ動かした。
とたんにブレーズは苦悶の表情を浮かべる。
「う……うぅ……」
「さすが魔族のツノは硬いな。でも……切れないことはなさそうだ」
レオンから、本当にツノを落としてしまいそうな気迫を感じる。
「く、くそっ! 貴様、どこからきた! フェルディナンが攻めてきたのはついさっきだろう!」
「俺は裏から忍び込んできた。別に結界とか罠とかないんだな。ここまでくるのも簡単なもんだった」
「この卑怯者が! 裏から忍び込んで、あげくに背後からとりついてツノを人質にするなどけしからん! 正々堂々と戦え!」
「それは魔族の流儀だろ。俺の流儀ではないな。人間はどんな手を使ってでも勝ったものが正義なんだよ」
レオンが正義とは思えない悪辣な顔でニヤリと笑った。
「おまえのツノを落として、苦しみ悶えている隙に、ラシャをさらって逃げようかな」
またレオンのナイフを持つ手に力がこもる。
さすがに本気でツノを落とすのはまずいと、ラシャは慌てて止めに入った。
「レオン! ちょっとストップ! ブレーズ、もういいだろ? 人間に魔族の道理を解いても仕方がないってことはわかるだろう?」
「しかし、こんな……」
「それに! もうおまえの願いが叶わないってことも……諦めるしかないってわかってるんだろ?」
「………………」
ブレーズが押し黙った。
しばらく逡巡したのち、項垂れたブレーズが小さな声を出す。
「人間、離れろ」
ラシャに合図されて、レオンは渋々ブレーズから降りた。
「ラシャ……」
なにか言いたそうにしながら口ごもり、ブレーズはそれ以降、何も言わず背を向けた。
部屋を出て行くブレーズの背をベッドの上で見送り、ラシャはレオンを疲れた顔で見る。
「レオン……精気がほとんどなくて動けないんだ。キスして」
ベッドに横たわったまま、レオンを求めると、すぐに口づけられた。
レオンから甘い精気が流れ込み、心臓が熱く動き出すのがわかった。
ラシャとしては、少し大袈裟に言っているところはある。結局、試してみないことにはわからないからだ。
ただ、死ぬ危険をともなってまで試したい相手でもない。
「まて……でもおまえは……淫乱って噂で……魔族を相手に奔放な性生活を…………」
「どこから流れている噂か知らないけど、それは事実ではないな。俺は魔族を相手にしたことはない。パーティで言い寄ってくる輩も全て断っているのに、何故かそんな噂が流れているんだ」
ブレーズが驚きで息もできないのかパクパクあえいだ。
「……フェルディナンは愛人だって」
「それはフェルディナンがいったのか? それなら、からかわれただけだろ。フェルディナンともキス以上のことはしていない」
ブレーズは驚愕の表情を浮かべて固まっている。
ラシャは憐れみの目でブレーズを見ていた。
「ブレーズは勘違いしていたんだ。可哀想だけど、俺を殺す気がないならもう引けよ」
「………………わかった。おまえをヤリ殺して、俺も死のう」
「意地を張るな。戦場で死ぬのが名誉な魔族が腹上死って、笑い者どころじゃないだろ」
ブレーズがベッドに突っ伏して震えている。顔は見えないが、激しい葛藤があるようだった。
ブレーズの考えがまとまる前に逃げようと、ラシャは気づかれる前に枕元の花束の精気を吸い尽くした。
その時、ラシャは遠くの喧騒に気づいた。
「なんだ?」
ラシャの疑問の声に、ブレーズも喧騒に気づいたのか顔を上げる。とたんに、いつもの鋭い目に戻ったブレーズは、少し口角をあげた。
「フェルディナンがおまえを助けに来たか」
「なに?」
「裏で動いているのは知っていた。今夜この離宮を制圧しておまえを取り戻そうと精鋭を集めていたんだ。今夜のディナーパーティも見ものだったな。フェルディナンの取り巻きどもの殺る気満々の顔ときたら」
ブレーズが戦闘狂の宿る目をして含み笑いする。
ラシャはフェルディナンの横にいるレオンの姿を想像して、少しホッとした。
レオンが助けに来ないはずがないんだ。突然いなくなったラシャをそのままにするはずがない。
「でも、誤解だったんだ。もう解放してくれていいだろ?」
「なにを馬鹿なことを。戦いの勝者に捧げられるトロフィーがおまえだ。解放したら戦いの意味がなくなるだろうが」
頭がこんがらがってくる。ラシャのために戦うのか、戦う口実にラシャが必要なのか。
「その馬鹿げた戦いのトロフィーは俺が貰う」
突如聞こえた第三者の声に聞き覚えがあった。
「レオン!」
ラシャはその姿を探して扉を振り返るが、そこには誰もいない。
不意に影が降ってきた。
影はブレーズの肩の上に肩車のようにのしかかると、ブレーズの頭を抱き込み固定した。
薄暗がりの中、その影がレオンだとラシャは気づいた。
「レオン?!」
「ッ?!」
頭を抱え込まれたブレーズはとっさのことに動けなかったようだ。
「動くなよ。あんたのツノが折れるぞ」
ラシャに貰った切れ味の良いナイフがブレーズのツノの根元にあてられている。
「その手で俺を引き裂いても良いが、その代わりにあんたのツノを貰っていくぞ」
「人間風情が大きな口を叩くな。そう簡単に俺のツノが折れるか!」
「たしかに、試してみなきゃわからんな」
レオンがそう言い、ツノに当てたナイフをギコギコ動かした。
とたんにブレーズは苦悶の表情を浮かべる。
「う……うぅ……」
「さすが魔族のツノは硬いな。でも……切れないことはなさそうだ」
レオンから、本当にツノを落としてしまいそうな気迫を感じる。
「く、くそっ! 貴様、どこからきた! フェルディナンが攻めてきたのはついさっきだろう!」
「俺は裏から忍び込んできた。別に結界とか罠とかないんだな。ここまでくるのも簡単なもんだった」
「この卑怯者が! 裏から忍び込んで、あげくに背後からとりついてツノを人質にするなどけしからん! 正々堂々と戦え!」
「それは魔族の流儀だろ。俺の流儀ではないな。人間はどんな手を使ってでも勝ったものが正義なんだよ」
レオンが正義とは思えない悪辣な顔でニヤリと笑った。
「おまえのツノを落として、苦しみ悶えている隙に、ラシャをさらって逃げようかな」
またレオンのナイフを持つ手に力がこもる。
さすがに本気でツノを落とすのはまずいと、ラシャは慌てて止めに入った。
「レオン! ちょっとストップ! ブレーズ、もういいだろ? 人間に魔族の道理を解いても仕方がないってことはわかるだろう?」
「しかし、こんな……」
「それに! もうおまえの願いが叶わないってことも……諦めるしかないってわかってるんだろ?」
「………………」
ブレーズが押し黙った。
しばらく逡巡したのち、項垂れたブレーズが小さな声を出す。
「人間、離れろ」
ラシャに合図されて、レオンは渋々ブレーズから降りた。
「ラシャ……」
なにか言いたそうにしながら口ごもり、ブレーズはそれ以降、何も言わず背を向けた。
部屋を出て行くブレーズの背をベッドの上で見送り、ラシャはレオンを疲れた顔で見る。
「レオン……精気がほとんどなくて動けないんだ。キスして」
ベッドに横たわったまま、レオンを求めると、すぐに口づけられた。
レオンから甘い精気が流れ込み、心臓が熱く動き出すのがわかった。
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